誰も知らないドイツの町 Unbekannte deutsche Städte(29):★★ハレ(ザーレ)Halle (Saale) -12-

ハレ(ザーレ)Halle (Saale) -11- からの続きです

都市や地域の人のことを、そこの地名を使って呼ぶのはどこの国でも普通にあることで、日本なら「江戸っ子」や「博多っ子」、「浜っ子」とか「ナゴヤン」とか(笑)中国でも「上海人」、「北京人(北京原人は別の意味(笑))」、「パリジャン・パリジェンヌ」・・・ドイツでは地名に「-er/erin」(男性/女性)とするのが基本です。ハンブルクなら Hamburger/Hamburgerin(ハンブルガー/ハンブルガーリン)、ベルリンなら Berliner/Berlinerin(ベルリナー/ベルリナーリン)など・・・Berlinerには「ジャム入り揚げパン」という意味もありますが、その脱線をするとケネディの演説まで話が及んで長くなるので、それはさておき(笑)また、脱線ではなく、この延長には、ハノーファーやヴァイマールなどいろんな小ネタもあるのですが、それらもさておき(笑)

日本は Japan、で日本人は Japaner/Japanerin(ヤパーナー/ヤパーナリン)、で Tokioの住民(東京都民)は Tokioter/Tokioterin(トキオター/トキオターリン)・・・へぇ!じゃ Osaka、Kyotoは?なんてのもさて置き(笑)

ハレの場合は「Halle」と語尾が -e なので Haller/Hallerin(ハラー/ハラーリン)…ではなくて Hallenser/Hallenserin(ハレンザー/ハレンザーリン)となります。

でも同じパターンで、ニーダーザクセン州の Celleの場合は Celler/Cellerin(ツェラー/ツェラーリン)となるようです。なんか規則があるのかな?

そして Halleの場合には Hallenserの他に、更に Hallorenと Hallunken という呼び方もある・・・ここが今回のツボです。

上の画像は、Hallenser、Hallorenと Hallunkenの在り様を比較して描いたと思われる古い絵葉書です。Hallenserは普通のファミリー、Hallorenはちょっと貴族っぽい身なりで棒のような道具を持っているのに対して、Hallunkenは下層階級っぽい酔っ払いオヤジのような3人が描かれています。独語 Wikipediaの「Halunke」という項目をみると、下記のような記述があります

「ロバート・モリッツ(”Halloren-Geschichten”、1904年)は、Hallenser、Halloren、Halunkenについて述べており、これが現在のHalle an der Saaleの住民の分類につながっている。Hallenserはハレで生まれた人、中でも Hallorenは塩労働者のコミュニティメンバーである古くからのHallenser、Halunkenはすべて他所から移ってきた新参者である。他の 、Halunkenとの区別を書体で視覚的にわかるようにするために、Halleに移り住んだ人は Hallunken(lが 2つ)と書かれることが多い。」

Halloren

塩が貴重な産品だった中世の内陸部に於いて、岩塩やそれが溶け出した地下水から製造した塩を産出した都市は栄え、製塩産業を支配する人たちは所謂特権階級とかエリート階層に属していたようです。私が住んでいたニーダーザクセン州リューネブルクもかつては製塩業で栄えた町であり、製塩工場(Saline)の博物館があり、また地下水を過剰に汲み上げた結果、地盤沈下を起こして傾いた家なども残っています。また「地面を転げ回ったイノシシの背中に白い粉が付いていたことから塩を産出する土地だということを発見した」・・・という Salzsau(塩イノシシ)の伝説もあり、そのイノシシの牙とされるものも博物館に展示されていました。製塩に使われる「蒸発皿」の所有者を Sülfmeisterと呼び、町の特権階級で、今でも当時の様子を再現したイベントが開催されています。

ハレに於いても製塩業は重要な産業であったわけですが、ここではそのオーナーよりも、そこで働く労働者達が主役となって、その組合?結社?(Bruderschaft)に属する者たちを Hallorenと呼びならわしていました

独語 Wikipediaによると「製塩業の労働者たちは、ストーブ鍋で塩水を塩にするために「煮沸」した。彼らはその専門知識によって尊敬され、鳥や魚の漁、塩水卵や燻製の販売など、次第に有利な特権を得ることができた。1524年、彼らは現在も続く組合(Bruderschaft)を結成した(公式サイト)。メンバーは独特の習慣を持っており(あるいは持っていた)、消滅した方言の残骸を使用していました。Hallorenの数は相当なもので、1545年には 600人以上の武装兵を用意できるようになっていた。彼らは、都市防衛のための銃の整備を任されていた。その昔、彼らはカーストのように他の都市の人々から厳格に区別されていた。

