- 2021-5-26
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シュパーゲルの話(7) Spargelzeit -7-からの続きです。
「何故この時期、ドイツ人はシュパーゲルにこれほど熱を上げるのでしょうか?」というテーマで書き始めて、前半部分を facebookに公開したところ、実に大勢の方から様々な反応を頂きました。有難うございます。この熱の上がり方は、日本だと何に相当するんだろう?というのが大きな疑問のひとつでもあるのですが、これにもいろいろご意見を頂きました。そのあたりも加えて、この話にオチをつけようと思います・・・果たしてつけられるのか?(笑)
4月のイースターの頃から町の至る所のレストランの前にはこういう黒板が並びます。ちょっと似たところでは日本の町中華の「冷し中華はじめました」の張り紙でしょうか(違)。また店の外や店内の「本日のお勧め」を書く黒板メニューもシュパーゲルメニューで埋まりますし、定番メニューのファイルに「シュパーゲルメニュー」の紙がエキストラで挟まれて出てきます。こういう現象を引き起こすものって、日本だと何に相当するんだろう?ま、冷やし中華でないことは確かです(笑)
「筍」がそれに近いのではないか?というご意見がありました。確かに、春になって地面から顔を出し、日本の春の食卓を彩る食材としては近いものがあります。産地が全国に分布しており、旬の掘りたてのものは比較的高級食材とされることも共通項です。ただ、やはりそこらじゅうの和食屋の店先に「旬の若竹煮あります」とか「旬の筍の刺身入荷しました」という張り紙がでるか?・・・う~ん、それはないよなあ。京都などの高級和食料理屋などではシーズンには予約も取れないようですが、もともとキャパは大きくない老舗料理店での現象と思われます。ドイツにおけるシュパーゲルの規模感とはかなり差があるように思います。
↑↑ 京都の老舗料亭「錦水亭」のサイトから
← Weathernews.comから借用
食材ではないけど「桜」がそれに相当しないか?これは目からウロコでした。確かにそれは言えます。南から桜前線と共に北上し、沖縄から北海道まで、ひと月以上も日本全国を彩り、去年と今年はコロナで例外としても、人々の気分を高揚させ、春が来たなあ!と実感させる・・・食材ではなく、全国同時期一斉ではないにしても、「冬の間待ち望んでいた春が来た~!」感というのは共通のものがあると思います。
CC 表示-継承 4.0, リンクによる
楊洲周延 – 不明, パブリック・ドメイン, リンクによる
2枚とも Wikipediaから引用
シュパーゲルが桜や筍と大きく違う点がひとつあります。桜も筍も「旬は自然に終わり」ます。筍はある時期を過ぎたら「竹」になってしまい食べられないし、桜は頼まれなくても10日間ほどで散ってシーズンが終わります。まあ、だから短い旬の間に楽しもうという気にはなりますね。これに対してシュパーゲルは強制的に旬が終わらされるのです。日本にいる人にはあまり知られていないかと思いますが、ドイツのシュパーゲルは 6月 24日で、世の中から消えます!
キリスト教の影響下にある諸国では、Namenstagとして聖人の名前が付けられている日があります。たとえば 12月 6日は「Nikolausの日」として子供達がクリスマスプレゼントを貰う日、11月 11日は「St.Martinの日」としてガチョウを食べたり提灯行列をしたりします。シュパーゲルに関係するのは 6月 24日の「Johannistag ヨハネの日」で、ドイツではこの日を最後にシュパーゲルは収穫もされず、レストランメニューからも完全に消えます。4月半ばからの「シュパーゲル狂騒曲」は 6月 24日を持ってピタリと鳴りを潜めるのです。
「この日を過ぎるとシュパーゲルは苦くなる」と言われますが、この日を過ぎても栽培・収穫を継続すると、翌年の収穫量が目に見えて落ち込むという研究結果があるようで、安定した収穫量を確保するために、農家が長い間かかって学習し獲得してきた経験値・生活の知恵なのでしょう。筍や桜ほど短い旬ではなく、イースター明けから、6月 24日まで約2か月ありますが、この「終わりの期日が明確に切られている」という限定感も、盛り上がりの要因としてあるように思います。
■ 余談ですが・・・というか、ほぼ全編余談ばかりではありますが(笑)、ドイツではこういう期限に関する不文律がいくつかあります。例えばクリスマスツリーは 1月 6日の Heilige drei Könige(三聖人の日)を以て撤去されます。またクリスマスソング(Weihnachtslieder)を歌っていいのは待降節(Advent)に限られています。うっかり夏場に口ずさむと「えっ?なんで?」みたいな顔をされます。少なくとも、私が居た北ドイツではそうでした。カトリック地域では別の不文律があるかもしれません。
私は駐在中に子供が現地の幼稚園から小学校に在学し、学校のクリスマスの劇では長男が「Heilige drei Könige(東方から来た三人の博士)」の一人を演じたりして、現地の親仲間からいろいろなことを教わりました。聖マルティンの日の提灯行列も子供と一緒に参加しました。日本に居たら知らなかった経験ができたという意味で、いい思い出です。
・・・さて今回、オチをつけるつもりでしたが、Googleでいろいろ検索しているうちに、また面白い情報を発掘してしまいました。そこに触れずにはこの項を終われません(笑)もう少しお付き合いください!
シュパーゲルの話(9) Spargelzeit -9-に続きます・・・次回は「何故ドイツ人はシュパーゲルにここまで熱いのか?」の経済側面です・・・多分ね(笑)