業界各社 2021年度 年間決算発表状況(1):エプソン・キヤノン

各社の 2021年度(22年 3月期)年間決算発表が始まりました。キヤノンやローランド DGなどは暦年決算なので、2022年度第一四半期決算の発表ということになります。例によって決算数値そのものよりも、この先をどう読んでいるか?それが四半期ごとにどう変わっていくのか?に重点を決算状況を見ていくことにします。今回は 2022年度の年間見通しをどう立てているのか?が関心の焦点です。

加えて、2月 24日に勃発したロシアによるウクライナ侵略戦争の影響をどう見ているのか?2月末といえば今年度予算策定が佳境に入っているタイミングで、戦争の行く末やその業績への影響を織り込むというのは至難だったと思われます。また、それ以前に個々の企業としてそれにどう向き合っているのか?そのスタンスにも注目したいと思います。今回はエプソンとキヤノンです。

セイコーエプソン

四半期ごとの売上高(左)・営業利益(右)推移です(単位は百万円)。嫉妬を買ってしまうくらい、文句のつけようのない業績推移です(笑)。すべての四半期で、コロナの影響を受けた 2020年度を超えたのは言うまでもなく、まだその影響が無かった 2019年度を上回っています。特に第4四半期の営業利益は、減損等の特殊な処理が無く、またここに来ての急速な円安による為替差益などの恩恵もあって、160億円もの利益を上げています。

↓↓ 下のグラフはそれぞれ売上高と営業利益のここ3年間の実績と、2022年度の見通しです。売上高はなんと 2021年度事績に対し、16.9%増・1,911億円増の 1兆 3200億円を見通しとして公表しています。ホンマ、嫉妬を買いまっせ(笑)。それに比べると、営業利益はコロナ前の 2019年度、コロナ初年の 2020年度の約 2倍を達成した 2021年度とほぼ同等とやや控えめに映ります。まあ、まあ、ここでまたスゴイ数字を見せると「やり過ぎ」との思いもあったのでしょうか?(笑)また、四半期決算ごとに上方修正していく作戦なのでしょう。余裕あるなあ(笑)

エプソンの決算説明資料に掲載されているコメントです。為替レートは「水物」なのでなんとも言えませんが、直近のレートは 130円/$・137円/€あたりで推移しているので、これも上方修正に追い風要因かと思われます。

↓↓ エプソンの決算説明資料に掲載されているコメントの続きです。コロナ禍による物流混乱には一定の目処をつけたという自信が垣間見えます。一方、ウクライナ戦争の副作用に関しては言及がありません。これは次回以降にアップデートされて計数に反映されるのでしょう。

↑↑ また、エプソンはロシア及びその「属国」であるベラルーシに関するスタンスを明確にしています。既に、ロシアによるウクライナ侵攻から2週間後にはプレスリリースで明確なメッセージを発信しています。これは日本や日本企業としてはかなり珍しい部類に属します。日本政府のスタンスに関してはこちらをご覧ください。こういう「原理原則の無い曖昧な対応」をするのが日本・日本企業の在り様で、それが海外からは「本当の仲間として受け入れてもらえない」要因なんだろうと思います。そういう空気・文化の中で、このように政治的スタンスを明確にすることはかなり勇気の要ることと想像されますが、私はこれを称えたいと思います。

ただ、敢えて一言申せば・・・今回はロシア・ウクライナの話であり、エプソンとしてもさほどインパクトの無い地域と思われますが、世界は既に「中国・東アジア」でも似たようなことが起こらないかに関心を抱いています。仮にアジア有事が勃発し、似たような事象が起こった際にはエプソンは中国に対してどういう行動を起こすのでしょうか?また現在でも新疆ウイグル地区や香港で明確な人権侵害が起こっているという認識がありますが、それに対しては「エプソンの企業行動原則」に照らすと、どういうスタンスなのでしょうか?あれはエプソンとしては許容範囲なのでしょうか?

キヤノン

四半期ごとの売上高(左)・営業利益(右)推移です(単位は百万円)。キヤノンは決算期が暦年なので、今回は 2022年度の第1四半期の発表ということになります。売上高・営業利益とも四半期としては過去最高を記録しており、計数的には順調な滑り出しと見受けられます

↓↓ キヤノンの場合は暦年決算なので、増収増益という年間見通しを立てたのは昨年末=ロシアのウクライナ侵攻など誰も想像していなかった時期です。その時期に立てた見通しでは増収増益となっています。今回、第1四半期を締めた時点は戦争が勃発した後であり、何らかの影響を織り込むことも可能だったと思われますが、公表された数字は「更に上方修正」という強気なものです。

↓↓ 決算短信にはこのようなコメントがあります。

↓↓ 第1四半期決算説明会資料にはこのようなコメントがあります。

ロシアによるウクライナ侵攻に関連するスタンスは明確ではありません。エプソンが侵攻から2週間後に「自社の行動原則に照らしてロシア・ベラルーシとの取引を停止する」と明言したのに対し、キヤノンは侵攻からひと月経って「ウクライナ情勢に関連する救援活動の支援について」というリリースを公開しています。

これは大方の日本企業に在りがちな表明で、ざっくり言えば「被害者ウクライナを支援する」というのは賛同を得られやすいので支援表明をするけれど、「加害者ロシア(+属国ベラルーシ)を糾弾する」という意思表明はしないのです。もちろんそれは各社の自主的な判断に任せられるべきことですし、対ロシアビジネスの重みによって悩ましいものもあると思われることは十分に理解します。エプソンにとってのロシアビジネスは売上高で全体の1%程度だったから、キッパリと宣言できたんだろうという穿った見方もあります。

とはいえ「キヤノンメディカル、ロシアのヘルスケア大手と合弁」・「キヤノンメディカルシステムズ,R-Pharm社とロシア・CIS地域における機器販売・サービス保守事業の合弁事業開始に合意」というような報道や発表もあったわけで、これらについて会社としてどういうスタンスを取るのかは、ちゃんとした態度表明があって然るべきではないでしょうか?

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