- 2018-11-4
- トピックス
この記事はかなり大きな反響を頂きました。仕事の話は書かないのを原則としている facebook にもリンクしたところ、まるでノーベル賞を頂いたようなお祭り騒ぎになりました(笑) まだ何も成果を出していないのに(笑) でも、関心を持って頂いて有難い限りです。これから OI機構の総責任者である統括クリエイティブリーダーの酒井さんを盛り立てて、成果を目指していきますのでよろしくお願い致します。
さて、大きな反響、中でも「大変分かり易かった!」という声と同時にいくつかの質問も頂きました。今回はその質問を中心に、酒井さんとディスカッションしてみました。
大野:いやあ、酒井さん、ウェブとメルマガでアナウンスしたら大変な反響を頂きましたよ!ノーベル賞をもらったような騒ぎで、ちょいと当惑気味です(笑)
酒井:凄い発信力ですね!これは大変有難く思います。活動を認知して頂くのがどれほど大変なことか・・・やってる自分は「皆、分かってくれている」と思い込みがちですが、実際は認知度ってなかな上がらないんですよね
大野:はい、そこは私も新規事業で苦労したところなので、積極的に広報の役割を果たしていこうと思います。ところで、幾つか質問も頂いているので、今日はそこを中心に質疑応答でクリアにしたいと思います。
酒井:はい、是非分かり易い説明をしたいと思います。
大野:まず、元エプソン・東大の染谷研でプリンテドエレクトロニクス・山形大のインクジェット開発センター長の酒井さんと、コニカミノルタの元インクジェット事業部長・現大野インクジェットコンサルティング代表の大野が組んでいるということは、「今回の山形大の OI機構のテーマはインクジェットでの競争領域で企業と組む・インクジェットに限定する」・・・そういう理解でいいですか?という質問です。
酒井:あ、そこはそう思われてしまっても無理はないところですね。でも実際には、インクジェットには全く限定されません。大野さんのタイトルである事業リーダーは、強化する事業分野で他にも複数名置きます。分野として、プリンテッドエレクトロニクス、有機エレクトロニクス、3Dプリンティング、インクジェットが現時点での対象です。
大野:そうですよね。私はインクジェットの分野ではかなり知見や人脈もある積りですが、それ以外の分野は他に適任者もおられるでしょう。専門性もあると思います。
酒井:有機エレクトロニクス分野は、現在有機エレクトロニクスイノベーションセンターの副センター長を務めている仲田産学連携教授が担当します。その他については、これから決めていきます。大学の専門的なリソースを活用できて事業領域に精通している必要があるので、大野さんのような経営力だけではなく、技術的な専門性も必要だと考えています。というわけで複数の事業リーダーを置くわけです。
大野:ちょっと安心しました(笑) 次に、山形大といえば米沢の工学部のイメージが強いですが(現に酒井さんの活動拠点もそこですが)実際に企業とコラボする場合には工学部とのコラボとなるわけですか?との質問があります。例えばプロジェクトやチームを結成して活動する場合、理系だけでなく経済学部や法学部の先生や学生も参加可能ですか?あるいは参加要請できますか?
酒井:企業からの共同研究資金の殆どは工学部が占めています。まず、工学部を中心に進めることが有効だと考えています。
一方で、OI機構は本部組織なので、工学部に対象が限定されるわけではありません。農学部、理学部、医学部だけでなく、人文社会の先生も参加可能です。これらの先生が参加したうえで、大型の産学連携が実現できれば、極めて理想的です。農学部、理学部、医学部には、学内リソースや取り組み実績を調査する予定です。
しかし、理学部や人文社会系の中には、企業の価値観で研究を行うことを嫌う先生が少なからずいます。山形大学では、その傾向は強くありませんが、旧帝大など中央の国立大学では良く聞きます。
大野:あ、なるほど。アカデミズムと、カネを生むための研究はごちゃまぜにして欲しくない・・・そういうのは分からないでもないですね。小学校の頃に読んだ漱石の「吾輩は猫である」の登場人物、東大の野々宮君が「蛙の目玉の焦点距離」の研究をしている・・・という行に「それって、何の意味があるんだろう?」と子供心に疑問に思ったものです。
蛙の目玉の焦点距離というのは、漱石一流の諧謔と思いますが、商品開発という余りにも分かり易い、カネを生むための研究とは一線を画していたいというのは理解はできます。
大野:更にこんな辛口の質問も来ています。「オープンイノベーション」自体は米国ではかなり前からある言葉や概念だそうですが、ここに来てこの言葉が使われた理由・背景ってなんですか?文科省官僚が研究費を削るために、米国では使い古された言葉を今更持ち出したのでは無いか?そんなものに乗っていいのか?との指摘です。やはり皆さん、役所にはやや批判的ですね。
酒井:まあ、そういうご批判が全く的外れとは言い難い面はありますが、私はこのように考えています。
