エプソンの大研究(4)

エプソンの大研究(3)からの続きです

11月 1日に行われたエプソンの第2四半期の決算発表の中で「待望の」(笑) Fiery買収に関する情報開示がありました。今回はそれについて私見を述べようと思います。あくまで私見ですので、そこんところはヨロシク(笑)

エプソンの第2四半期の決算説明会資料の中で Fiery買収に関する部分は実に 17~36ページと、実に 20ページに亘ります。しかし意味のあるページは少なく、またそのページを全部引用して細かいところを突っ込むのもいかがなものかと思われるので、引用は上の一枚だけにしておきます。元資料はこちらをご参照ください

あ~あ、またしても日本的な、あまりに日本的な・・・

私の第一印象はそれです。こういう絵って、よく官僚が作る資料に有りがちですが(「官僚曼荼羅」とか「政策曼荼羅」呼ばれることもあります(笑))大企業でも有りがちですね。これに関して以前にこんな記事を書きました。「ねえ、こういうのってそろそろ、止めませんか?」笑)こういう概念図のようなものって、決算説明会でアナリスト達を煙に巻くにはいいかもしれませんが「外国人には全く通用しない」ですよ!分かってますか?

これ、作った人が誰だかは存じませんが(多分、広報部門とか?)・・・自分でこの資料をもってしてアメリカ人(Fieryならイスラエル人)をちゃんと説得・納得させられると本気で思ってますか?彼ら百戦錬磨ですから「オ~、イェ~、また日本企業ってこれかよ」ってなもんですよ(笑)英語の資料作ってプレゼンの練習でもしてみて下さいよ!プレゼンを英語にすると直ぐに「日本語と英語との構造の違い」がわかります(後述します)。

説明会資料では小川社長の発言として:

 また、11月中旬には、私を含めた今回の案件を推進した経営陣とともに現地に赴き、従業員との対話を通して、直接本件に関するエプソンの想いなどをお伝えする予定です。

という部分がありますが、そこでまた上記のような「漠然とした概念」を英語で説明するのでしょうか?相手もカルチャーショックだろうなあ(笑)

こんな「漠然とした概念」とか「想い」ばかりいつまでも話していると★★ではないか?と思われますよ!9月19日にビデオメッセージを送ったんでしょう?もう概念・想いはそれで十分です。具体的な話をしましょう。

責任役員は誰なの?

これも、当初から言い続けてますが「この案件を担当する責任役員はどなたですか?」・・・これが全く見えません。逃げてるんじゃないの?或いは小川さんが「任命できない」とか?

決算説明会資料では小川社長の発言として:

 また、エプソングループの仲間として活動を円滑に開始するために、PMIに関するプロジェクトチームを編成し、Fieryと密にコミュニケーションを取りながら対応を進めています。

という部分がありますが、そのプロジェクトチームの責任役員はどなたですか?PMIもいいですが、その後ずっと Fieryの面倒を見ていく責任役員ってどなたですか?まさかそれを決めずに連帯責任・共同責任ですか?その人が自分の責任で、自分の言葉で、官僚曼荼羅のような漠然とした資料ではなく、具体的な手順に落とし込んだ説明資料を作らないとアメリカ人・イスラエル人には通用しませんよ!

私を含めた今回の案件を推進した経営陣・・・なんて曖昧なことを言っていたら馬鹿にされますよ!「顔の見えない日本企業」ってよく言われますが、「今回の案件を推進した経営陣」なんて正しくそれですよね?

持ち帰って検討・・・なんてのも禁句です。なんだ、お前には権限がないのか?ってなります。PMIは「最初の 100日間」が勝負です。そこに「今回の案件を推進した経営陣」なんて曖昧なのではなく、ちゃんとハラを括った「特命全権大使=今後も継続的に Fieryの面倒をみる責任役員」を当ててリーダーとすべきです。え?そんな人材いない?知らんがな(笑)

でも、それがいないと・・・馬鹿にされて終わりますよ・・・日本的な「何人かの役員で責任を分担する」なんて絶対に有り得ません。まあ、絶対とまでは言わないにしても最後に決める人は明確にしておくべきです。まさか小川さんじゃないですよね?

