業界コミュニティへの帰属という考え方(2)

業界コミュニティへの帰属という考え方(1)からの続きです。

前回は「日本企業で、企業に於いてキーポジションいる役員や上級管理職が、業界コミュニティには全く無縁・無名で、部下に『情報を取ってこい』と指示しつつ、その報告には(自身が業界コミュニティに属してもいないので)適切な判断がができず『これだけでは判断できない、もっと情報を取ってこい』などという愚」について書きました。

更に、こういう輩、およびその取り巻きの経営管理部などという組織は、経費削減やコスパを名目に、現場の部下がそういうコミュニティにアクセスできる機会である海外の展示会への参加出張費をケチって、更にデモチベーションとその企業のガラパゴス化に加担していることを書きました。

今回は、少し異なった視点です・・・あ、根っこは同じかもしれません(笑)

定期人事異動って・・・なんなのさ?

【事例1】
つい先日、某欧州の有名企業のオーナー社長がスタッフと共に来日し、私とランチミーティングを持つ機会がありました。イニシャルだけで「あ、ひょっとしてあの人?」とわかるくらい有名なので、仮にX氏としておきます。
大:ど~も!この前、ドイツで会ったよね!日本では初めてかな?よく来てるの?
X:年に2回くらいは来てるかな
大:そうなんだ!で、今回はなにか案件で?
X:うん、まあね。いろいろあるんだが、その一つは日本のある大会社の幹部が異動になったので挨拶さ!
大:ほうほう!
X:オ~ノ、聞いてくれよ!その大会社の事業部長は、この2年で3人も交代したんだぜ!いったい何なんだ、これは?折角、人間関係が出来たと思ったら異動、で次の人とまたゼロからやり直し、やっといろんなことを分かってくれたかな・・・と思ったら、また異動して別の後任が来る・・・なあ、いったいこれは何の意味があるんだ?

【事例2】
私が日本代表を務めている WTiN(World textile Information Network)のコミュニケーション担当者がボヤくのです。曰く「日本企業は誰が責任者なのかよくわからない。欧米の企業なら『あの人』と顔が浮かぶんだけど、日本企業は顔も名前も浮かばない。やっとコミュニケーションが出来るようになったと思ったら、違う部署に異動になってた。その挨拶も引き継ぎも無く、流れが切れてしまう。大体、3月末に起こるんだよね・・・

(本件とは関係ありません。ネットで「定期異動」でググったら、たまたま出てきた画像です)

定期人事異動・・・これって、マジでいったい何なんでしょう?人事異動の必要性を否定するつもりはありません。適材適所に人を流動的に異動させるのは理に適っているとも思います。でも、それが「定期」である必要はどこにあるのでしょうか?更に、本当の問題は「定期・不定期」ではなく、何のための異動なんでしょうか折角、コミュニティとの人願関係が出来たと思ったら、頃合いを見計らったように異動・・・

海外駐在でもそうです。海外駐在は、最初の半年から一年は住宅設営から現地に馴染むまでの期間としてあっという間に過ぎてしまいます。それから現地人同僚や、競合も含む現地の業界コミュニティに馴染み、そこでポジションを確立するまでに2~3年はかかります。駐在業務が本来オイシくなってくるのは3年を過ぎたあたりから・・・なのに日本人駐在員は大体5年で帰国命令がでて帰っていきます。

これでは、現地人の信頼を得られませんし、これが連綿と続いている日系企業でコアとなっている現地人は「どうせ、今度来たアイツも5年で帰ってしまうんだろ?俺たち現地雇用の人間は、ここに生活基盤があり、帰っていく日本なんて無いんだ!ここが俺たちの生活基盤・コミュニティ基盤なんだ」・・・ま、駐在したことのある方には十分おわかりですよね。駐在したことも無いままに経営幹部になってしまった人にはこの感覚は分からないかもしれません。

いずれにしても、日本企業には「現地コミュニティ・業界コミュニティにコミットした人材を育てる」という意識が希薄と見えます。その業界のコミュニティの『有力な一員』として認められる人材を育てる意識ってあるのでしょうか?