オープンイノベーション自体は、企業と大学が連携することだけでなく、企業間連携も含まれます。例えば、Appleのスティーブ・ジョブズが作り上げた DTPは、Appleのマッキントッシュというコンピュータと 300DPIのレーザープリンター(エンジンはキヤノン)と PageMaker(Adobe)が揃って、初めて実現できたもので、オープンイノベーションという場合の企業間連携は必ずしもフルの公開オープンではなく、そのようなものも広義のオープンイノベーションと見て良いと思っています。組織間の連携でイノベーションを創出するのがオープンイノベーションですので、企業と大学の連携に限定されません。
ここに来て、国内でこの言葉が目立ってきたのは、失われた20年の中で、オープンイノベーションによる企業活動に関して日本と欧米(特に米国)で大きな開きができてしまったことに有ります。
もう一つの背景は、大学研究の実態が有ります。昨日もこんな記事が出されました。
国は5年毎に科学技術基本計画を策定しますが、今の活動は、この計画に基づいたものです。ただ、問題の根幹は大学における科学技術への研究取組だけにあるのではなく、企業を含めた日本社会全体(少子高齢化など)の大きな課題です。
ここに至る背景のもう一つの観点は、2005年に国立大学が独立法人化されたことです。米国では日本に先立つこと25年、1980年にバイ・ドール法が制定され、本格的な産学連携がスタートしました。ここをご覧ください。
この時期は、日米貿易摩擦があったように、米国の技術開発力低下が強く問題にされた頃です。皮肉なことに、その後、日本は失われた20年で、国際的な技術開発力が低下してきていると言われています。
そこで、日本も日本版バイ・ドール制度(産業技術力強化法第19条)を整備するとともに、2005年に国立大学を法人化して、米国同様に自主的な活動を可能にするに至りました。また、同時に国から大学に出される補助金である運営費交付金は、年々削減されてきています。日本版バイ・ドール制度ができた結果、多くの大学に技術移転機関として TLO(Technology Licensing Organization)が設立されました。しかし、10年以上経過した現在でも、オープンイノベーションの産学連携の成果が米国に大きく劣っているのが状況です。
大野:ちなみに、大学と企業とのコラボで参考事例・成功事例ってありますか?海外事例でも結構です。その成功事例は何がツボで成功したのか教えてください。
酒井:直ぐに具体的な成功事例を思いつきませんが、スタンフォード、ハーバード、MIT、カルフォルニアなど米国の主要大学では、
1.大学発ベンチャーが多く立上り、規模拡大の過程で引き続き大学とのコラボが行われる
2.大学特許のライセンス収入が日本の大学と比べ物にならないくらいに大きい
という特徴が有ります。そこでは、ベンチャーを立ち上げて、M&Aで発展するというビジネスモデルです。米国では、大学、ベンチャーキャピタル、大企業が連携したエコシステムができています。米国の成功のツボはエコシステムを作り上げた社会の文化なのかも知れません。
このようなエコシステムは、一朝一夕にできるものではなく、鶏が先か卵が先かというところも有りますが、山形大学の状況ですと、これまではスター研究者を招聘し、大学が強力にバックアップし、企業に積極的に技術を売り込むということが成果につながってきました。
この記事をご参照ください。
逆に言えば、これまで日本の大学では組織的な活動がされていなかったということです。
大野:もっと参考になるのは失敗事例です。何か上手く行かなかった事例ってありますか?
酒井:産学連携の失敗事例は良く知りませんが、多くないと思います。その理由は、成功と失敗の判断が明確でない産学連携が殆どで、そもそも目標を定めない(目標が定量的でない)少額の契約が殆どだからです。そのような例では、外にアウトプットが示されることなく、共同研究は消滅していきます。
大野:それって笑えない話ですよね?企業でも事業部長は「結果としての利益」という分かり易い尺度で評価され、赤字や予算未達があると明確に責められたり外されたりする。一方で「成功と失敗の判断が明確でない」管理間接部門の役員や管理職はそれが無い。結果、そういう輩が生き残って出世し、企業の幹部層を占めてしまう。
日本の大企業の閉塞感の原因の一つはそこにあると思いますよ。私は「思い当たる役員は、辞表を書け!」と言ってます(笑) 司法取引みたいなもんで、自ら罪を認めれば罰が軽減される(笑) まあ、でもそんな状況を容認して手を打たない、下手をするとそういう輩を厚遇するのは社長の責任!会社はやっぱり社長の器量が全てです!(笑)
酒井:大野節炸裂ですね・・・ノーコメントです(笑)
大野:明るく前向きな話題に行きましょう(笑) 企業との具体的な進め方のイメージってありますか?例えば、A社のトップと酒井さんが「やりましょう」と握手するところから始まるのでしょうか?最初はどのようにテーマを決めるのでしょう?その辺りの進め方・手順のイメージを教えてください。
酒井:まず、大学からの提案書を作成することから始めたいと思っています。提案書を作成する段階で、大学シーズやリソースを調査し、同時に業界や市場動向を把握します。初年度は、この調査に資金を投入する予定です。
大野:了解しました。これから年末年始にかけて、集中的に企業のトップや幹部層とお会いする機会が増えるので、日程が許す限り酒井さんをご紹介しますし、そうでなくとも私自身がそれをトップや幹部の皆さんにご理解いただく働きをしていきます。
酒井:是非よろしくお願いします