FESPA2018(ベルリン)報告(1)-1/2

例年通り、活況を呈したFESPAでした。昨年のハンブルグより期間が1日短縮されたにもかかわらず、ベルリン開催の今年のFESPAも多数の参加者を集めたとの主催者発表です。初めてFESPAを視察した人にとっては、間違いなく世界最大のワイドフォーマット機の展示会として目に映ったことと思います。

一方、私はFESPAにこの十数年、ほぼ毎年のように来て、大きな流れを掴んでいるつもりですが、活況の中にもやや変調の兆しを見ましたし、ここに至る過程でも恐らく紆余曲折があったのだろうということも感じました。全部でどのくらいの報告となるかまだ未定ですが、第一回目はこれまでの流れと、変調の兆しや、私が感じた微妙な違和感について書いてみます。

FESPA公式サイトより

■ FESPAとは?

今更ですが「FESPAって何?」に関して、公式サイトから幾つかの情報を拾っておきます。About FESPAには「FESPA is a global federation of 37 national associations for the screen printing, digital printing and textile printing community.」「FESPAは、スクリーン印刷、デジタルプリンティング、テキスタイルプリンティング業界向けの37の全国連合の連合体です(google翻訳)」と書いてあります。

そしてそのミッションは “To be the leading globally connected imaging community re-investing its profits for the purpose of inspiring, educating and growing the industry” 「業界を刺激し、教育し、成長させるために、利益を再投資する、世界的に結びついた世界のイメージング・コミュニティーであること」とされています。

公式サイトの「FESPAの歴史」によると、発足は1962年、今から半世紀以上前で、欧州でスクリーン印刷を生業とする印刷業者達が業界団体を結成したことに遡ります。流石にその時代のことは想像がつきかねますが、オフセット文化とまで言われる日本の印刷シーンと異なり、ヨーロッパではスクリーン印刷がかなり重要なポジションを占めていたようです。特にサイン用途グラフィックや、プロモーション用Tシャツなど、サイン広告業界がその主要な顧客母集団でした。

インクジェットが産業用プリンタとして実用レベルに到達した時、最初に進出したのがこのスクリーン印刷の世界でした。基本的にシリンダ回転で印刷し、ライン速度の速いオフセット・フレキソ・グラビア(及びロータリースクリーン)とは異なり、間歇運動のスクリーン印刷の速度が初期のインクジェットのターゲットになったものです。オフセットなどの高速印刷の領域を脅かすのは、シングルパス技術が発展軌道に乗った最近のことです。

私がインクジェットに関わり始めた2000年前後から、布にプリントする技術が発展を初め、FESPAもサイン業界だけではなくスクリーン捺染業界にもそのフォーカスを拡げていきます。サイン向け大判機を作っていたメーカー達が捺染業に展開を始めたからです。しかし、やがてそのテキスタイル向けワイドフォーマット機が高速化していくと、プリンタメーカーもFESPAからITMAやITMなど、繊維機械の川上を対象とした専門の展示会に土俵を移していきます。私も前職で、ある時点からFESPAから撤退を決め、ITMAなどにフォーカスすることにしました。反応インクや分散インクを搭載したナッセンジャーは、サイン向けのテキスタイルを指向していなかったからです。またMSやEFIなど、元々は捺染業界のプレーヤー達はサイン系展示会と繊維系展示会で出展機を変えていたりします。

FESPAに残ったのは、昇華転写やダイレクト昇華で、旗・幟・バナーや展示会デコレーション向けのテキスタイルプリントとなります。やはり同じテキスタイルプリントとはいえ、広告サイン業界と、アパレル向けサイン業界ではかなり様相が違ったのでしょう。FESPAはアパレル捺染業界を取り込めなかったということです

AGFAはプリンタを展示せず、代わりに「LEGO」で組み立てたプリンタの模型を展示

durst は展示会から撤退

■ durstの展示会からの撤退(?)

これまで常にFESPAの中心的な出展者だった durst が、今回のFESPAにはブースそのものがありませんでした。そういえば、昨年までは出展していた Heimtextil にも今年はブースが無かったということを思い出しました。出展した企業が話題になるのは当然ですが、出展しなかったことが話題になるのはやはり durst だからでしょうね。

いろいろ訊き込んでみたところ、durst は FESPA や Heimtextil を含め、すべての展示会に今後出展せず、その代わりにプライベートショーを開催する決定をしたとのことです。同社の Gamper 社長に直接確認した話ではないので伝聞情報・憶測の域を出ませんが、いくつかの理由・背景が推測できます。
1.FESPAの出展費用が高い(高くなってきている)。FESPAの主催者との価格交渉が決裂した
2.durst の機器はハイエンドで大型。セットアップと撤収に時間と費用がかかる割に、展示会での効果が少ない
3.durst の機器は特定少数のプロフェッショナル業者が顧客層で、機器の購入者の90%は既に durst を保有している業者である
4.durst が展開している産業用インクジェット分野は、建材・セラミック・ラベル・テキスタイル(ホームファーニシング)など多岐に亘り、訪問者がサイン業界が主体の FESPA が必ずしも魅力的ではなくなってきた。

1.出展費用の高額化に関しては多くの出展者達がそう感じているようです。durst はプライベートショーを開催するとのことですが、今回はちょうどFESPAの開催期間に合わせて、同社の本社がある北イタリアの Brixen(Bressanone)で開催するとのことで、FESPA に喧嘩を売っていると見えなくもありません。まあ、もともと出展するつもりでマシンやスタッフのアロケーションをしていたのでその日程になったのかも知れませんね。drupaやほかの展示会はかなり高い入場料を来場者にも求めますが、最近のFESPAは実質無料となっているようで、その分は出展者の負担増になっているのでしょう。

2.セットアップと撤収の費用対展示効果も十分理解できます。2015年のITMA(繊維機械の大展示会)で、MSやSPGが巨大なワンパス機を会場設置して実機デモを行った中、私は前職コニカミノルタで、ワンパス機SP-1を会場設置せず、クルマで30分くらいのロケーションに新設した新オフィス兼デモセンターに恒久設置し、そこに会場から潜在顧客やジャーナリストなど関係者をピストン輸送するという手段を取りました。今回のベルリンのFESPAは昨年のハンブルグの5日から4日短縮されたこともあり、その費用・期間対効果のバランスは更に悪くなったとの判断はありと思います。おそらく同様の事情で AGFA は今回は機器を一切展示せず、レゴで作った模型を展示していたということでしょう。

3.元をただせば durst は「プロラボ」「コマーシャルラボ」と呼ばれた業務用・商業用大判写真を扱うラボ業者に対して現像機や引伸機などの機材を供給するハイエンド機器メーカーです。空港や駅貼りのポスターなどが銀塩写真からインクジェットにシフトする中で、自らもインクジェット機器にシフトしていきましたが、顧客層はそういうプロラボでした。当時のピオク社長は「世界には大小約1,000社のプロラボが存在するが、自分はそのすべての社長と知り合いだ」と豪語していました。

その後、建材やセラミックに展開していきましたが、そこでも同社の顧客は「不特定多数」ではなく「特定少数」で、固有名詞で個々の顧客・潜在顧客を把握しているということなのです。ならば、プライベートショーで、そこを狙い撃ちにするというのも十分理解できます。おそらくそういう顧客・潜在顧客達には「展示会で大きなブースを持っている」という形で存在感をアピールする必要性が薄いということなのでしょう。

4.についてはもう少し深い考察が必要と思います

長くなったので、ここまでを報告(1)の1/2として、続けて2/2を書きます

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