中国:ITMA ASIA 2018 上海 (9月15~19日@国家会展中心)視察メモ (3/6)


視察メモ (2)からの続きです

【3.インクジェットヘッド・インク・プリンタなどの技術総合メーカー】

ヘッドを有しているエプソンとコニカミノルタがこれに相当します。両社とも1兆円規模の企業ですが、それぞれのメインの事業は成熟してきており、産業用のインクジェットに新たな成長の牽引を期待しているという側面があります。ヘッド・インク及びプリンタの技術を総合的に有しているということは、外部からヘッドやインクを購入してプリンタを開発する(せざるを得ない)メーカーと比べて自由度が高く、最適化のサイクルも速く、技術上は非常に有利なポジションにあると言えます。

しかしながら事業は技術優位だけで成立するものではなく、むしろそれをどう市場に浸透させていくか、更にはどういう使命感や大義名分を背負っていくかという洞察と覚悟、その事業の遂行に関わるチームのモチベーションをどう高め維持ししていくかなどの側面も重要です。「事業の顔」という言葉を何度も強調しますが、SPGの Jos Notermans氏や、REGGIANIの Michele Riva氏のような、顧客との信頼関係を築き、それに人生を捧げている事業の顔=事業のリーダーが必要です。このあたりが課題に思われます。

また、この両者に限らず一般に日本の兆円規模のメーカーには、それを支えるメインの事業があり、それを効率的・合理的に推進するために築き上げてきた社内ルール・規程の体系・守るべき規範があります。それを作ってきた初期の世代は既に引退し、新たにその事業に参加した人達(典型的には新入社員、でも多くの経営幹部も同じ)には既に規程・規範ありきの中で育っています。が、「その規範・規程は産業用生産機を開発・事業化する為に作られたものではない」にも拘わらずそれを守ろうとする(守らせられる)傾向があり、それが事業展開の速度を圧倒的に遅くしています。

更に、中小企業では起きにくい現象ですが、大企業では営業・開発・生産という機能ごとに組織や組織長が別れていることが多いです。これは安定したメイン事業を維持するには効率的ではありますが、実際の事業判断は営業や開発といった組織で完結することは非常に少なく、開発・営業・生産を束ねる上位概念のリーダーがハラを括って迅速に決断し全軍に指示を出す必要があることが殆どです。事業の「顔」というと外面のみに誤解されるかもしれませんが、開・生・販全体に指揮命令権を持つリーダーのことです。こういう体制になっていないことが課題に思われます。

更に更に、成熟期にあるメイン事業をかかえた兆円単位の企業が、新たな分野に進出・獲得する場合、どうしても「規模」を期待されます。1兆円の企業にとっては中期的には少なくとも 10%、即ち 1,000億円が目標になりますし、比較的短期間でその半分の 5%=500億円の実現を求められたりします。それを中期計画としてコミットさせられ、四半期ごとに「何故未達なのか!」を、事業を知らず、安全地帯に居る管理部門から査問を受けたりします。事業部長は市場に顔を売る以前に、社内の説明に追われたりします。

ミマキエンジニアリング:部門別売上推移

同売上金額推移

ミマキエンジニアリングの公開資料によれば、同社は全社で 500億円規模の企業ですが、その中のテキスタイル分野も永年注力してきた結果、業界では大きな存在感があります。それでもまだ 60~70億円の規模です。イタリアの有名どころの MSや REGGIANIにしても現状では 100億円前後の規模と推定されます(イタリア企業の場合は法務局で確認可能とのこと)。

捺染市場は推定で2~3兆円規模とされており、その僅か1%でも 2~300億円なわけですから、大企業視点の目標設定があながち間違っているとは思いません。但し、そこに至るには大企業的発想を捨てて、市場に沿った事業開拓と技術開発という基本に立ち返る必要があるというジレンマをどう解決するかということでしょう。

【セイコーエプソン】


イタリアの機器パートナーのロブステリを買収し、イタリアでしっかりポジションを確立している Monna Lisaを文字通り手中に収め(その前には助剤などを扱う FORTEXを買収している)、自社技術の大判プリンタをベースに市場伸長が著しいとされる昇華転写分野にも進出、更にはこれも市場伸長が大きいとされる DTG(Tシャツプリンタ)にも進出するなど、テキスタイルの諸分野を積極的に貪欲にカバーする姿勢が見えます。今回はイタリアでは既に安定した実績のある Monna Lisaが中国で初登場ということもあり、集客もかなりのものがあったと思います。

インクジェットの技術的にも、もはやそれを議論する段階を通り越した実績と名声があります。課題があるとすれば、やはり前述のように、同社のメイン市場とは全く異なる「生産機としてのテキスタイルプリンタ」に取り組む考え方や具体的な進め方ということになるのでしょう。中でも中国の市場は、サードパーティによって形成されたインク価格相場がかなり安く、それだけでも大きな課題ですが、世界の工場としての中国の捺染工場に求められていることは、イタリアのそれとは同じではありません。そこにどう気が付いて、誰が判断・舵取りして、素早く適応していくのか?なかでも「誰が」という事業の顔が早期に見えることを期待したいと思います。

【コニカミノルタ】


私の前職なので具体的な裏話を書くわけには行きませんし、自分の負の遺産もあるかと思うので痛し痒しでもあります(苦笑)。従って、あくまで客観的に、一般論としてのコメントとなります。ホンマに客観的になれるのか?(笑)

インクジェット技術の総合力は、ヘッドやインクを含めたハードのみならず、画像処理などを含めて非常に高いレベルにあると思います。またテキスタイル分野を広くカバーしようとしているエプソンとは異なり、本格的なアパレル捺染分野に集中していますが、その分、シングルパス機 SP-1も持っており、実用的には最もおいしいセグメントの高速スキャン機も2機種持っており、トルコまでを含めた欧州や中国での、アパレル捺染業界での存在感はかなりのものがあると見えます。

課題があるとすれば・・・これまで書いてきたことの繰り返しになるので割愛します(笑)。

【ITMA2019(バルセロナ)に向けて】

アホな動画をアップしておきますが、これは 2015年にミラノで開催された ITMAでのプレス発表の動画で YouTubeにアップされています。この時にシングルパス機 Nassenger SP-1をお披露目するにあたり、「このレベルの本格生産機はダウンタイムを極少化して安定稼働することが重要!Nassenger SP-1にはそれを支える技術群が採用されている!」というの訴求したのですが、それを Petura Clerk の Down Townという曲の替え歌を作ってプレス発表で披露したのです(笑)

簡単な歌のように思えて案外歌いにくいのですが、途中で自作の歌詞を忘れかけて大赤面ものではあります(笑)ただ「ダウンタイムを極少化するというのが大方針」というのはプレスの人達にしっかり伝わったと思います。

来年 2019年 6月にはバルセロナで4年に一度の繊維機械大展示会 ITMAが開催されます。EFIがこの の11月に満を持してのシングルパス機 BOLTを発表するのは、その ITMAで本格攻勢に出る準備であることは明らかです。年中行事としての展示会ではなく、DRUPAや ITMAのような「4年に一度の展示会」は、大きな目玉が必要です。エプソンもコニカミノルタも、それに向けて何らかの仕込みをしていることと思いますが、是非「事業の顔」が、それを大きく打ち出してプレゼンしてくれることを期待したいと思います・・・歌まで歌えとは申しませんが(笑)

■ 視察メモ (4) に続きます

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