- 2018-9-12
- トピックス
【 インタビューを終えて 】
「どんな球を投げても、必ずヒットゾーンに撃ち返してくるイチローのようなバッター」・・・意外にもそんな感覚が残りました。巷間言われる「剛腕」「傲慢」という感じは一切なく、ちょっとしたイジワル質問も、きっちりとマトモでスキの無い答えを返してくる・・・という感じです。
本当は「もう疲れっちゃったぜ、ボードにごちゃごちゃ言われるのには」とか「実は、あの M&A は失敗だったんだよ。俺にも判断ミスってあるんだ」というような本音を期待したところもありました。まあ、この程度のツッコミで、そんなボロを出すようでは19年もの長きに亘って、アナリストやステークホルダー達からの鋭いツッコミに耐えられた筈はありません。そういう意味ではタフでクレバーな人物だと言えます。
19年の CEO 在任期間といえば、米国はおろか日本でもまれな長期政権の部類に属するでしょう。背後にどんな事情があるにせよ、節目の $1 Bil を達成した今、「何故交代?そろそろ交代の時期だろう」といえば、普通に通る話だろうとは思います。逆に、「だからこそ何故、今なんだろう?19年やったなら20年の節目までやってもいいじゃないか?」とも思います。
これは全くの Guess ですが、19年の間にボード(取締役会)との確執は全く一度も無かったのだろうか?という疑問はあります。最高執行責任者 CEO に対して、ボードの役目は「経営の監督」とされています。19年前に彼が CEO として就任した時、ボードから与えられたミッションは「苦しくなっていくのが見えている Fiery のコントローラー事業の一本足から脱却して、EFI を成長させ、株価(企業価値)を上げること」だった筈です。
当時の EFI はキャッシュリッチではあるものの、主力事業のコントローラーは顧客が自社開発を始める構えも見せ始め、貯めたキャッシュを使っても何か先があるものに投資しないと、所謂 Green mailer 日本でいう村上ファンドのような「モノ言う株主」に留保したキャッシュの株主還元を迫られかねないポジションにありました。そこで彼は MIS (経営管理)ソフト方面と産業用インクジェットへ方面への展開を軸として打ち出し、主として M&A によって成長分野への業容の拡大を進めていき、$500 Mil の会社を $1 Bil にまで成長させました。
この点に於いては、ボードの期待通り、あるいはそれ以上の結果を残したと高く評価できるかと思います。一方株価はどうかというと、意外なことに必ずしも順調に右肩上がりという結果を残してはいません。株価は公開情報なので下記にグラフを示しておきます。
長期で見ると、彼の在任期間に40件の M&A を行い、その都度市場にポジティブな話題を提供してきましたが、「結果が全て」とクールに言い切ってしまえば、この(右の)長期グラフが全てです。これに対しては株主やボードは何かしらプレッシャーをかけた(かけ続けた)ものと考えて不思議ではありません。
細かい数字は書けませんが、私は、先人からインクジェット事業を引き継いだ時点では実質ゼロだったところを、さしたる M&A をせず、ほぼオーガニックな手段のみでそれを三桁の億円事業にしました。インクジェットに関わって17年、Guy とほぼ同じ期間に事業を何倍にしたかという点でだけでは、彼をを大きく超えています。とはいえ、1兆円規模の企業の一部に過ぎなかったので、取締役会との確執などというものからは無縁でいることができましたが、もっと成長させろ!という期待と圧力はひしひしと感じていました。
そんな私の視点からはボードに対して「そこまで言うんなら、他の誰かにやらせてみろよ!」と言ったとしても納得できます。(実際にそうだったのかどうかは知るよしもありませんが・・・)。産業用インクジェットの世界は確実に、着実に伸びて行きつつありますが、コンシューマーグッズやソフト・アプリのような爆発は期待できません。産業用インクジェットの初期段階ならともかく、今ぶつかっている壁があるとすれば、それは「世の中の既存の仕組み」というファンダメンタルな壁です。
Guy が言った「$500 Mil から $1 Bil にした。これを更に $2 Bil や $3 Bil に(株価も上げつつ)伸ばしていくのは誰か別のスキルを持った人がやるのがいい」というのは、そこの難しさを踏まえた反語だったのではないでしょうか? M&A で成長と簡単に言っても、もはや買えるインクジェット事業体は世の中にあまり無いところまで来ています。「これまでに買ったリソースのシナジーで」、「事業を成長させながら」、「株価も伸ばす」・・・そんなことをボードが求めるのなら、誰か探してやらせてみれば?大野ならそう言いたくなりますね(笑) OKY と言ったかも知れません。竹下元首相の孫の DAIGO 語で「(O)お前、(K)ここに来て、(Y)やってみろ!」という意味です(笑)
日本企業に欠けているもの、あるいはアドバイス・・・これについても彼は「スピード感」、「国際的な Customer Intimacy」、「いいところをキープし、ほんの少しアジャストすればいいと思う」とスマートでマイルドな答えを返しました。
語彙の少ない私なら「リーディング・ポジションにいる役員や上級管理職がリーダーとして機能していない、それでもクビにならない」、「いつまでも勉強や情報収集している(させられている)企画マン達」、「安全地帯で実感のない数字を作って、自分では手を汚さず失敗もしないで出世する経営企画管理屋」、「国際的な場で人前に立たない(立てない)リーダー」、「トップセールスをやらず(できず)内輪の関連会社訪問でお茶を濁している執行陣」・・・なんて言っちゃうところですが(笑) でも、彼はその「ほんの少しのアジャスト」が、いかに難しいことかを知っているのでしょう。
彼の後の EFI はどういうことになるのか?なんと言っても、EFI には彼の時代に獲得した技術資産があります。「ソフトウェア専業メーカーがインクジェット事業にシフトする過程では数々の買収は必須だった・・・でも、これからはオーガニックに成長を目指すだろう」と、彼自身も言っていたように、これからはそういうピースを組み合わせ、シナジーを生んで、新たなリーダーの下でギアを入れなおして更なる成長を目指すでしょう。EFI にはそれだけの財産があると思います。
一方で、EFI を含む産業用インクジェットやデジタルプリントが更なる成長をするためには、技術志向の企業が陥りがちな「プリント速度や解像度の向上、色域拡大」のみではなく、既存の世の中の仕組みを壊していくこと、一企業の努力を超えたアプローチが必須だと思います。私が微力ながら目指しているのも、日本企業群に、そこに気が付いてもらうこと、そしてそれをやってもらうことなのです。アプローチやテイストは少し違うかもしれませんが、これから彼がやるだろう仕事は、恐らく同じ方向のことだろうと感じています。そういう意味で、今後とも彼は私のヒーローであり続けてくれることでしょう。
(1/3) DURST について・ラベルとパッケージ分野について・REGGIANIとテキスタイル分野について
(2/3) M&A について・日本企業について・後任と今後について