渋谷の神宮前の一角に小さなアートギャラリーがいくつかあります。そんな中の一つ Utrecht(ユトレヒト:オランダの町の名前)という、アート系の書籍を扱う店で開催されていた「顔料プリントによるデザイナー傘」の展示・受注会を覗いてきました。
Turnyというブランドで「Turny(ターニー)は、晴雨兼用のオールジェンダーな傘ブランド。べーシックな無地色と、コラボレーター STOMACHACHE. @myzktme のイラストレーションで展開します。」という説明がインスタグラムにあります。またこちらのサイトをスクロールしていくとオシャレな写真とこの受注会や関係者のプロフィールなどがあります。
イラストを描いたのは「Miyazaki Tomoeさん:STOMACHACHE.)、
これをプリントし、傘という布製品を実現するまでの段取りを手配したのが「TEXT」という布を素材としたアートを手掛ける「大江よう」さん。インスタグラムはこちらです。
大江さんのインタビュー記事も大変興味深いので是非ご一読ください。
クリエイターインタビュー前編|大江 よう(「TEXT」主催)
「TEXT」代表・大江ようさんインタビュー
この傘の布地はコットン、プリントはコーニットの「PRESTO」で行ったとのこと。シルクスクリーン印刷と遜色ないしっかりした色やエッジのシャープ感が出せているとの談です。大野がインクジェット視点で見ても、難易度の高そうな淡色のフルベタが見事にフラットに出ていると感心しました。
プリントするロールの綿布は有効印刷面積が 1.4m x 40mくらいで、そこから 70本位の傘用のパーツ布を切り出すそうですが、スクリーンだと同じ柄の傘を 70本作らざるを得ないところ、インクジェットの場合は受注したパターンを自由にプリントできます。下の写真はクリックするとスライドショーになりますが、いろいろなパターンのデザインがあり、どれが売れ筋かは事前にはわからないので、予測生産で在庫を持つのではなく、受注したものをプリントするインクジェットが最適とのこと。
スクリーン版が不要なので、データを送れば2日でプリントは上がってくるとのこと。その後、撥水加工を別の加工業者に依頼して傘の製造に回るそうで、サイクルもシンプルかつ迅速。
日本の傘製造産業は絶滅危惧種のようで、職人さんの多くはなんと 80歳代!60歳は若手だそうです(驚)ビニール傘や安価なものは低賃金国からの輸入品が大半になってしまったと思われますが、国内製造が生き残るには、例えばこういうアート系の製品を在庫レスで受注生産するなども方向の一つだろうと思います。
傘とコーディネートして、それを収納する部分が付いたバッグも企画されているようで、更にはウエアなども構想にあるようです。次回は名古屋で「2022年10月6日(木)~ 10月23日(日)」に展示・受注会が行われるそうです。中京地区の方は是非!
〒464-0807 名古屋市千種区東山通5-19 カメダビル2A & 2B
TEL/FAX: 052-789-0855
営業時間 / 12:00 – 20:00
定休日 / 火曜日
名古屋駅より地下鉄東山線で15分、 東山公園駅下車。2番出口より徒歩1分。
ビルのスロ-プ上がり2階へ。
【Instagramが創り出す新たな需要の構造】
もうひとつ、私が面白いなと思ったのが、こういうアイテムの告知・受注・流通経路。Instagramというお馴染みの画像投稿サイト。以前、これもコーニット絡みで DTGを活用して Reamというブランドのガーメントプリントを制作している UTAさんを活動をご紹介しましたが、そこでも「夜に Instagramに新作をアップすると、翌朝には 100着以上の受注が・・・」とのことでした。
クリエイターや、その製品化をサポートする大江さんのような存在、実際に傘を製造販売する大森商店が立ち上げた(と思われる)ブランドなどがそれぞれが Instagramに投稿し、そのフォロワーやそこからの口コミが購入に繋がる・・・という図式でしょうか。
従来の一次卸・二次卸などを経て店舗に並ぶのとは全く異なり、またクリエイターがウェブ上にオンラインショップを展開できる BASEや SUZURIなどとも異なるルートが出来ているようです。特定のクリエイターの Instagramをフォローしている、所謂「支持層」・・・
かつてはピエール・カルダンとかイッセイ・ミヤケのような超有名なデザイナーのブランドのアイテムを購入して満足感を得るというところから、自分がプライベートに支持しているクリエイターのものを購入して、応援するという感覚も含めての満足感・・・「多様化の正体」を観たような気がします。
【現代のバウハウス?】
たまたま今「誰も知らないドイツの町シリーズ」で、ゲーラという町にある「Museum für Angewande Kunst」のことを書いています。翻訳アプリでは「応用芸術博物館」と訳されてしまいますが、Angewande Kunstとは「日用品アイテムに取り入れられた芸術」というような感じで、観賞用の芸術品ではなく、食器や家具や衣服などに取り入れられた芸術を指します。例えばバウハウス運動の中でデザインされ生産された食器や家具などを想像して頂ければいいかと思います。今回ご紹介したものも、アートを傘という日用品として具体化したという点ではバウハウス運動やアールデコなどに通じる部分があるように思います。
ただバウハウスなどは「アートを(職人手作りの)工芸品から(量産)工業製品に」というノリだったわけですが、今回の取り組みは「同じものを大量生産する」というものではないところが異なります。デジタルプリントというツールを得て初めて実現できる「個別にカスタマイズが可能な工業品」です・・・勝手に名付ければ「ノイ(ネオ)・バウハウス運動」(笑) 1920年代のバウハウス時代にデジタルプリント技術があったとしたら、彼らは何を創っていたでしょうか?