少しだけ文化論の話をします。主語を曖昧にすることができる日本語と違って、英語や印欧語は「I」であり「ich」と主語が明確なんです。印欧語で主語を省略する場合には動詞がその役割を担います。英語の I am はイタリア語で io sono(イオ・ソ~ノ)といいますがイタリア語では ioを省略できます。何故なら sonoは ioとセットでしか使われない動詞(英語で言う be動詞)だからです。英語でも偶に I を省略して am だけで済ませますね。amは I にしか使われない be動詞だからです。ことほど左様に印欧語文化では「主語を明確にすることが重要」なのです。

日本人はこういう場合に「We(私たち)」を使いたがり、暗に共同責任・連帯責任を仄めかしますが、それはあくまで発話している主語 I がリーダーシップを持って We(us)を巻き込んでいく・・・ということで、あくまで主体は I なのです。その I は誰なんですか?

IT Strategies の Marco Boer氏の見解

今回の JITF2024に米国 IT Strategiesの Marco Boer氏を招聘し基調講演をやってもらいました。その中にエプソンによる Fiery買収に触れた部分があります。私がこれまで持っていた疑問と見解が簡潔に纒められています。資料と YouTube動画の公開も含めて Marcoには了解を貰っていますので(本来は参加者限定のところ)大盤振る舞いで一般公開します。太っ腹(笑)

• 業績はシュリンク方向
• 顧客数10社程度、すべて複写機/複合機の販売減少の影響を受けやすい
• コスト削減により極めて利益率が高いが再投資が必要(SIRIS傘下で徹底的コストカットされた)
• エプソンブランドで多くのセグメントで産業顧客と競合する(WFG、繊維、ラベル)
• 5億9100万ドルを支払い:利益の約10倍もの支払い
• なぜ、こんな買収を?

約1時間の動画ですが、Fiery案件に触れた部分は 45:15あたりからです。ポイントのみ超簡潔に要約しておきましょう。

  • かなり高い買い物をした。経済的には到底意味をなさない。
  • 非常に高収益に見えるが徹底的なコストカットされた結果だ。何かやるには追加投資が必須。
  • もし意味があるとすればエプソンが産業用プリント分野で追加であと何社かを買収して一大グループを形成することだ。
  • しかしそれは大変リスキーで、歴史的に非常に保守的だったエプソンに出来るだろうか?

私なりに解釈して纏めると:

  • 投資回収計算が成り立つような投資ではない。高過ぎる評価をしたと思われる。しかし・・・この話、誰がエプソンに持ち込んだんですかねえ!小川さんが独りで決めたとは到底思えないけど、推した人って誰なんですかねえ・・・
  • Fieryが高収益に見えるのは SIRIS傘下で徹底的なコストカット・人員カットをされた結果である。それは Private Equityの常道
  • 一方で CEOの Toby Weiss氏は「現状のオペレーションはそのまま維持する」と繰り返し発言しているし、EPSONも(その意味が分かっているのかどうか不明ながら)それに合意している。それって Tobyにしてみれば「ふふふ、しめしめ(笑)」てなもんで・・・何故なら・・・
  • 現状の人員は既存の事業を維持するために(最低限)必要なのだから、シナジーを求めてなにかやろうとすれば追加投資が必須となる。基本的に Fieryはエプソンを「長野銀行」と見ていることは肝に銘じておくべき
  • PMIやその後のエプソンとの関係は「何をやるために、どのくらいの追加投資・費用投入が必要か?」という生臭い話に必ずなるし、それは避けて通れない。そんな際に「概念曼荼羅」なんて全く役に立たないだろう。そしてその交渉をするには「ちゃんとした・顔が見えるリーダー」が必要だ。曖昧な共同責任体制なんて通用しない。

