- 2022-8-7
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デジタルとAI技術による圧倒的な生産性向上と、業界をリードする「脱炭素社会」ソリューションの実現を目指す。
インタビュー – 2022年7月20日
WORLDFOLIOの記事を翻訳します
金岡良延|株式会社カナオカホールディングス 代表取締役社長
問:この25年間、日本のモノづくりを真似た地方メーカーが台頭し、安い人件費を武器に、日本は大量生産市場からはじき出されてきました。しかし、多くのニッチ分野やB2B分野では、依然として日本がリーダー的存在であることがわかります。地域の競合企業との厳しい競争にもかかわらず、日本企業はどのようにしてニッチ分野でのリーダーシップを維持してきたのでしょうか。
金岡社長:日本のメーカーは、顧客やサプライヤーと丁寧にコミュニケーションをとることに長けています。営業担当者は、顧客から何が必要かを細かく聞き出し、サプライヤーから必要な情報を引き出すことを徹底しています。そして、それらが社内で完全に統合され、製造工程で完全に再現されるのです。私が経験した限りでは、アジアのメーカーはそのやり方があまり得意ではありません。営業が十分に顧客に入り込み、顧客の真のニーズをつかみ、それを製造の段階で満足させることができれば、相対的に高い価格で売ることができ、製造原価の差を克服することができます。このやり方は、特に組立産業、B2B、オーダーメイドで有効です。
問:金岡ホールディングスは1951年に設立され、約70年にわたりお客様のご要望に応えてこられたと思います。その歴史について教えてください。また、この69年の間に、どのような出来事がありましたか。
金岡社長:父が会社を設立して間もないある日、一人の偉大な起業家と出会いました。その日から、私たちの会社の発展は始まったのです。その偉大な起業家とは、山崎製パンの創業者である飯島藤十郎氏です。彼は父に、「高品質で安価な包装紙とたくさんのトラックがあれば、パンを大量生産して売ることができる」と何度も言っていました。1962年、キャストポリプロピレンフィルムが発売され、飯島氏の構想は実現されました。山崎製パンは全国に事業を展開し、今や売上高1兆円を超える日本有数の企業グループとなった。その大躍進に追随して、私たちも順調に事業を拡大することができました。前日の注文で翌日のパンの生産が決まります。生産サイクルが極めて短い食品です。そのため、包装材も極めて短い納期で提供する必要がありました。当社の最初の特徴である「短納期」は、この過程で生まれたのです。
2つ目の大きな節目は、1998年の大手CVSの参入でした。その後、このCVSは中食の販売を強化しました。弁当、おにぎり、サンドイッチに加え、調理麺、サラダ、デザート、惣菜などのテイクアウト食品です。これらの食品は加熱処理をしないため、包装材に「超清潔性」が求められます。私たちは、”包装も食品の一部 “というスローガンを掲げて、この要求に応えてきました。埼玉第3工場(2006年)、関西工場(2011年)など、最新鋭の工場を建設しました。また、AIB(2006年)、FSSC22000(2013年)などの国際的な食品安全認証も取得しました。ハードとソフトの両面から対策を講じたということです。その後、食の安全・安心は日本でも広く求められるようになり、包装資材の「超清潔性」は当社の第2の特徴になりました。
今年1月に完成する令和工場は、その3つ目の大きな節目となるものと期待しています。令和工場は、世界初の水性インクジェット印刷の商業生産工場です。この工場によって、デジタル技術やAI技術による圧倒的な生産性向上と、水性インクジェット印刷による業界トップクラスの「脱炭素社会への転換」を実現することができます。
問:御社が安定した成長を維持できている理由を教えてください。
金岡社長:日本の軟包装市場は、大日本印刷と凸版印刷という巨大な印刷会社2社が4割近くを占め、大きな影響力を持っています。彼らと競合しないために、私たちは「彼らがやらないこと」「彼らがやれないこと」に目を向けてきました。つまり、独自性を追求し、市場を創造していこうとしたのです。具体的には、「短納期」「超清潔」など、他社が容易に真似できない特徴をセールスポイントとしてきました。
また、常に時代の流れを読み、先取りすることを心がけてきました。具体的には、CVSにいち早く納入したことや、現在、同業他社が手掛けていない水性インクジェットの開発に注力していることが挙げられます。
問:水性インクジェット印刷は、溶剤系印刷に代わる環境にやさしい印刷方法ですね。御社の麗和工場では、世界で初めてこの水性方式で軟包装を商業生産されていますが、速乾性がないと混色してしまい、画像がぼやけてしまう可能性があります。商業生産のために、この課題をどのように克服されたのでしょうか。また、水性インクジェット印刷の実用化に向けて、障害となったことはありますか?
