ITMA 2023(2):まずは総括から 【技術トレンド】

ITMA 2023(1):まずは総括から 【会場の建付け・出展者概要】からの続きです

通常は各ホールや各社の紹介をしてから総括を書くのですが、今回は6週間の時差ボケ(いや老人性か?(笑))の調整が長引いているので、まずは全体像の印象や、気になった点などの総括から始めます。

【ITMA 2023(2):まずは総括から 【技術トレンド】

1.まず、既に十分伝わっているのではないかと思われますが出展機に搭載されたインクは顔料インク」が主流となっていました。縞猫商会の松井さんのデータベースでカウントすると、出展機の半数以上が顔料インクを搭載していたことになります。

2.それも「前処理剤をインラインで吹くタイプ」「前処理不要を標榜するタイプ」「紙にプリントして転写するタイプ」「乾燥機内で後処理をするタイプ」などバリエーションが豊富で、各社を上げての努力を感じます。

3.しかし、これをして「将来は顔料インクが主流になる」と断定するのは少し早計と思われます。確かに展示会での出展シェアは顔料インク搭載機が 50%を超えてはいますが、印象としては各社とも「SDGs指向」とか「染料はもはやレッドオーシャン」などという、メーカーの論理や都合でやっている側面も(まだ)大きいように思われます。

4.勿論、これだけの数のメーカーがあの手この手で高画質・高品質な顔料プリントを提案するパワーの総量は馬鹿にしたものではなく、一定の推進力にはなるでしょう。

5.ITMAでは流石に少数派でしたが、サイン・グッズ業界の展示会 FESPAでは DTFが花盛りでした。これはメーカーの論理というより、DTFが従来のグッズやスポーツアパレル業者のお困りごとを巧みに解決し、かつ参入障壁も低い安価・小型プリンターなので百花繚乱状態となっています。「市場からの引き」がドライビングフォースになっているのです。

6.これに比べれば顔料はまだ積極的な市場からの引きや需要を生み出せている気がしません。各社とも「従来の顔料インクの課題(風合いや、色域や、黒の深み不足や、堅牢度など)をこのように解決しました」・・・と、技術先行の段階と見えます。

7.顔料インクの特徴は、従来の典型的な捺染工場に既に設備として投資済みの発色機や洗濯機が不要で、ヒートローラーがあれば済むという点で、手軽さは昇華転写に似ています。昇華転写が作った市場は従来捺染を一対一で置き換えたのではなく、従来捺染をやっていなかった人達にプリント業に参入する道を開いたということでしょう。顔料インクもそういうところに普及の糸口があるのかも知れません(私見です)

8.とある、業界に詳しい方の指摘ですが「布送りのベルト搬送に『地張剤』を使った段階で、そのマシンのコンセプトは迷走している」・・・何故なら、『地張剤』は均一に塗るために熟練を要し、塗り替える際にも強力な溶剤を必要とするので、昇華転写プリンターが普及しているサインショップなどに扱える代物ではない・・・ということに特に日本メーカーの開発屋は気が付いていない。開発段階では換気設備などのある実験室でやるため、使われる現場とかけ離れていることに気が付かない。

9.要は、『地貼り剤』を使う=サインショップなどでは使えない=従来捺染業などのプロしか使えない・・・わけで、ではその他の仕様がプロ仕様になっているか?・・・このあたりの迷走感が凄い!とのことです。

10.プリンターサイドでは、ITMA 2015(前回はバルセロナの ITMA 2019、ITMA 2015はその前のミラノでの開催)では勢いのあったシングルパス機が 2019では勢いが止まり、今回は大量のヘッドを搭載した高速スキャン機が主流となっています。

11.シングルパス機はMSが一世を風靡し、コニカミノルタ、SPG、Atexco、少し遅れて efi-Reggianiが Boltを市場投入しましたが、Atexcoは聞かなくなりましたし、その他もあまりポジティブな噂を聞きません。有能な技術者が集団で抜けた MSも今後は新規開発ができるような気はしません。唯一コニカミノルタの SP-1のみが設置台数が徐々に増え、かつ設置機が確実に稼働しているようです。今回も設置した顧客の工場見学会を実施し、順調に生産に寄与しているところを見てきました。

12.それを例外とすれば、主流は価格がシングルパス機の半額以下のスキャン高速機を複数台設置して異なるインク種などで運用する方が合理的というコンセンサスに達したように見えます。

13.その他には、ミマキエンジニアリングが提案していた「ネオクロマト技術(プリントした昇華転写インクを『抜染』する)」・「顔料転写紙」、エプソンが展示していた「機能性インクを追加でプリントする(インクジェットというよりディスペンサー)」、MASが提案していた垂直布送り両面プリントなど、インクジェットでまだまだやれることはあるという感じです。

14.また形が見えやすいハードウェアのプリンターとは異なり、一見地味なソフトウェア分野ですが、BROTHERはMYZEという生産管理ソフトを訴求、またコニカミノルタは本橋さんという駐在員が顧客の現場に入り込み、顧客のデータベースにアクセスして便利なアプリをそこで開発してあげるというサービスを展開していました。こういうのは日本の開発環境ではまず思いつかないことで、メーカーがお客を囲い込むというより、これに慣れた顧客は本橋さんを囲い込みたがるんでしょうね。

15.ユニークな技術に関してはまた情報が入り次第、加筆していきます。

 

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