地名の研究 Ortsnamenanalyse (6) 北東型・スラブ型

地名の研究 Ortsnamenanalyse (5)からの続きです

今回から定量データを活用して、特徴的な地名suffixの分布を分類してみます。

北東型・スラブ型

 

ここでは PLZに「0 and/or 1」に集中しているように見える地名suffixを「北東型・スラブ型」として纏めています。これまで事例として散々取り上げてきた -dorfは、一般名詞としての「村」の意味であり、数も最も多く(1,378件)ドイツ全国に分布しているんだろうと漠然と考えていましたが、統計上は北東部に偏りが見られます。

ただ、これもここまで書いてきたように、PLZの 0と 1は(恐らく人為的な事情によって)そもそも地名数が多いという実態があり、乖離比も 1.6と、他の地名が 2.0以上という状況と比較して「北東部に特徴的に偏っている」とまで言えるかどうか微妙なものがあります。

それに比べると -itz、-ow、-linは、上位3PLZの集中度や、カイ二乗値から「明らかに北東部に特徴的に偏っていると言えるでしょう。スラブ系言語の名残を留めていることはよく知られたことですが、もう少し深掘りすると -owと -linは PLZ 1 に集中しているのに対し、-itzは PLZ 0に最も多く、次いで PLZ 1にも・・・と、前2件に比べてやや広域に分布しているのがわかります。PLZ 1の地域は、メクレンブルク・フォアポメルン州、ブランデンブルク州あたりで、所謂「エルベ以東」としてオボトリート族やヴェンド人が定住していたのに対し、PLZ 0はザクセン州やテューリンゲン州あたりで、ソルブ人の定住地域であり、同じスラブ系でも地名のつけ方のパターンが異なるのではないかと推察されます。

-walde(Wald:森の変形か?)、-beck(Bach:小川の変形か?)、-holz(Holz:木材)、-horst(Horst:地塁)-werder(Werder:中州)などは一般名詞であり、それこそ全国区で分布していてもおかしくはないと考えられ、カイ二乗値も2桁台であり、それが4桁の -itz、-owほどの偏りは見えません。ただ一応 PLZ 1に多く見られるというのが実態です。

なお、私が住んだことがあるのは PLZ 2に含まれるハンブルク(20000)とリューネブルク(21300)ですが、前述の -werderはハンブルクにもリューネブルクにも存在します。ハンブルクのは Finkenwerderという、エルベ川の中州で様々な意味で重要な地区です。リューネブルクは通りの名前で Am Werderというのがあり、市内を流れるイルメナウ川の中州にあります。こういう地名は PLZは附番されないので落ちてしまう・・・このあたりが PLZの登録地名での定量分析の限界かも知れません。

なお –keというのは、北ドイツの会社の同僚の苗字に Schmidtke、Lemke、Luhnke、Behnke、Kuhnke ・・・と「-ke」がつくのが多かった記憶があり、北部ドイツに特徴的な suffixかなと思い調べてみた次第です。やはり PLZ 1を中心に北部に分布しており、なんらかの関連があるものと推察します。

Wikipedia(独語)による -ow についての詳細解説

こちらに Wikipedia(独語)による -ow についての詳細解説があります。詳しくはそちらを参照ください。

(DeepL翻訳)
ドイツ語圏の地名の語尾が-ow [-oː] (サイレントw付き)のものは、ほとんどがスラブ系で、主にドイツ北東部で見られます(ただし、それだけではありません)。-owや -ovの名前もスラヴ語の多くの言語で見られますが、その場合は子音が最後の音で発音されます。

ドイツのスラブ語由来の-owを持つ地名の分布域
owの中の名前は主にドイツ北東部で見られ、スラブ語由来の地名が多い。このように、メクレンブルク、西ポメラニア、ブランデンブルクの大部分(稀にルサティア)、アルトマルクの北と東、ヴェントランドとラウエンブルク公国の一部である。また、ポメラニア東部やブランデンブルク東部(現在のポーランド)のドイツ語の地名の中には、-owに入っているものもあります。一方、ザクセンやオーストリアの一部など、スラブ語由来の地名が多い地域では、-owには何もありません。

地名の研究 Ortsnamenanalyse (7)に続きます

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