1719年から 1721年にかけて、現在の Halloren- und Salinemuseum (Halloren Technical and Salinemuseum)の敷地内にプロイセン王立製塩所が建設され、現在もその一部の建物が残っている。また、1930年頃に建てられた増築棟も保存されている。1964年までは塩の採掘が行われていたが、1967年に博物館がオープンした。」

製塩業の労働は細かく分業されていましたが(詳しくは独語 Wikipedia参照)「本当の主人は「鍋のボイラー(Sieder bei der Pfanne)」と呼ばれる人たちで、彼らは(18世紀の間)労働者たちの必要な周辺業務をすべて引き受け、費用を支払い、毎週の会計を彼らと一緒に行っていた。蒸気機関が導入されてからは、機械が置き換えられる力仕事は完全に姿を消した。20世紀初頭には、約 100人のハロレンがまだ製塩所で働いていたが、残りの人々は他の職業に就いていました。例えば、新年のレセプションでは、君主とその家族にスラグ・ソーセージ、ハローリアン・ソルト、塩水卵をプレゼントして挨拶することが許されるなど、彼らの特権はこの時代まで守られていた。」という記述があります。この Sieder bei der Pfanneが、リューネブルクの Sülfmeisterに相当したのだろうと想像されます。

ちなみに Hallorenは「Halloren Schokoladenfabrik AG [haˈloːʀən]は、現在も生産しているドイツ最古のチョコレート工場です。大株主は、ルクセンブルグに拠点を置く米国の投資会社Charlie Investors(Darren and Kenneth Ehlert)です。」とのことで、ハレ産のチョコレートのブランドにもなっています(公式サイトはこちら)。Hauptbahnhof構内にもショップがあるので、次回のハレ土産はこれだな(笑)


Hallunken

ある種の特権階級的コミュニティである「Halloren」とは違って「Hallunken」はちょっと侮蔑的なニオイが漂います独語 Wikipediaの「語源 Etymologie」の項によれば「Halunkeという言葉は、スラブ語から借りてきた 2つの言葉に由来しています。15世紀中頃にシレジア語の holomkenは「使用人」のことをそう呼んでいましたが、古チェコ語の holomekに由来し、若者、使用人、死刑執行人の使用人、ペテン師、詐欺師などを意味します。東部中ドイツ語の holunke は、町の使用人、メッセンジャー、ハイデ(ヒースの生える荒野)を走る人を表し、上部ソルブ語の holank(ハイデの住人)に由来しています(hola)。どちらの場合も基本的な意味は「はげている、裸の、むき出しの」(holy)、チェコ語(holý)で、一方では未熟な男性の毛のない陰嚢を指し、他方では不毛のヒースの風景を指す性質を持っていました。しかし、おそらく「ひげのない holomudec」からの借用であろうと考えられます。」・・・う~ん、どっちにしても Hallorenとはかなり違いそうだぞ(笑)

また、こちらのサイトに下記のような投稿があります。

Wer oder was bin ich?
Definition:
Nach dem Lesen der Rubrik „Geschichte der Stadt Halle” auf unserer Regionalseite ergab sich für mich die Frage:
Wer oder Was bin ich?
Hallore, Hallenser oder Hallunke?
Oder gar adlig: – berndd von Glaucha?

• Nach dem halleschen Volksmund seien:
Halloren die bei der Salzgewinnung und Vertrieb arbeiten;
Hallenser die in Halle geboren sind und rechtschaffen ihren Lebensunterhalt bestreiten;
Hallunken die Spitzbuben, Gauner, Schurken und Schufte;
Demnach wäre ich ein Hallenser!

• Nach Wikipedia, der freien Enzyklopädie, seien:
Halloren die Salzarbeiter;
Hallenser die mit dem Salz gehandelt haben;
Hallunken die aus der heruntergekommenen Vorstadt Glaucha kommen;
Demnach wäre ich ein Hallunke!

• Der Volksmund spricht aber auch vom „Glauchschen Adel”.
Ich bin mir nicht sicher, ob das aus dem 7. Jahrhundert herrührt, als Glaucha eine kleine Amtsstadt war, oder aus der Reformationszeit stammt, als den Glauchaern freies Brannt-, Schank- und Marktrecht gewährt wurde, oder auf das vergangene Jahrhundert, als Glaucha die „Arbeiter-Hochburg” bezeichnet wurde, aus der auch einige „Arbeiter-Revolutionäre” (wie der kleine Trompeter) hervorgingen.
Demnach wäre ich, als ein in Glaucha geborener und aufgewachsener, einer zum „ Glauchschen Adel” gehörender!
Wer definiert es Richtig?