前職で、「長期滞留者」という概念があったことを思い出します。同じ職場に長期に「滞留」している人という意味で、かつそれは人事評価上「マイナス」の評価を受けるのです。「彼を昇格させたいのなら、もう一つか二つ、違う職場を経験させなければ・・・」とか「管理職になるためには、最低3職場を経験すること・・・」とか・・・

どうなんでしょうね、これ?結局、コミュニティに名前を売り、認められる前にその芽を摘んでいる・・・そのことにどれだけの上層部が気づいているでしょうか?

ヨーロッパではどうなの?

【事例3】

では、欧州はどうなのさ?この左側は Mike Horsten氏、以前のミマキ・ヨーロッパの副社長で、その後 HPに移り、この5月の FESPAでは HPの Stitchについて熱く語っていた人物です。それが今回6月の ITMAの直前に離職しフリーとなっています。解雇なのか自主退職なのかは存じておりません。(その後フリーのコンサルタントを経て、今は AGFAに居ます)

右側は、永年 REGGIANIの営業部長だった Michele Riva氏で、昨年11月の BOLTの発表会でも中心となっていた人物・・・この人も今年3月で EFI/REGGIANIを離職しています。(彼もその後フリーのコンサルタント、MOUVENT TEXTILEを経て、今は BOBSTに居ます)

なんだ、欧州でもキーマンはコロコロ変わるんじゃん?日本だけなんでそれがいけないのさ?

いや、欧米でもキーマンは(定期異動とか長期滞留って概念は無いので「コロコロ」ではないとは思いますが)当然、上記のような転職などにより変わります。上の画像は SPGの Josですが、彼は SPG命で、本人も会社も転職など考えたことも無いやつです(笑)

では決定的な違いと言えば、日本人の場合はそもそも「キーマン」になり切れていない!なるつもりが無い!会社も、社員を業界のキーマンとして育てる意識が無い・・・ということになるでしょうか?日本人場合は、いずれ(また)異動になるかも知れないので、なにかそこの仕事に腰が引けている、あるいは「骨を埋める」覚悟が無い・・・そんな気がします。その市場にコミットして、業界のキーマンとして、自説を業界のプロたちを相手にプレゼンできるか?そんなことを考えたこと、ありますか?

欧州人の場合は、会社ではなく業界コミュニティに属している感が強いので、その企業を離れても、次の職場も見つかりやすいでしょうし、そもそも一定の知名度はあるので、ゼロからのスタートではなく、あそこにいて、あれをやっていた彼・・・と、存在そのものが履歴書代わりとなるのでしょう。

【ということで・・・】

私の場合、1999年 10月に複写機の事業部から、当時は中央研究所の社内ベンチャー的な位置づけだったインクジェット部門に異動し、2016年 3月末に退職するまで、17年近くインクジェット部門にいました。その間、一貫してヨーロッパや中国のインクジェットコミュニティと関わり続け、そこで築いた人脈資産が今日の私の活動を支えるバックボーンになっています。

1977年に入社以来、複写機の事業部門にも、海外駐在を含め 20年以上いたわけで、期間としてはそちらの方が長いのですが、そこでは業界のコミュニティの顔になれていたのかどうか(そもそも、そういうコミュニティが存在するのかどうか)・・・

折角、業界コミュニティとの繋がりが出来てきたころに異動となってそれを失ってしまう・・・会社サイドも本人としても、そのことの意味をもう一度考えなおしみた方がいいように思う次第です。

【追記】こういうコンファレンスを立ち上げようと思っています。今回は第一回目として、50人限定という小規模ですが、今後欧州の TheIJC や IMIなど「業界コミュニティの人達の交流の場としてのコンファレンス」を目指して育てていきたいと考えているのです。TheIJCや IMIに一度でも参加したことがある方にはその意味が分かって頂けるかと思います。是非、ベクトルを合わせて応援をお願いします。

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