展示会報告 FESPA2017 ハンブルグ(2)

5月8日(月)~12日(金)の5日間の日程で、北ドイツのハンブルグにて大判プリンタの展示会FESPAが開催されました。前回報告で全体概要とHP・efi・OCE(Canon)・DURSTについて書きましたので、今回はその他のメーカーやトピックをカバーします。特に重要度・知名度の順に並べてあるわけではありませんが、ご了解をお願いします。

【DGI(韓国)】:韓国の大判機の老舗

韓国の大判プリンタメーカーで、dilliというUV機に特化したメーカーの兄弟会社で、実際に崔兄弟の兄がDGI、弟がdilliを経営しています。写真のBryan Choi(崔)氏は崔兄弟の兄の方の子息で、DGIの次期社長とされています。dilli はUV機に特化し、欧州のAGFAにOEM供給もしており、一方のDGIはUV機以外を担当しています。溶剤機からスタートし、水系インクでテキスタイル、最近は水系昇華転写、更にはダイレクト昇華インクなどでサイン用途テキスタイルと多角的な展開を図っています。

DGIの次期社長 Bryan Choi氏

DGIの次期社長 Bryan Choi氏

バックリット・テキスタイル

バックリット・テキスタイル

右の写真は所謂バックリット、後方から光を当てるタイプの広告看板で、多くはフィルム、ないしは薄手の塩ビが使われています。最近ではこれに代わりポリエステル系の布地が使われる傾向があります。フィルムより扱いが簡単で、塩ビより軽く、巻かずに折りたたんで運搬することも可能というメリットがあります。インクの進化で、透過光でも鮮やかな色が実現できる、特に黒がしっかりした黒を出せるようになってきたのがポイントと言えます。

これはPCIMという半導体関連の学会の様子ですが、館内の案内板は(バックリットではありませんが)同様に布地が使われているのがわかります。また、ポスター発表のポスターも従来は紙やボードにプリントしていましたが、ここでも布地へのプリントが見られるようになってきました。やはり紙に比べて、耐久性や折り曲げて皺にならない扱いやすさ、塩ビに比べても扱いやすさや軽さが利点です。細かい文字をプリントしても滲まない前処理やインク技術の向上が貢献しています。

【InkTec:JETRIX】

これも韓国。InkTecはインクメーカーで、主として各社のプリンタのサードパーティ品を供給していますが、同時に自社で JETRIX ブランドでUVフラットベッド機を開発・事業家化展開しています。日本ではインクメーカーが、自社でプリンタを開発し事業化するというストーリーは考え難いものがありますが、それは日本の発想。世の中何でもありですよ(笑) 例外としてはINX Digital (サカタインクス) が海外で買収した会社を軸に産業用プリンタを展開しようとしている事例があります。

【AGFA】

かつての銀塩感材の欧州代表だったAGFAですが、写真感材からはコニカと同じようなタイミングで撤退、その後は存在感を維持していた印刷業界にCTPやワークフローを供給、そこをベースに様々なインクジェット機を展開していく構想を持っていました。代表的なのものはDOTRIXというロールメディア対応ワンパスUV機で、商業印刷やラベルなどを試行錯誤しましたが、最終的には撤退し、インクジェット関連では「インクと大判機」に事業を絞り込んでいます。

DOTRIX機

DOTRIX機

蓋を開けるとワンパスのヘッドモジュールが見える

蓋を開けるとワンパスのヘッドモジュールが見える

AGFAはその後、カナダのトロント(本拠は米国テキサス)にあった Gandy Innovation という大判機メーカーを買収しハイエンド機を、韓国dilliから中速機・入門機をOEM調達し、UVフラットベッド機ではまずまずの成功を収めています。

また、かつては銀塩写真メーカーで、数多くいる化学・材料技術者をインク開発にシフトし、UVインクを軸としたインクジェットインクメーカーとしても成功しています。前述の韓国InkTecはインクメーカーがプリンタまで開発してしまったパターン。AGFAはもともとプリンタを目指していて、初期の志は挫折したものの大判機では成功し、インク事業でも成功したパターン。結果としては両方ともインクとプリンタの両方を事業化しています。

【ミマキエンジニアリング】 サイン市場向けは既に売上高の50%を切り、産業用途に注力中

買収したイタリアの繊維機器メーカーによるテキスタイル用途プリンター「Tiger1800B」

買収したイタリアの繊維機器メーカーによるテキスタイル用途プリンター「Tiger1800B」

サイン業界向け大判機メーカーで、かつてEPSONヘッドを主として採用していたミマキ・武藤・ローランドDGの「エプソンヘッド御三家」とか「MMR」などと呼ばれた三社の中で、最もアグレッシブに事業展開をし成功しているのがミマキエンジニアリング。リーマンショック前には三社とも概ね300億円前後の売上高で並んでいましたが、他社が停滞あるいは縮小するなか、ミマキは500億円に迫る勢いです。

今回の決算では遂にSG(サイン・グラフィック)市場向けの売上高が全体の50%を切り、ずっと力を入れてきたIP(インダストリアル・プリンティング)が全体の1/3を超えました。(テキスタイルは50億円強で横ばいに見えます。)

創業者の池田明さんから、社長は子息の和明さんに移りましたが、経営思想は「大手企業がやらないことを」というもので一貫していると感じます。

【MTEX】 ポルトガルのテキスタイル機メーカー エンジンはミマキ製

ポルトガルでも首都のリスボンではなく、ポートワインで有名な第二の都市ポルトにあるテキスタイル機専門のメーカー。ミマキの大判機のスキャン部分を使いプリンタを組み上げる。最近はミマキ以外に自社開発のエンジンも開発しているのではないでしょうか?

ポルトはポートワインで有名ですが、この地域は欧州の中でも低賃金であったため、欧州のテキスタイルプリント業が最終的にアジアや北アフリカに逃げる前に、欧州最後の捺染業が集まった場所でもあり、いまだに一部は残って操業を続けています。そういう中で育った社長のフェレイラ氏は、地元のテキスタイル産業の実態をシッカリ研究した上で、ミマキの改造機から始まり、周辺機器も開発しつつ、品ぞろえを増やしていきMTEXを発展させています。

【SwissQprint】:世界最高峰の画質を誇るスイスの大判UV機メーカー

スイスの東部、リヒテンシュタインや「ハイジの里」の近くに本社と開発・工場を持つ大判機メーカー。創業は2007年で、カッティングプロッタメーカーのZUNDが当時手掛けていた大判フラットベッド機の開発スタッフがスピンアウトして起業したもの。メカやヘッドの精度を極限まで追い詰め、UVインクで極めて高画質のフラットベッドプリンタを実現しています。価格は6,000万円前後と高価ではありますが、それでも日本でのMIFは30台前後あり、最近、日本法人も立ち上げて更なる普及を目指す構えです。

動画は、ロボットによるマテハンで、今後の流行りとなりそうな感触です。

以下、報告(3)に続きます。

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