金岡社長:水性インクジェット印刷で、滲みのない鮮やかな印刷を実現するのは、難しい課題でした。それは、当然のことながら、水性インクはプラスチックフィルムに浸透しないからです。そこで、さまざまな種類のプラスチックフィルムの表面を、水性インクがうまく印刷できるように前処理するコーティング材と、短時間で乾燥させる高性能な乾燥機を開発しました。これによって、この問題を解決しました。コーティング材と乾燥機は、パートナー企業と私たちが共同開発した独自技術です。
水性インクジェット印刷の開発では、にじみのない鮮やかな印刷を実現するまでに難しい問題がありました。それは、他の既存の印刷方式と色調をどう合わせるかという問題でした。印刷方式やインクが異なる場合、同じ色調を再現するのは大変なことです。そこで私たちは、長年の経験とデジタル技術、AI技術を融合した「自動カラーマッチングシステム」を開発しました。従来、色合わせは熟練工による長時間の作業が必要でした。今回開発した「自動調色システム」では、どのような印刷方式であっても、短時間でお客様の希望する色調に限りなく近い色調を再現することが可能になりました。
当社の『オートカラーマッチングシステム』は、印刷業界全体に極めて大きな影響を与える画期的な発明です。グーテンベルクの印刷機以来700年、実にさまざまな印刷方式(オフセット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷など)が発明された。これらの印刷方式はすべて短時間で色合わせができるようになりました。
当社のインクジェット印刷は、グラビア印刷とほぼ同じ色調を、時間をかけて色合わせをすることなく表現することができます。そのため、小ロットはインクジェット印刷、大ロットはグラビア印刷と、ロットに応じて印刷方法を選択することができます。お客様にとっては、包装資材の無駄を省くことにつながります。また、お客様とともに、環境に対する社会的な貢献もできます。
問:日本は世界で最も高齢化した社会です。今後15年で、日本人の3人に1人が65歳以上になると言われています。このことは、日本企業にとって2つの大きな問題を提起しています。ひとつは労働危機、もうひとつは国内市場の縮小です。日本の人口動態の状況は、金岡にとってどのような課題と機会をもたらすのでしょうか。
金岡社長:ご指摘の通り、少子高齢化は非常に深刻な労働力不足と需要の喪失をもたらします。工場での労働力確保は年々難しくなってきています。その結果、当社では海外からの技能実習生を受け入れています。
しかし、人手不足を解消するための本質的な方法は、生産現場の人数を減らすことです。製造業の中でも軟包装製造業はデジタル化が遅れています。そこで、インクジェット印刷で培ったデジタル技術やAI技術の知見を、既存のグラビア印刷に応用することで、人手不足の影響を軽減することを検討しています。具体的には、「自動カラーマッチングシステム」をグラビア印刷に活用することで、熟練工が必要なカラーマッチングの時間を大幅に短縮することができます。同一ロットや複数ロットでの色調の違いを防ぐことができます。また、工場内でのフィルムロールの搬送を完全自動化した「自動ロール供給システム」は、工場内の作業員を大幅に削減することができます。
縮小する国内市場を補うため、成長するアジア市場へも積極的に進出しています。現在進出している中国、タイ、インドネシアに加え、来年はベトナムへの進出を予定しています。冒頭でお答えしたように、日本のメーカーは社内外のコミュニケーションを重視し、丁寧に仕事をします。特に、B2Bやオーダーメイドの典型である軟包装製造業では、こうした仕事のやり方が有効だと考えています。
問:日本はプロセスの自動化ではトップクラスですが、デジタル技術の導入に関しては、IMDのデジタル競争力ランキングで28位にとどまっています。今回、自律移動型ロボットや「自動調色システム」など、デジタル技術やAI技術を活用したレイワ工場を建設されました。数年後には、この工場で完全自動運転が実現する予定ですね。完全自動化に向けて、金岡の課題とチャンスは何でしょうか。
