- 2020-12-9
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地名の研究 Ortsnamenanalyse (2)からの続きです
さて、いよいよ計数的に調べてみます。前回に掲載した地名全体像のリストの上の部分を再掲します。
まず、地名数がトップの -dorfを見てみます。そもそも全ドイツで 1,378件もあり、全地名数 18,623件のうち、実に 7.4%を占めるポピュラーな地名の suffixと言えるでしょう。確かに有りがちな地名だよね。でも、7.4%って 14件に 1件は -dorfってこと?ホンマでっか?ちょっと多過ぎないかい?
まあ、世界の人口が 75億人、うち中国の人口が 14億人、インドが 13億人、この二か国で 27億人・・・平均すればあなたの周りの3人に1人は中国人かインド人という計算になりますが、日本に住んでいると皮膚感覚的にはちょっとピンとこないのと似ているのでしょう。日本人に縁の深い観光地や大都会の近辺には -dorfはそこそこの数だとしても、縁の薄い旧東独の東寄りには -dorfがゴチャマンとあるということでしょう。
また、前にも書きましたが、Hamburgや Berlinなどの大都会には、その中の細かい行政単位にそれぞれ地名があるわけですが、PLZ上は Hamburg、Berlinとなってしまうので、そういう地名はカウントされません。日頃目にしたり耳にしたりする「実際の皮膚感覚としての地名数」は PLZ登録数の 18,623件ではなく、もっと多いことになります。従って -dorfの比率の感覚は 7.4%もあるのではなく、もっと低く感じるといういう側面もあるでしょう。この研究では、そこらへんは PLZの登録地名と割り切っていることをご了承ください。
1.上位3PLZへの集中度
さて、再び -dorfをみてみると、流石に数が多いだけあって一応全ての PLZに地名が存在します。が、明らかに 0と 1に数が多く、続いて 2 と 9に多いことが分かります。上位3つの PLZ(0、1、2)には -dorf全体 1,378件のうち 1,083件と 79%が集中していることがわかります。
次の -itzも 0と 1に多く存在しますが、4、6、7には存在せず、かなり東に偏った地名と見えます。上位3つの PLZ(0、1、9)には 93%も集中しています。1の地域には現在も少数民族としてスラブ系のソルブ人が居住しており、その影響が残っていることも考えられます。
3番目の -owは更に特徴的で、4つの PLZにしか存在せず、それも明らかに 1に集中していることがわかります。州でいえばメクレンブルク・フォアポメルン州やブランデンブルク州東部で、いわゆる「エルベ以東」、歴史的にヴェンド人やオボトリート族などスラブ系の諸民族が居住していた地域と重なり、スラブ系の地名の名残を留めていると考えられますが、同じスラブ系でも少しルーツが違うことが想像されます。この -owの上位3 PLZへの集中度は 98%にも上ります。
逆のパターンは例えば6番目の -bergに見られます。山とか丘という意味で、Heidelbergとか Nürnbergなどメジャーな地名も多いので「ドイツに有りがちな地名語尾」と印象はあります。実際、すべての PLZにブロードに分布しており、特定地域に偏っているという印象はありません。敢えて上位3PLZを見てみると 1、0、8ですが、そこへの集中度は 52%で「集中」しているというほどでもありません。10番目の -feldや、12番目の -burgにも同じ傾向が見られます。
というわけで、上位3PLZへの集中度というのは、地名suffixの特徴を表す指標として使えそうです。なぜ上位3つなのか?PLZは地名の由来とは関係ない、郵便制度での区分けなので、多くの地名は複数の PLZにまたがって存在するのが自然な姿です。上位1つだけと絞り過ぎるとその実態と合わない恐れがあります。逆に上位5つなどとすると範囲を広く取り過ぎで特徴を見失う恐れがあります。統計的な根拠はありませんが、分布の全体像のテーブルを眺めていて「上位3PLZ」あたりが適当と判断したものです。
次回はこの「上位3PLZ」への集中度に少し補正を加える必要性について書きます。
地名の研究 Ortsnamenanalyse (4)に続きます