EFI:CEO Guy Gecht 氏へのインタビュー (1/3)


8月の後半、EFI の CEO で、つい最近そのポジションを降りることを表明した Guy Gecht 氏が来日しました。彼は年に数回来日し、その度に重要顧客や新規顧客の経営者層と精力的なミーティングや会食をセットし、積極的なトップ外交を展開してきた人ですが、CEO からの引退を表明した今回も全く変わらず多忙なスケジュール…そんな中で、顧客との朝食会を終えた後、一時間ほど時間を貰って、ホテルのラウンジでインタビューをしてみました。

なお、大変フランクでストレートな話ができる関係なので、文体は「私・あなた」ではなく「俺・アンタ」と非常にくだけた調子で書いてあります。いっそ関西弁の会話体で書いてみようかと思いましたが…それは今回は封印します(笑)

8月23日、ホテルのラウンジにて

大:どうも、ご無沙汰だね!
G:DRUPA2016以来かな

大:CEO を退任すると聞いたよ!お疲れさん!実はね、あんたは俺のヒーローだったんだよ。(笑) 俺も事業の責任者だったわけだけど、リーダーのあるべき姿って、ああだよなあって…結構意識してたんだよ(笑) 国際的な舞台でビジョンを語るとか、自ら顧客のトップと会ってトップセールスをするとか、決断を先延ばししないとか、自分の責任で決断するとかね
G:過分な言葉を有難う。お世辞でも嬉しいよ(笑)

大:19年近くCEOを務めたんだよね?俺がインクジェット部門に異動したのとほぼ同時期だな。なぜここで退任すると表明したの?
G:自分がCEOになった時、EFI は Fiery 主体で売上高 $500 Mil の企業だったのを、念願の $1 Bil に乗せた。別に事業規模だけがゴールじゃないけど、19 年もやったし、これを$2 Bil や$3 Bil に伸ばしていくのは、もう次のリーダーがやった方がいいと思う。

大:でも、あんたのような強力なリーダーで、かつ大きな実績を残した人の後任を探すのって、そう簡単じゃないだろう?目星はついているの?自分にも身に覚えが無きにしもあらずだが、自分の後任って、どんな人が上がってきても、どこかひとつ物足りないような気がしないかい?
G:自分も参画して後任を選定するし、CEO退任後もボードには残って後任がちゃんと軌道に乗るようサポートするつもりだよ。人材サーチ会社も使って外部からも探している。まあ、外部からくる人の場合には、一層しっかりと見極めるつもりだけどね。

大:ボードに残るというのも、後任はやりにくくないか?「隠然と影響力を残したい」という気持ちはあるだろう?結構多いよ、そういう人(笑) ボードから降りても影響力を残したいって人だっているんだから(笑)
G:そりゃ酷いね(笑)リーダーは一人でいい。自分がリーダーの時は、自分がリーダーだ。自分がリーダーじゃなくなったら、自分はフォロワーで、次の人物がリーダーとして決定すればいい。それは当然だろう。

大:なるほど、それはクリアでクリーンだね!ところで俺は前職を退任後、蓄積してきた経験値や人脈資産を活かして、産業用インクジェットをもっと広めるということをミッションにいろいろな活動をしているんだ。
G:そりゃ素晴らしいことだね!

大:自分のWEBも立てて情報発信をしているし、メルマガも数千人に届いている。今日はそこに Guy へのインタビューを掲載したいと思っていくつか質問を用意してきたんだ。
G:どうぞ、どうぞ、何でも聞いてくれ。録音もしていいよ(笑)

【 DURST について】

大:まず最初に、EFI ウオッチャーの視点からは、EFI は DURST を追いかけてきたように見えていた。DURST がオーガニックに製品を開発して開拓した分野に M&A を以て参入するのが EFI と見えていた。
G:それは違う。DURST はそう言っているかもしれないけど・・・(笑)