金岡社長:インクジェット印刷機の更新に力を入れており、3年以内の完成を目指します。この機種では、あらかじめ印刷データを蓄積し、AMR(Autonomous Mobile Robot)と連動させることを目指しています。前述の通り、軟包装材の生産は自動化が大きく遅れています。当社のインクジェット印刷機と「自動調色システム」「自動ロール供給システム」を組み合わせることで、軟包装の製造においてもインダストリー4.0(第4次産業革命)を実現することができるのです。これは、おそらく印刷業界では世界でも初めてのことだと思います。そのための実験工場として、私たちは礼文工場をつくりました。今後、この仕組みが完成したら、既存の工場のグラビア印刷にも応用・拡大していく予定です。
問:御社のビジネスモデルにおいて、コラボレーションやコ・クリエーションはどのような役割を担っているのでしょうか。また、海外での共創パートナーは募集していますか。
金岡社長:当社は現在、「脱炭素社会」の実現に向けた研究開発に取り組んでいます。その中心にあるのが、水性インクジェット印刷機です。水性インクジェットプレスは実用化されつつあり、それを進化・完成させるためには、インクやドライヤーなどの新技術がさらに必要です。脱炭素社会への転換」の完成というテーマは社会的意義が大きく、開発を急がなければならないと考えています。本製品は、これまで限られた日本のインクジェット印刷機メーカーと日本の特殊インクメーカーとの協業で進めてきました。これからは、オープンイノベーションのアプローチで、世界中の優れた技術を持つメーカーとコラボレーションすることで、開発スピードを高めていきたいと考えています。このテーマに関心のあるメーカーの方々のプロジェクトへの参加・協力を期待しています。
問:今後の展開として、どのような国や地域を想定し、どのような戦略で臨んでいるのでしょうか。国際事業戦略についてお聞かせください。
金岡社長:先ほどもお答えしたように、中国、タイ、インドネシアにはすでに進出しています。来年はベトナムに進出する予定です。私たちは、アジアに独占的に進出しています。それは、アジアが成長している地域だからですが、もうひとつ理由があります。私見ですが、アジアの人々の印刷物に対する嗜好は、欧米の人々に比べて非常に敏感です。欧米では、軟包装はフレキソ印刷が一般的です。
一方、アジアでは、グラビア印刷が好まれます。グラビア印刷は、フレキソ印刷に比べると圧倒的に美しい。今回開発したインクジェット印刷は、グラビア印刷に匹敵する印刷品質で、CO2削減など環境にもやさしい印刷方法です。アジアでもグラビア印刷と同様に広く受け入れられると確信しています。
問:御社は71周年を迎えられました。75周年の時にまた来るとしたら、それまでにどんな目標を達成したいですか?
金岡社長:主に2つの目標があります。
ひとつは、「脱炭素社会への転換」と「工場のデジタル化」というコンセプトを完成させること、その中心にあるのが、私たちが開発した水性インクジェット印刷機です。そして、このシステム(水性インクジェット印刷機、「自動調色システム」、「自動ロール供給システム」)を、脱炭素社会・高齢化社会における軟包装のデファクトスタンダードとして世界に広めていきたいと考えています。
もう一つは、ベトナムでの事業展開を成功させることです。ベトナムへの進出は、数年前にNPO法人を通じて社会貢献活動を開始したことに始まります。これまでに、ベトナム北部に3つの学校を建設しました。その卒業生が都会で働くのではなく、地元で働く場を提供するために、地元から工場を建設してほしいという依頼がありました。この工場では、当社のやり方(いわゆるメイド・バイ・ジャパン)を丁寧に伝えていくことで、高品質で美しい軟包装材を生産していきたいと考えています。