- 2017-8-16
- 重要過去記事
- 世界のインクジェット関連コンファレンス事情
産業用インクジェットの世界にはいくつかのコンファレンスがあります。前に紹介したNIPも実質的にインクジェットの学会となっていますが、もう少しコマーシャル寄りな「業界コンファレンス」として、老舗のIMI、最近急成長しているThe IJC、やや展示会に重点があるInPrintが挙げられます。またデジタルテキスタイルに特化したWTiNも重要性を増してきています。
【IMI・IMI EUROPE】
http://imieurope.com/
http://www.imiconf.com/
IMIはInformation Management Institute の略で産業用途インクジェットのコンファレンスの草分け・老舗です。 ヨーロッパと米国にあって提携関係にあり、ヨーロッパの方はXAARの創立者の一人でもあるMike Willis氏によって立ち上げられ、現在はTim Phillips氏が引き継いでいます。米国はAl Keene氏が運営しています。
基本的には商業的イベントに流れることなく、アカデミックで中立なコンファレンスを目指しており、インクジェットベンダー各社のプレゼンも自社の宣伝を極力控える傾向にあります。また、インクジェット・アカデミーや若手技術者のためのサマースクールなども運営して、産業用インクジェットの技術者を育成することにより産業の底上げを図りその発展に貢献してきました。ヨーロッパで産業用インクジェットが活発なのは、こういう地道な活動の成果も見逃せません。
産業用インクジェット産業の勃興期には聴講者も激増し、それに対応するためコンファレンスの開催頻度を増やし、逆にそれが故に毎度同じプレゼンターが新味の無い話を繰り返すという時期がありました。が、最近は再び体勢を立て直し、内容も充実してきた感があります。
かつては技術プレゼンに絞られていましたが、最近の傾向を見ると「パッケージング用途の動向」、「「テキスタイル用途の動向」、「M&A:売り手と買い手の視点から」といった事業側面に焦点を当てたセッションあり、聴講者のニーズを敏感にとらえているようです。
大野としても、2003年11月リスボンで開催されたIMIがコンファレンスでの発表のデビュー戦がここでしたし、聴講者の投票によるベストスピーカー賞も授賞、ネットワーキング・パーティではギターの弾き語りをやって注目を集め、数多くの業界人と繋がることができたという意味で、個人的にも思い入れの深いコンファレンスです。
IMIに限らず、夜のネットワーキング・パーティ(レセプション)は必ず参加されるのがいいと思います。日本人は日本人で固まって会場の外に呑みに行きがちですが、こういう場こそ積極的に参加して人脈を形成するのがいいと思う次第です。
【The Inkjet Conference (The IJC)】
スクリーン印刷関連機材メーカーの団体であるESMAが立ち上げた新しいコンファレンスで、一年に一度、10月にドイツのデュッセルドルフで開催されることになっており、2014年の第一回目から数えて今年は第四回目を迎えることになります。主催者はESMAのPeter Buttiens氏と元XAARのSteve Knight氏を中心とし、ESPAのメンバーが名前を連ねています。
コンファレンスのコンセプトはIMIとは逆に、技術プレゼンに特化しつつも、かなり泥臭く商売に徹している感じです。会場は大きく分けて、出展者が小間を連ねる大広間と、それに隣接する会議場が2つ。大広間には数十社の出展者がひしめくように小間を連ねサンプルやパンフレット、あるいは動作サンプルを展示して商談や情報交換を行います。
それと並行して、2つの会議室では出展者達が30分単位で自社の技術やその優位性を順にプレゼンします。中にはキーノートスピーチとしてDRUPAのCEOや大学の先生などがアカデミックなプレゼンもしますが、大方は商業ベースです。IMIは講演者からはお金を取らない(逆にホテル代はIMIが負担する)のに対し、TheIJCは出展者・講演者は原則有料です。
それでも2014年に270人だった参加者が2016年には400人を数え、今年も更に増加する見込みです。出展者の数も年々増加し、今年も既に30社以上のベンダーが新規参加申し込みをしたとあります。
http://www.theijc.com/about-event/at-a-glance
出展社も参加者も有料のコンファレンスにも関わらず、ここまで急成長しているのは、ややアカデミックなIMIが拾いきれなかったベンダーの潜在ニーズ(お客を捕まえるための商業的なコンファレンス・自己アピールの場が欲しい)というのを上手く掬い上げたという点にあるでしょう。
TheIJCは今年も拡大すると思われ、要素技術ベンダー(ヘッド・インク・ソフト・周辺技術)を一望し、産業用インクジェットに関する理解を深め、自分の人脈ネットワークを広げるには絶好の場所でしょう。もちろんネットワーキング・パーティもあります(笑)。
【InPrint】
これも比較的最近立ち上げたもので、前述の二者がコンファレンスが主体であるのに対し、このInPrintは展示会がメインで、そこにゲストスピーカー達が講演するコンファレンスが付属するイメージです。欧米には「展示会産業」とでもいうべきものが存在しますが、この展示会も Mack Brooks という展示会運営企業の傘下にあります。
立ち上げた二人は、以前はFESPA(スクリーン印刷からインクジェット大判プリンタの展示会)に属していましたが、サインや捺染用途の大判プリンタのみでは産業用プリンティングのニーズはカバーすることができないことを敏感に感じ取り、FESPAから独立する形でこの展示会を立ち上げました。重点はシングルパスにあり、またヘッドやインクなどの要素技術もさることながら、むしろ実際に実用になるユニットの展示に重点を置いています。
この主催者は非常に活動的で、既にミュンヘン・ハノーバー・ミラノ・オルランド(米国)・再度ミュンヘンと、ワールドワイドに巡回しています。
更に、来年4月には pure digital という展示会を企画しているようで、下記に先行情報がありますが、内容を見る限り、このInPrintの発展形の産業用インクジェット機器・装置・設備の本格展示会のようです。
https://www.puredigitalshow.com/
【Digital Textile Conference】
前の三者とは異なり、所謂コンファレンス業者が主体ではなく、英国で100年以上続いている繊維関係の出版社が、繊維業界のコンファレンスを企画する中で、近年のテキスタイルプリントのデジタル化に着目し、そこにフォーカスしたコンファレンスを立ち上げたものです。
もともとが繊維業界のプレーヤーなので、そのネットワーク基盤はしっかりしており、デジタルテキスタイルに特化した講演者の選択やテーマの選択などは、他のコンファレンスがテキスタイルは one of applications としているのとは異なって、かなり包括的にカバーしています。
欧米や中国に続き、昨年は初めて日本でも開催し、今年も12月5日に開催が予定されています。インクジェットでテキスタイル分野への展開をしようとしている企業には必須のコンファレンスと思えます。更に、デジタル化(インクジェット化)の先に、インダストリー4.0のコンセプトを取り込んだ「テキスタイル4.0」という概念を提唱してもおり、これからのテキスタイル業界の在り方の指針となるでしょう。
皆さんも、ガラパゴス日本に閉じこもらず、こういう海外のコンファレンスに出かけて、世界の動きをキャッチする、少なくとも何かを感じ取ってこられることをお勧めする次第です。
(こちらの記事が最初です)
(世界の展示会事情です。こちらも併せてお読みください)