EFI grand format

DURST grand format

EFI wide format

DURST wide format

EFI label

DURST label

EFI ceramic

DURST ceramic

EFI textile

DURST textile

EFI corrugated

DURST corrugated

大:そうかい?でも DURST が RHO という大判プリンタを開発して市場参入した後、EFI は VUTEK を買収した。DURST が TAU というラベルプリンタを開発したら EFI は JETRION を買収した。
G:いや JETRION は FLINT から買収した時点では優秀なインクの技術屋集団ではあったけれど、まだどの分野に着手するかは決まっていなかった。その後、彼らが世界で初めてラベルプリンタを開発したんだ。従って DURST は後から付いてきたことになる。

大:他にもセラミックプリンタや、テキスタイルなど、いずれも DURST が自力開発した分野を、EFI は買収で獲得したよね。
G:DURST はいいライバルだ。ああいうライバルがいたことは EFI にとっても非常にいいことだと思う。まあどちらが先にというのはさほど重要ではない。インクジェットは多様な分野に展開できる技術だし、そこにどう参入するかという手段と優先順位の問題だ。VUTEK を買収して産業用インクジェットに参入して以来、ライバルになる運命だったんだからね。

DURST だけじゃなく、AGFA も競合だし INCA もそうだ。有力な競合がいるということは有難いことだ。切磋琢磨してお互い進化できるからね。

大:競合の居ない世界って、つまんないやね
G:うん、つまんないだけでなく、自分らも怠けちゃうよね

【 ラベル・パッケージ分野について】

大:全く同感だね。ところで買収した FLINT で開発したラベルプリンタ事業を、出身母体の FLINT に売却したよね?なにか誤算があった?

G:ラベル分野は難易度が比較的低く、参入者も多い。EFI としてはパッケージ分野に注力しているが、その中でももっと大きく戦略的に重要な分野、即ちコルゲート(段ボール)や将来は軟包装に注力していくということだね。

顧客はデジタルプリンタを求めているのではなく、デジタルソリューションを求めている。EFI の強みはソフトウェアだ。同じく FLINT の傘下となった XEIKON もラベル分野に強みを持っているが、そこに EFI が蓄積したラベル分野のソフトウェアの経験値を提供していく。EFI も FLINT もラベルは重要と考えているが、そこにソフトを供給するか、ハードを供給するかはアプローチの違いだ。

大:ラベル分野には確かに多数のインクジェットプリンタメーカーが参入しているけれど、どこも成功しているとは言えない状況が続いているよね。何故なんだろう?
G:ラベル業界でデジタルのポジションはまだまだ小さく、既存方式で十分仕事が出来ている。かなり細分化(フラグメント)されているし、コンバーターも数は多いが小規模なところが多く、大きな投資ができないところも多いよね。また、トナーで既に有力な HP と XEIKON も居る。それと比べると、コルゲートは EFI は疑いも無くナンバーワンだし、市場のポテンシャルももっと大きい。そこを戦略的に開拓していくということだ。

大:まあ、言いたかったことは、DURST が買収をせずオーガニックに成長していったのに対して、EFI は買収を成長の手段に使ったという印象が強いということなんだ。
G:最後の大型買収は3年前のことだ。それ以来は内部に十分なリソースがあり、オーガニックな開発を進めている。コルゲートのワンパス(NOZOMI)には、CRETAPRINT だけじゃなく、それまでに買収した JETRION や MATAN の技術など全ての技術が結集されている。

なんたって、VUTEK を買う前は、純粋なソフトウェアの会社だったんだ。それが、産業用途インクジェットでいろいろな分野をカバーしようと思えば、買収も必要だし、EFI にはそれが出来るだけの力とキャッシュもある。が、今後はよりオーガニックに成長していくことになるだろう。

大:先ほどパッケージ分野で、戦略的にコルゲート、そして軟包装をと言ったけれど、紙器(Folding Carton)はやらないのかい?
G:いや、やらないということはない。未来永劫そこに出ないということではなく、優先順位の話だ。紙器は既にいくつかのメーカーが、そこを目指して参入や参入表明をしており、ソリューションが提供されつつある。例えば HP とかね。

