ロシアのウクライナ侵略への日本の基本スタンンス

ロシアによるウクライナ侵略はなかなか落としどころが見えて来ず、長期化・泥沼化の懸念もあります。また戦場での戦況とは別の次元で、エネルギー安保・経済安保・軍備の在り方・独裁国家との向き合い方・第二次大戦の戦勝国を軸とした国連の在り方・・・等など、「これまでの当たり前」だったこと、あるいは「これまで思考を停止してきた・敢えて考えないようにしてきたあらゆること」の、根本からの再考を我々に迫ってもいるように思えます。

ここで、大方の日本企業の 2021年度決算の発表が続きますが、今回は各社が「ロシアのウクライナ侵略」の影響をどう読んでいるのか?また、その前に各社はこの戦争にどう向き合っているのか?をチェックしてみたいと思っています。米欧諸国を軸に、ロシアに対する経済制裁が厳しさを増していき、それに呼応してロシア事業から撤退・停止する企業も増加していますが、日本企業はどうなのか?

それに先立ち、そもそも日本(政府)はこの侵略戦争にどう向き合っているのか?・・・を押さえておきたく、ここで大変的確な論考をご紹介したいと思います。私の中高大の先輩で、その後三菱商事に勤務、またハーバード大学にて MBAを取得された溝口直人さんのブログ(facebookにも投稿)からの引用です。

溝口直人氏 プロフィール

溝口 直人 / マネージングディレクター(DRCキャピタル(株)サイトから

1972年、三菱商事(株)に入社。技術関係取引に従事後、ハーバード・ビジネス・スクールに会社派遣留学。卒業後、主に豪州の石炭マーケティング・投資事業に従事、豪州における石炭採掘JV企業における役員を務める。1998年三菱商事の金属資源企画開発部長。1999年に三菱商事証券(株)を取締役副社長として立上げ、プライベートエクイティー・ファンドへの分散投資など機関投資家向け投資商品を企画・開発する。2000年より、三菱商事新機能事業グループの事業戦略室長(兼)CIOとして、金融・IT・コンシューマー・ヘルスケア等事業分野における新規事業の経営戦略や部門内情報システムを統括。2005年にDRCグループに参画。現在、(株)好日山荘、チャンルージャパン(株)取締役。

東京大学工学部卒業。ハーバード大学経営学修士(MBA)

【ロシアのウクライナ侵略への日本の基本スタンンス】

★今、昼のTVをちょっと見ていたら、どこぞの大学の先生が「日本の立場は、要は早く戦争が終わって欲しい。早く、世界、経済が正常化してほしいということですから・・・」と言っていた。なるほど、プーチンが完全勝利して高笑いし、ウクライナが完全に負けて滅ぼされて終っても、何でもいいから、日本としては戦争に早く終わって欲しいということだろう。

◆ つまり、日本は自由主義・民主主義グループの政治体制を守る側で声を上げるとか、平和憲法を掲げる国だからこそ武力侵略する国には強く反応し非難するとか、そういうことは、実際にはしたくない、どこともコトを構えず、ひたすらに自国の経済を追求する国ということか。

◆ ここで前に書いたことだが、政府のwebサイトのウクライナ問題の立場の説明シートで、3月16日の最初のバージョン#1では「ロシア非難」は入れずに「日本はウクライナと共に」だけだった、それが、政府は、4月3日の虐殺情報で考え込み、4月7日の#2で、漸く赤い文字で「ロシアは国際人道法違反、戦争犯罪。厳しく非難。」と書き込んだのだ。22日もの間、ロシア非難することと、しないことの損得を計算していたのであろう。

◆ では、なるたけロシアを非難せず、のらりくらりで、どことの関係を阻害したくなかったのだろう? それを国連総会決議の評決から考えてみよう。

・・・ 3月2日の国連総会の緊急特別会合で、ロシア非難決議が採択された時の賛成・反対・棄権の状況は全リストを上に貼り付けておくが、要点は次の通りだ:

(1)ロシア非難への賛成は、141カ国。米欧加・日韓・豪/NZは当然として、ASEANでは、フィリピンとミャンマーが賛成。中東では、賛成がサウジ、UAE、クエート、バーレーン、カタールと、以下(3)の通りイラン・イラクが棄権に回っている以外、圧倒的に賛成している。石油・ガス増産という商売では、折角価格が高騰しているのに、「OPEC+ロシア」のカルテル破りまでしたくない、したたかなサウジらだが、こういう政治決議では、さっさとロシア非難に回っている。

(2)ロシア非難に明確に反対したのは、ロシア、ベラルーシ、シリア、北朝鮮、エリトリアの5か国。侵略の当事者ロシアとベラ以外は、お馴染みの人権蹂躙の極致の3人衆だ。

(3)棄権した35か国だが、どこにあるのか良く分からない国(失礼!)もあるので、割と知られた国だけ書くと:中国、キューバ、インド、イラク、イラン、カザフスタン、モンゴル、モザンビーク、パキスタン、南アフリカ、ベトナムなどで、あとは、アフリカ・中南米の国の中からも棄権組がいる。

・・・これは3月2日の投票だが、今、再度採決すると、棄権は減るかも知れない。

⇒ 日本が、3月2日の国連決議では、流石に米国同盟国として「ロシア非難賛成」票を入れつつ、3月16日のウクライナ問題政府ポジション#1では、非難に触れず22日間、誤魔化してきたことで、どこの国とコトを構えたくなかったのか?

・非難決議反対の5国への気遣いは論外とすると、気にしたのは棄権国の一部に対してか? 結局、中国、あるいはインドか? そして、非難対象のロシアにも、北方領土の流れで、まだ気にしていたのか? 八方美人というより、具体的に気にした対象国があったはずではないか? その辺が気になる。或いは、単に、日和見体質なのか?

◆ 最後に書いておく。米国が敗戦日本を占領したが、割りと早めの6年目の1951年にサンフランシスコ講和条約で、日本の独立を認め、賠償責任を極く限定したこと、その上、同時に、米日で第一次の安保条約(日本の防衛のため日本に米国が米軍を維持することを承認)まで締結したのは何故か? いうまでもなく、戦後、覇権を強める共産ソ連、そして1949年に中国共産軍が北京を制圧という具合の共産主義との世界的な戦いのために、極東において日本と韓国に軍事拠点を置きたかったからである。また、米国が日本を自由主義・民主主義にしたのも、日本人にその素質があると思ったからではなく、日本の軍国化の阻止と共に、日本を忠実なる従属国とするためであった。

⇒ これは今でも続いている。日本がイザという時の米軍の本気の協力・援軍を期待したいなら、米国が、常々、日本こそは、欧州に並ぶ「真の同盟国」だと共感できる実績を築いておかねばならない。 台湾は、蒋介石政権が北京共産党と徹底的に戦い、また、蒋夫妻がキリスト教徒として広く米国民にシンパ形成した経緯があり、極東で、米議会・米国民が「心」から援軍したいのは台湾であって、日本ではない。

・・・それが、今回のロシア侵略に際しても、ロシア自身か、中国かを気にして、非難の旗幟鮮明にしたがらない日本、ウクライナが敗戦され滅ぼされることよりも自国経済の維持が圧倒的に大事な日本、それでは、いつまでも米国の真の同盟国にはなれないだろう。

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折角なのでもう一本・・・

【日本政府の「力による一方的な現状変更を許さない」の欺瞞・無責任】

★岸田首相の東南アジア訪問で、ロシアのウクライナへの侵攻問題については、行く先々で「力による一方的な現状変更を許さない」という何時もの日本独自の表現を掲げて、各国首脳との対話をして歩いている。日本と違い、アジア各国では米国・G7との距離もあるので、この日本の得意の、ロシアを名指し非難しない抽象的・婉曲語法が、アジアにはフィットし易いのであろう。

