1980年代前半のドイツワイン事情(4)統計データ -3-

1980年代前半のドイツワイン事情(3)からの続きです

「ブドウ種別作付面積推移」です。参考書にあったのは 1954年から 1977年のデータですが、これにネットで最新の 2019年のデータを探して並べてみたところ、この40年余りでドイツのワイン事情が様変わりしていたことがわかりました。

これをグラフで視覚化してみると・・・

なんと1977年から2019年の42年間で、白ワイン向けブドウの作付面積は減少し、赤ワイン向けは3倍以上に増加しています。

1977年には 8:1で圧倒的に白ワイン向けブドウが優勢だったところ、直近では 2:1くらいにまで接近しています。「ドイツワインといえば白」という先入観を払拭する必要があるかも知れません。

さて、白ワイン向けブドウ種の推移を見てみます。

白ワイン向けブドウの作付面積全体では減少していますが、その中で戦後の増加を牽引した Müller-Thurgauが減少に転じ、Rieslingが着実に伸びてシェア1位となっている

65年に亘るシェアの推移を見ると、なんだか「栄枯盛衰」という言葉が浮かびます。

★白ワイン向け全体では減少に転じている
★戦後の白ワインの大幅な伸びを牽引した Müller-Thurgauはその役割を終えたのか、減少している
★同じく戦後は最大のシェアを誇っていた Silvernerも減少傾向が続いており、もはやマイナーな品種となっている
★逆に本命と思い込んでいた Rieslingは、スタートでは Silverner、途中では Müller-Thurgauの後塵を拝していたが、地道に作付面積を増やしてきて、今漸く堂々のトップシェアとなっている
★見逃せないのは、Wiess Burgunderや、かつては Ruländerと呼ばれていた Grau(er)Burgunderが着々と伸びてきていること
★更に、私が駐在中には少なくともドイツで栽培されているとは聞いたことも無い Chardonnay(シャルドネ:世界的には超メジャーな白ワイン向けブドウ種)が顔を出している。

・・・ということがわかります。「シャルドネ」なんてフランス語のブドウ種の名前を聞くと「むむっ、来たな!外来植物め!」なんて過剰反応しちゃいそうです(笑)。

Silvernerも力を失っている様子が残念ですね~。ヴュルツブルクの Alte Mainbrueckeのたもとにある立呑みのワイン売店で、3ユーロ位でグラスになみなみと注いでもらった Silvernerを呑みながら、夕方の川風に吹かれてマリエンベルク要塞を眺める・・・

これ・・・Charnonnayだとちょっと興醒めかも(笑)


ちなみに、ドイツでワインの立呑みだとこの位の量(200~250ml)が標準で気取らないで呑むんです。日本では 120mlくらいですが、ケチくさくていけません(笑)

次に驚きの赤ワイン種です

(白ワイン種とはスケールが違うことにご注意ください)
それでもこの42年間で3倍近くになっています

★Portugieserは、戦後はドイツの赤の半分を占めていたが、白の Silverner同様、漸減傾向でいまやマイナーな品種に。
★1977年を過ぎたあたりでシェアトップになったであろう Spätburgunderは堂々のトップシェアに君臨するに至る。
★1977年あたりではまだ sonstige(その他)に入っていたであろう Dornfelderが堂々の2位の座に。
★他に Schwarzrieslingや Lembergerもまだ量は少ないながら、sonstige扱いからは抜け出して名前が出てきた

こういう感じですかね。私が最初に駐在した 1980年代前半では、マイナーなドイツの赤ワインといえば Spätburgunderで「まあ、白はドイツワインに拘りたいけど、赤はイタリアとかフランスかな・・・」と、敢えて積極的に Spätburgunderを選択しなかった記憶があります。ワイン通の上司からも「同じブドウ種が、フランスに行けばロマネコンティになるのに、ドイツだとなぜ『色のついた水』になっちゃうんだ?」と言われて、基本はドイツファンだった小生としてちょっと悔しかった思い出ももあります(笑)

しかし・・・昨年ドイツに出張した際に、正直あまり期待しないで呑んでみた Spätburgunderは私の先入観を完全に覆しました。表現力が貧弱なので、こういう時に適切な表現・描写が出来ないのが残念ですが(笑)、少なくともあの『甘い色水』とは全く別物でした。

まあ、グラフを見て 1977年から 2019年にかけて4倍近くに伸びた=伸びた理由があるはず=貧しかった戦後直ぐならともかく、安いからという理由ではなく、その味が受け入れられて行ったから伸びた=そこには生産者による不断の改良努力があったはず=それがポジティブなサイクルを産み出して・・・その結果、4倍に伸びた。

・・・経営書のライターなら、そこにいくつもの苦労話やサクセスストーリーを見出して、ドラマを書くことができるでしょう。

Dornfelderという、比較的新しいブドウ種の作付面積が今やドイツの赤ワイン種の2位を占めるに至ったというのも、赤ワインにシフトする為の、なんらかの相乗効果を産み出したのかもしれません。

私などは、Dornfelderという名前を聞いた時、最初は Amselfelderという、ユーゴスラビア産の安い赤ワインのことかと勘違いしたくらいです(笑)


・・・ということで、ドイツワインのプロはさておき、我々のような単なる酒好き(笑)も「ドイツワイン=白が主流=Riesling=甘い」という認識をちょっと見直してみるのもいいかもしれません。

前にも書きましたが、かつての日本にはワインは日常の飲み物という背景がなく、ちょっとオシャレで特別な飲み物というポジションだった日本市場に、ドイツから持ち込まれたのは「Rieslingの・高ランクの・単価の高い(輸入業者にとって儲かる)」ワインだった・・・という必然があり、ここまで長い時間をかけて作られてきた「日本人にとってのドイツワイン」のステレオタイプ的イメージなんだろうと思います。そして、その共通理解の上に、今日も、その系統の味で、かつ安価な「黒猫」が庶民にとってのドイツワインの代表=それが売れるから輸入も続く・・・そういう構図なのでしょう。

それが悪いとは思わないし、私もたまに黒猫は呑んだりしますが(笑)、実際のドイツでの流れはちょっと変わってきてるんだよ!という情報提供になればと思う次第です。

1980年代前半のドイツワイン事情(5)に続きます

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