- 2018-6-4
- イベント参加報告
前項からの続きです。durst が FESPA に出展しなかったことの背景として:
「4.durst が展開している産業用インクジェット分野は、建材・セラミック・ラベル・テキスタイル(ホームファーニシング)など多岐に亘り、訪問者にとってサイン業界が主体の FESPA が必ずしも魅力的ではなくなってきた。」ということも関係しているのではないか?との推察に関して書きます。
これらは FESPA が企画するサブイベントです。Trend Theater は業界のコンサルタントや出展者達に、業界トレンドや自社の戦略、その戦略に至った認識に関してプレゼンをしてもらう場です。私もヘッドやナッセンジャーに関して何度かスピーチをしました。出展社は単にブースを持つだけでなく、こういう場でアピールしないと勿体ないと思います。
新しい試みとして:
1.PRINTERIORS:これはHeimtextilなどに事例が見られるように「家具」「インテリアの布アイテム」へのプリントを紹介して、そこでの認知を促進しようとするものと考えられます。場所は入り口を入った目立つところに設置されていました。が、特別にプロモートしようとする気配は感じませんでした。動画をご覧ください。
2.PRINT MAKE WEAR:これはドイツの公的機関DITF(ドイツ繊維染色機構)や各社が提唱するDTMF:Digital Textile Micro Factory を FESPA として公式にプロモートするコーナーです。
この動画にあるように「とりあえず、各工程の機器を並べてみました」感があります。同じDTMFでも Kornit のブースはそれなりに筋が通っているように感じます。大事なことは「誰かが、ちゃんと強い想いを持って、そこを仕切っているか?それを実現させようと本気で思っているか?」ということかなと思います。
3.DIGITAL CORRUGATE EXPERIENCE:インクジェットによる段ボール印刷をプロモートしようとするコーナーです
■ 以上、ざっと見ましたが、FESPAとしてもインクジェットのテーマのトレンドに沿って、そのフォーカスを拡げようとする試みはやっていると見受けられます。ただ、その見せ方があまりに素人的で「とりあえず流行りのテーマをアップしてみました」的な印象を拭えません。
FESPAという展示会のメインフォーカスは FESPA AWARD の対象分野に典型的にみられるようなサインやPOPなどですが、インクジェットの応用は必ずしもそこに留まらず、マーケットインであろうがプロダクトアウトであろうが、凄いスピード感でどんどん新しい分野を開拓していきます。中には、まだ業界が形成されていない分野や用途にもどんどんトライしていきます。その動きにFESPA(あるいは出来上がった展示会)は迅速について行けていないのではないか?これまでの発想で処理できていないのではないか?そんな気がするのです。
FESPAのレビューに関する公式発表をみても、ポジティブな大本営発表の行間に、危機感を垣間見ることが出来ます。かつてFESPAはインクジェットが急成長する過程で、それに特化した FESPA DIGITAL という展示会を立ち上げました。成熟したスクリーン印刷と発展目覚ましいインクジェットを、展示会を分けることで対応したのです。それが昨年2017年のハンブルグ開催で再び統合したのです。おそらくスクリーンFESPAだけでは展示会が成り立たなくなったのでしょう。
昨年は統合したため会期を5日間と設定しましたが、今年は4日間としました。公式発表では今年の入場者数は37,000人強だったとのことですが「4日間開催の過去のFESPAと比較して最高」とか「一般個人の休場者数は過去最高」などと統計のマジック的表現が多く、手放しで喜べる伸びではなかった、危機感を持ったということでしょう。
しかし、こういうことは(どういう印象を与えたか?とか数字は伸びたのか?は)結局は経営問題ですよね!表に出る現象の裏には、かならず組織の課題、そしてそれに最終責任を持っているトップの思想(あるいは「無思想」)に帰着するなにかあるものです。FESPAの経営者がいかにそれを自分で咀嚼して、自分のモノとして本気で取り組んでいるのか?それは必ず目に見える形となって表に現れると思うのです。(今話題の某大学の事例に照らせば明らかかも…)
実は、インクジェットの応用力・展開力に着目してFESPAからスピンアウトした展示会があります。InPrintという展示会で、Frazer Cheterman と Marcus Timson という二人が「インクジェットはサイン用大判機以外にもっと可能性があるはずだ!」との思いからFESPAから脱藩して別の展示会業者と組んで立ち上げたのがInPrintです。(その際に顧客リストを持って行ったとかなんとかで、ちょっとトラブルもあったとか聞き及びます。展示会もそれ自体「産業」なので当然競合もあります。)InPrintを視察された方はお分かりかと思いますが、そこにはワイドフォーマット機ではなくワンパスのエンジンや、サイン以外の様々な用途を提案するブースが並ぶ、ユニークな展示会となっています。
InPrintの誤算というか、Challenge は「サイン向けワイドフォーマット機以外の、様々な応用分野が伸びていく速度が想定よりずっと遅かった、当初思い描いていた程の速度で爆発的には発展しなかった」ことにあろうかと思います。そのギャップに苦労しているように見受けられます。一方FESPAも、そういう内部の意思を旨く行かせなかったことを反省して、新たな取り組みをしてはいるが、「脱藩してまでもやる!」という強い想いで FESPA の存在を賭けてやるほどハラがすわっていない…そんな構図が見えるのです。これが私が感じた違和感の正体です。
■ しかし、これってどこかで聞いたような…?
本体事業が成熟から曲がり角にさしかかり、何か新しいことに取り組まないといけない(…と、上から言われる(笑))。しかし、その上にも自分にも新しい分野の知識や、そういう課題にどう取り組んでいいいかの経験はない。で、表面だけ新しいことに取り組んでいるようなポーズをとってお茶を濁す。そんなもん、そこで体張って、自分のカネをかけて事業をやっている人達から見れば茶番に過ぎないのに…
一方、これからはこれだ!との強い思い込みでスピンアウトしてみたものの、その思い込みよりは現実はもっと複雑で重かったことに気が付く新規事業のパイオニア達。自分達の思い込みだけでは、100年かけて出来上がってきた世の中の構造やビジネスモデルは、そう簡単には変えられるものではない、技術だけが全てではないことに走りながら気が付く。
ここに、日本の既存印刷とデジタルプリントの関係や、電子写真とインクジェットの関係のアナロジーを見てしまうのは私だけでしょうか?
■ FESPAは、2017年にハンブルグ、2018年はベルリン、2019年はミュンヘン予定とドイツが続きましたが、2020年はマドリードに決まったとのことです。
2020年と言えば、そうでなくても drupa と Interpack がデュッセルドルフでひと月違いで開催されることになっており、どこにどのように予算を配分し、何をどういうコンセプトで展示するかを、いまから真剣に考えなければ…という、なにかと気ぜわしい年です。
日本の電子写真系大メーカーの社長及びプロダクションプリント事業責任者の方々、そこお分かりですよね?drupaのブース申し込み締め切りは今年の秋ですよ!どういうdrupaにしたいか、どういうInterpackにしたいか、あなたの瞼の裏にあなたの会社のブースの様子が浮かびますか?部下に考えさせるのではなく、あなた自身のビジョンと発話が必要ですよ!(笑)
さて、その2020年に、HPのワイドフォーマット機の総本山であるバルセロナからも近いマドリード開催!さて、なにを考えているのでしょうか?そしてどういうことになるのでしょうか?