例えば「こういうシナジーを生むために、こういうプロジェクト(ツ)をスタートさせよう」・・・みたいな具体的な話になる。そして「現状の人員リソースはは今の顧客に対応するために使うのだから(・・・エプソンも合意しただろう?)新規に人材を雇用して開発費を投じて、具体的には $XXmilになる。それってかなりの額になる。大プロジェクトとして一時に多額になるのか、いくつかの少額プロジェクトで合計すると多額になるのか・・・いずれにしても結構多額になる。小出しにじわじわと・・・気が付いたら多額になっているという手を使うかも・・・

これを「オーケー」というのか「ノー」というのか・・・「ノー」という選択肢はないハズ!だって「概念曼荼羅」で「シナジーを生む」って書いてあるじゃん?え?あれって嘘なのか?で、誰が決めるんだ?誰が責任者なんだ?・・・こういう話に「必ず」なります。ならなければ何も起こらない=何のために買収したのかわからなくなる。さあ、どうします?小川さん?

ういう時って日本企業はうろたえて「どうする、どうする?」と適切な回答が見いだせないままに時間だけが経っていくのが通常。時間稼ぎとかして、結局しょぼい回答しか返せないか、黙ったまま・・・ああ、恥ずかしい(笑)今回、今まで情報開示が無かったのと相似形です。責任役員がちゃんとしてたら即答していたハズですね。

アナリストの友人から決算説明会での様子を聞きましたが、小川社長は「前向きな雰囲気があり、非常にフレンドリーな人たちが多い。特段我々は違和感を持つようなことはない」といったそうです。当たり前じゃんか(笑)このタイミングでアンフレンドリーになり必要なんて全くない。Fieryの誰に訊いても「We are excited to work with EPSON」以外の答えは返ってきませんよ(笑)だってオカネの話をしてないんでしょ?無駄だから誰の首を斬るとか言ってないんでしょ・・・この段階では?

  • マルコは「意味があるとすれば、追加で何社かの産業用分野の企業を買収して一大グループを形成しその中に Fieryを位置付けることだ」と述べている。全くその通り!そのくらいのことをやらないと 800億円は無意味かもしれない。
  • 個人的にはいっそ efiインクジェットを SIRISから買って「セットディールだから思い切り安くしろよ、なんならタダでつけるとか?あんたらだってこのままでは efiを抱えて心中になるんじゃないの?」くらいなことを言いたいですね(笑)
  • 「これから少し時間はかかるがエプソン+Fiery+追加で買収することになる何社かで一大産業用インクジェットグループを作っていくんだぜ!それは必ず efiインクジェットと競合になりその価値は毀損される一方だ、わかるだろ?だから今のうちにタダで手放しちゃえよ!」(笑)
  • 資金的にはこの第2四半期末で手元資金が 3,000億円もバランスシートにあるんだから SIRISに 800億円払ってもまだまだ余裕でしょ?
  • しかし、同時にマルコは「歴史的に非常に保守的だったエプソンにそれができるか?」とも言っている。暗にできないだろう?と言っている。
  • 私は然るべき人がいれば出来ないことはないと思っている。その人は明確な顔の見えるリーダーで、概念曼荼羅など語らず、ビジョンを持ちつつ仕事を手順に落とし込める人物であるべき。あ、言わずもがなだけど英語は必須(笑)

結局、ここまで数多の日本企業が欧米系の企業を買収して失敗~上手くいっていないのは、ひとえに「欧米イスラエル企業と、英語で互角に渡り合える顔の見えるリーダー」が居ないのに投資を先行させてしまったからである。(あ、これは必要条件であって十分条件ではないですよ!ハーバード出て英語ペラペラだからいいという話ではないです)

エプソンの場合にも投資は先行してしまったわけだが、あまた失敗を繰り返してきた日本企業に学んで、それらとは一線を画して是非成功して欲しい。辛口で書いてはきましたが、それが私の切なる想いです!

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