世界のインクジェット関連展示会事情

印刷業界の皆さんは、毎回とはいわずとも、一度や二度はドイツのデュッセルドルフで開催されるDRUPAに出張され、その敷地や建物の床面積総計の広大さに圧倒された経験をお持ちでしょう。関連業界として事務機業界ならハノーバーのCeBIT、写真・カメラ業界ならケルンのPhotokinaなどで同じように感じられたことと思います。

また、最近では産業用インクジェットの世界で存在感を高めつつある中国で、ワイドフォーマットプリンタ(大判機)の展示会や、ChinaPrintなどに出かけられ、同じく日本の展示会(会場)との規模の違いに圧倒された方も多いかと思います。

参考までに、欧州と中国と日本の主要な展示会場をGoogle Mapの航空写真を同じスケールで表示したものをいくつか貼り付けておきます。

Messe Duesseldorf:DRUPA会場

Messe Duesseldorf:DRUPA会場

Hannover:CeBIT会場

Hannover:CeBIT会場

Munich:ICM(International Congress Center Muenchen ) FESPAなどが開催される

Munich:ICM(International Congress Center Muenchen ) FESPAなどが開催される

上海国家展覧中心(虹橋)

上海国家展覧中心(虹橋)

上海国際展覧中心(浦東)

上海国際展覧中心(浦東)

広州国際会展中心:ChinaPrintなどが開催される

広州国際会展中心:ChinaPrintなどが開催される

東京ビッグサイト

東京ビッグサイト

幕張メッセ

幕張メッセ

画像右下のスケールが一目盛り200メートル(ミュンヘンは100メートルだが同じスケール)なのでフェアな比較ですが、いかに日本の展示会場が狭小か一目瞭然でしょう。

展示会はスペースの大きさだけが重要ではありませんが、大判機や印刷機器や周辺機器などある程度バルキーなのものを複数台展示し、かつ一社単独のプライベートショーならともかく、業界の主要なプレーヤーが揃い、そこにソフトや資材など関連業者も出展するとなると、やはりスペースの制約はモノを言います。IT系や材料など、比較的スペースを取らないアイテムの展示会はさておき、スペースを食うバルキーなアイテムの展示会のロケーションとしては、残念ながら日本は中国にその地位を奪われつつあるように感じます。

印刷業界で申せば、かつては四大展示会としてDRUPA(独)、Print(米)、IPEX(英)、そしてIGAS(日)が4年に一度、開催年が1年ずつズレているので結果としては世界のどこかで毎年開催されていました。が、近年はIPEXが力を失い、一方中国で隔年開催されるChinaPrintが隆盛となってきてIGASも力を失いつつあるように見えます。

また分野は異なりますが、建材やセラミックタイルなどの、スペースを食うアイテムの大規模展示会は日本ではそもそも開催されることがなく、そこで起こっているインクジェット化の波を、日本にいる日本人は見ることも感じることもできないという状況です。

「展示会は(直接の)商談の場ではない。販促活動としては費用対効果が悪い」という声を聴くことがあり、それは一面の真実でもありましょう。しかし、日本が展示会開催の立地としてのステイタスを失うということは、単に購買層の顧客が来ないというだけでなく、関連業界の人たちも来なくなるということです。展示会で重要なのは、単にモノの交易だけでなく、情報の交易です。これが展示会の衰退とともに失われていく(展示会が無ければそもそも情報の交易が起こらない)・・・この重要性は案外気づかれていないようです。

展示会の主役はハードメーカーですが、そこにソフトウェアベンダー・材料メーカー・メディアメーカー・周辺機器メーカーなどが集まり、活発に情報交換を行っています。展示会という場が無ければ、そういう人たちは来ませんし、情報の交易(平たくいえば情報交換)も起こりません。

大判プリンタの展示会で申せば、ヨーロッパでは初夏にFESPA、秋にはViscomがあり、北米では春にISA(SignEXPO)、秋にSGIAがあります。中国では旧正月明けの上海APPPEXPOを皮切りに、各都市で年間に30件にのぼる展示会が開催され、その規模や出展者数は日本のサイン&ディスプレイショー(秋)やジャパン・ショップ(春)の比ではありません。そして欧米や中国の展示会には有力な画像処理ソフトベンダーや材料メーカーの社長や幹部が来て活発な商談や情報交換をしますが、そういう人達は日本にはまず来ません。

多様な分野の人が集まらないと、そこは内向きに閉じた世界になってしまいます。ガラパゴスと自虐的に揶揄されることの多い日本ですが、ガラパゴスだから海外から人が来ないのか、海外から人が来ないからガラパゴス化したのか・・・因果関係はさておき、大判プリンタの世界では、結果として日本は世界の潮流からは取り残されたガラパゴスになっているように見えます。

【本当の問題:心のガラパゴス化】

そして、実は更に重要な問題があります。日本に展示会(展示会場)が無いなら、こちらから出かければいいじゃないか?そんな単純なことを日本企業、特に上場企業や大企業はなかなかやりません。どうも日本人の(少なくとも大企業に所属する日本人の)どこかに「海外出張に行くというと物見遊山と言われるのではないか?」、「上司が行かないのに自分が行かせてくれと言い出しにくい」、「行って現地業界人や競合他社から英語で情報を取って、報告書を書かなくてはならないのが億劫」・・・というハードルがあるように見えます。海外出張に対する見えないハードル・・・国際化なんて言葉はとっくの昔に陳腐化して死語となったと思っていましたが、どっこい、しぶとく生きています。少なくとも大企業には(笑)

また、展示会にはコンファレンスが通常はセットで開催され、各社が最新の製品や技術を発表したり、パネルディスカッションに出たりして存在感をアピールしていますが、こういう場に出て海外の業界人と渡り合える日本人は極少ないか、まず居ないというレベルです。

そもそも、こういうコンファレンスやパネルには、欧米のメーカーなら社長あるいは事業責任者が出席して持論を展開します。彼らは一般に、業界事情に非常に明るく(だから社長や事業責任者が務まる)、自社の戦略や製品についてパワポなど無くても諳んじて熱く語ります。逆に日本の大企業の事業責任者は、業界のことや自社の戦略・ビジョン・製品についてあまりよく知りません。何故かそういう人が事業責任者に就く傾向さえあります。海外企業の同じポジションの人達と(英語でというハードル以前の問題として)伍して議論を戦わせることが出来る日本企業の事業責任者の不在・・・これが日本企業の存在感を希薄にさせている根本問題かもしれません。

展示会(展示会場)が狭小という物理的な制約の結果としてガラパゴス化が進んだことは否めませんが、それよりもまず、事業責任者が自分と同じポジションの海外企業の人達と議論することが殆どなく、それに加えてスタッフも状況を忖度して海外の展示会に積極的に出かけて情報の交易に加わることをしない・・・そんな「心のガラパゴス化」が日本企業を蝕む真因という気がするのです。

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