大:例えば LANDA とか?
G:そうそう。LANDA も有力だね。

大:Mr.BENNY LANDA との人間関係で、そこには出ないという棲み分けの裏合意みたいなものがあるのではないかと睨んでいるんだが?(笑)
G:そういうわけではないよ(苦笑)。勿論、LANDA は EFI のソフトウェアの大事な顧客だ。顧客とわざわざ競合することはないというのは一つの考え方だ。とは言っても、ソフトウェアとインクジェット技術を両方持っているので、どこかの分野でいずれかの顧客と競合することは避けられない。例えばコニカミノルタはソフトウェアで旧くからの重要な顧客だが、REGGIANI を買ったのでテキスタイルでは競合することになった。でも、前にも言ったように、競合というのはお互いにとっていい側面もあるんだよ。

【 REGGIANI とテキスタイル分野について】

大:REGGIANI の買収は EFI にとってどういう位置づけなんだい?
G:テキスタイルには、その気になれば自力でプリンタを作って参入することもできた。が、イタリアはなんといってもファッション産業は国の主力産業だし、そこと既にしっかりした関係を築いていた REGGIANI を買収する方が市場に浸透する近道だとの判断だ。

KM Lario

KONICAMINOLTA SP-1

SPG Pike

大:REGGIANI は有力なテキスタイルプリンタメーカーの中では唯一ワンパス機をもっていないよね?
G:実は NOZOMI は最初テキスタイルのワンパス機として開発を始めたんだ。が、その後 REGGIANI を買収して市場をより深く分析してみると、これは時期尚早という判断となった。そこで戦略を組み替えてコルゲートに出ることにした。

大:そう、MS が 2011 年のバルセロナ ITMA で LaRio を発表して、コニカミノルタが大野の時に SP-1 を出して、オランダの SPG が PIKE を出したけど、順調に普及が進んだとはいえない状況だね。まあ、やっと立ち上がりつつある感触はあるが。
G:そうだね。EFI もテキスタイルのワンパス機は当然やっている。時期は明示できないが、そう遠くない将来に発表することになるよ。でも、それは今までのワンパス機とは全く違うコンセプトのマシンになるだろう。(■大野後註)

大:それはいいね!期待してるよ(笑) ところで俺はこの後、新宿にあるファッション関係の大学で、デジタルテキスタイルについて講演をすることになっているんだ。
G:おお、そりゃいいね!

大:自分も直接この分野に関与してきて、この分野は当初期待したようなスピードでデジタル化が進んでいないように感じるんだ。それについてはどう思う?あるいは普及を加速するには何をすればいいと思う?
G:二つの側面があると思う。一つは、ブランドが望むようなマシンに仕上がっていないことだ。もう一つはプリントだけではなく、トータルなワークフローを供給することが重要だ。

大:産業用インクジェット、即ち「生産機・生産設備」に関わってふと思うんだけど・・・、生産機って EFI やら HP やら、あるいはコニカミノルタやらといった「製品を標準化して品質を管理するのが得意な、世界的なブランドの量産機器メーカー」ではなく、殆どが顧客の近くに居て、お客と一緒に細かく仕様を詰めて、一品ずつカスタマイズする地場の鉄工所のような中小企業に支えられている様に思う。どう?
G:EFIはカスタマイズはソフトで行うんだ

大:でも、例えば布でも、ニットやら厚手の生地やら、スケスケの薄手やら、織目の違いやら・・・ソフトでなくハードのカスタマイズを要求されることもあるだろう?
G:そういうのはオプションなどのコンフィギュレーションで対応する。EFI はハードのワンオフ(一品料理)はやらない。生産機は「ローボリューム・ハイタッチ(販売量は少なく・カスタマイズが求められる)」であって「ハイボリューム・ロータッチ(販売量が多く・カスタマイズは殆どしない)」ではない。EFI は「ローボリューム・ハイタッチ」は(ソフト事業を通じて)得意だ。そこは、日本の量産機器メーカーとは異なると思う。