俺はいったい誰なのか、何なのか。
定義
地域サイトの「ハレの街の歴史」を読んで、俺は疑問を感じたんだ。
俺は誰なのか、何なのか。
Hallore、Hallenser、Hallunke?
あるいは、高貴な人: – berndd von Glaucha?

– ハレに伝わる言い習わしによると:
Hallorenは、塩の製造や販売に携わる人達
Hallenserは、ハレに生まれ、正しく生計を立てている人達
Hallunkenは、ならず者、詐欺師、ワルです。
これによると、俺は Hallenserということになるのか。

– フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』によると:
Hallorenは、製塩に関与していた人達
Hallenserは、塩の取引をしていた人達
Hallunkenは、寂れた郊外の Glauchaから来た人達
それによると、俺は Hallunkeになるのか!?

– しかし、土地の言い習わしでは「Glauchsche Adel」とも言われている。
それが、Glauchaは小さな町だった 7世紀に遡る話なのかどうか、あるいは Glauchaの人たちが 酒の蒸留・醸造や市場の権利を与えられた宗教改革の頃の話なのか、あるいは Glauchaが「労働者の砦」と呼ばれており、「労働者革命家」(リトル・トランペッターのような)も輩出した前世紀(20世紀)の話なのかは分からない。
これによると、Glauchaで生まれ育った俺は、「Glauchaの貴族」に属する者となる。
誰かちゃんと定義してくれよ!俺はいったい何なんだい?

こちらの記事にも書きましたが、Glauchaとは、今では Halleの一部ですが、かつては Vorstadt(「郊外」という訳はいかがなものか・・・)という位置づけの区域です。元々は Halleの外の地域だったので、Hallenser視点では「よそ者」的なポジションなのでしょう。

そこは、貧民街というか労働者・下層階級が暮らす街で、HANDELSBÖRSEのような安い居酒屋で、日がな安酒をあおってクダを巻いているような連中が住んでいた・・・まあ、歴史的になにがしかの特権があったり、ワイマール時代など労働者が主人公となった時代もあったりで「貴族 Adel」という揶揄的な表現が生まれたものと想像しています。

最後に「Kirch im hr」というサイトの「Irmela Büttner」という女性牧師の「Hallenser, Halloren und Hallunken」という投稿を翻訳しておきます。流石、宗教家らしく、ネイティブのハレっ子(Hallenser)が、他所からここに来た人を「詐欺師・ワル者(Halunke)」という言葉になぞらえて「Hallunken」と呼ぶことに触れつつ、その両方に「”ll”・・・Lの文字が二つ」含まれるという共通点で両者を結び付けています。

私は人生の中で頻繁に引っ越しをしました。その結果、新しい都市や地域を知ることができました。しかし、これには、私が実際に地元の人々に属していないという欠点もあります。

地元の方ですか、それとも新天地に移られた方ですか?

ほとんどの場所では、誰がネイティブで誰がそうでないかを明確にする一定のルールがあります。例えば Halle ander Saaleでは、住民はHallenser、Halloren、Hallunkenのように分類しています。Halenserとは、ハレで生まれた人のこと。Hallorenとは、塩職人の由緒ある結社に属する人々のこと。そして Hallunkenは、「ここに移ってきた」人たちです。

Hallunkenは詐欺師ではない

もちろん、Hallunkenは Halleの2つの “l”のように、2つの “l”で綴られていいます。ましてや、新参者を「Halunke」という言葉に直接結びつけたくはありません。「Halunke」とは、「ペテン師」「詐欺師」といった意味ですが、よそ者・新参者に対するこの言葉の選択は皮肉を込めたものです。

まあ、このレベルは笑っていられます。しかし、常に出身地で定義されたり、言われたりするのも困ることがあります。長く住んでいても、自分の居場所がないのです。聖書では、東方から来た三人の王の物語では、このことを別の角度から強調しています。三人の王様は、遠い国から赤ちゃんのイエス様を見に来ます。だから、イエス様の誕生は、いつも住んでいる場所に住んでいる人たちだけのものではありません。 イエス様は、世界中のすべての人のために来てくださいます。

良い未来への希望、それはどこの国の人であっても、人々を結びつけるものです。

私は、どこから来たかに関わらず、人々は一緒にいるべきだと信じています。確信したのは、どこの国の人も良い未来への希望で結ばれているということです。そして、この未来のために一緒に働くことができる。その違いは正反対である必要はありません。

それがハレの言葉の魅力で、地元の人には Hallenser、新しい人には Hallunken。いつも言葉の中に 2つの”ll”がある。それが、Halleで生まれたかどうかに関わらず、Halleに住む人々の心をつなぐのです。

ハレ(ザーレ)Halle (Saale) -13- に続きます

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