◆ しかしアジア諸国に対しては、何とかこれでも良かろうが、前からここに書いている通り、この日本独自の表現「力による一方的な現状変更を許さない」は、日本が属する米国・G7の世界においては、かなり問題がある欺瞞的なものになると考える。

【1】「力」とは何か?: 

・日本政府は、これを「武力」とは言わない。しかし、「力」にも、政治の力、経済制裁などの力、また、武力にしても実際の武力行使もあれば武力圧力まである。
・ 「現状」の意味も曖昧だが、一般的には、領土主権・国際条約等と理解されている。それを「変更」するには、変更したいと思う勢力による何等かの「力」の発揮があることになる。
・・・・国際社会において問題とされるのは、いかなる類の「力」の行使までは適切で、「一方的」でもないと判断されるか?である。そして、その適切性の判断基準には普遍的原理があり得るのか、専ら、ケースごとの個別判断になるのか? というような点に対する各国の姿勢が問われているのである。

⇒ ところが、日本政府は、斯かる問題から逃げる。日本人の得意な曖昧さのままにしておきたいのだ。つまり、言っていることは、現状変更があった場合、それが不適切な「力」による「一方的」なものなのか?、日本として「許せない」と思うべきなのか? その基準は特に定めたくない、その時々の日本の勝手な判断の自由度をくれ、ということだ。それでもいいが、それなら、ケースごとに、どう ”勝手”な判断をしたかを明確にすべきだろう。でないと、結局、判断を回避する「逃げ」に終わる。

⇒ それを、ロシアのウクライナ侵攻の例で言おう:
① 2014年侵攻と、今回の侵攻は、いずれも「武力行使」という「力」を使っている。この例での「武力」は「適切な力」ではないと判断するならば、「力による一方的な・・」云々ではなく、「ロシアのウクライナへの武力侵攻による実効支配の変更の動きは、これを強く非難する」と言うべきであろう。
② この2月のウクライナ東部州の独立承認をロシア政府が出した、この「国家承認」は、適切な「力」の行使なのか? 個別国家の国家承認は、国際法的にも個々の国の自由である。しかし、このケースの場合、それはウクライナの主権を大きく侵害する「不当な政治的な力」であると私は判断する。しかし、日本政府は、それも言いたくない。ただただ一般論として「力による一方的現状変更はNGだ」と言うだけに留めておきたいのである。

【2】「許さない」とは何か?:

・ロシアのウクライナ侵攻でも、ロシア政府は何も日本政府に許可を求めている訳でもなく、日本政府が「許さない」と囁いても、ロシアには聞こえないだけだ。
・本当に「許さない」なら、ロシアがした「許せない現状変更」を「是正」し元に戻す運動を、日本として行うのが筋だろう。
・しかし、誰かが「力による一方的現状変更」をしてしまった場合、それを是正するには、かなりの「力」が必要なのである。中国が南沙諸島で武力的威圧の下で島に軍事基地を建設した、この現状変更を是正するには、強力な「力」が要る。政治圧力、経済制裁、あるいは中国軍に対峙する何等かの武力。

⇒ しかし、日本が言う「力による一方的な現状変更を許さない」は、そういう是正努力を、自ら閉ざし逃げる意味にしかならない。「力」により変更されてしまった島の状況、ウクライナ東南部のロシア支配、これが今や「現状」になる。その「現状」を是正するには、更なる大きな「力」が要る。しかも、西側が「力」を発揮しようとする場合、中国・ロシアからすると「一方的」な「力」の行使になるのだ。

⇒ だから、日本が「力による一方的な現状変更を許さない」という時、それは、「力」による「是正」もやらない、というか、最初から「是正」はやる気がないことを自己正当化のために、逃げを打っているようなものなのである。要はただの「きれいごと」、つまり欺瞞でしかないのだ。

◆ 以上のとおり、日本の「力による一方的な現状変更を許さない」ほど、ズルく無責任なものはないと、私は強くそう思う。だから、日本のリーダーがこれを言うたびに、心を痛めるのである。

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