大:なるほど!ではインクはどうだろう?多くの既存印刷は所謂オープンシステムだ。インクの供給元を一社に縛られたくない。REGGIANI もそうだった筈だ。一方で俺は複写機ビジネスを知っているのでインクやサービスを含めたトータルで品質を保証するという考え方に立ってきた。そこは EFI もそうだろう?オープンシステムとクローズドシステム、最終的にはどちらに収斂するんだろう?
G:何事にも二つのアプローチがあるだろう。どちらかが必ずしもいい訳ではない。が、オープンの場合は、問題が生じたときに、インク屋は自分達の責任ではないと逃げるし、ヘッド屋はプリンタ屋が責任を持つべきというし、プリンタ屋は認証インクなんだからヘッド屋の責任だという・・・お客は真ん中で置き去りだ。これは良くないだろう

大:まったくそうだ!俺がナッセンジャー事業責任者だった時の基本的な主張はそこだ。しかし、昨今ではオープンシステムの個々のユニットが(誰かが強力なリーダーシップをとる訳ではない中で)結果としてレべルを上げてきた。サードパーティインクだって、ヘッドを壊したり目詰まりを起こすような粗悪品は淘汰されたし、画質も ERGOSOFT や INEDIT のような独立系ソフト会社が絡むことで随分向上した。問題が起きた時・・・というが、その問題が起きることが少なくなってきた今、クローズドシステムの優位性を訴求できなくなりつつあるのではないか?
G:EFI が買収した REGGIANI は、オープンシステムを否定している訳ではなく、お客に選択肢を提供しているんだ。お客はオープンの方がいいケースもあるだろう。お客はインクを買いたいわけではなくて、プリントをしたい訳だし、そのプリントでビジネスをしたい訳さ。その中で、EFI(REGGIANI)としては、トータルで提供できるソリューションはこういうものがある(ヘッドのワランティは価格に含んでいるとか)という提示をしているということだ。

■大野註:DURST が先鞭をつけたセラミックプリンタ市場に CRETAPRINT を買収することで参入を果たした EFI ですが、この分野は一気に普及が進み、数年で入るべき製造ラインはほぼ全てインクジェット化され飽和してしまいます。EFI は折角買収した CRETAPRINT をどうしようかと考えたと思います。

一方、テキスタイルプリンタの有力プレーヤー(MS、SPG、コニカミノルタ)はテキスタイルのワンパス機に参入するなかで、REGGIANI のみがそれを出していませんでした。一説には、当時の Dominioni 社長が「ワンパスなどに市場はない!」と強硬に反対していたという噂がありました。その REGGIANI を買収した EFI は CRETAPRINT のワンパス技術の出口としてテキスタイルに目を向け REGGIANI のチャネルで販売するのだろうと我々(ワンパスを先行して市場投入した3社)は予想して身構えていました。また、それは今回のインタビューで裏付けられた格好です。

Guy によれば、そこで戦略を組み替えて「段ボール印刷」にフォーカスしたとのことですが、ワンパス機を強硬に反対していた Dominioni 社長は買収から2年後に退任して、いよいよテキスタイル分野に参入する環境が整ったのでしょうか?

また、最近の EFI のプレゼンでは、所謂「柄物のプリント」だけでなく、単色染や機能性材料の塗布等の可能性に言及しています。また REGGIANI は OSIRIS というコンティニュアス方式のインクジェット技術も保有しています。いずれにせよ、ワンパスの先行3社の状況を見極めつつ、後発の強みを活かして、単純に参考3社の延長ではないユニークなワンパス機を市場に投入してくると考えられます。

後半(2/3)に続く

関連記事

ページ上部へ戻る