展示会報告 FESPA2017 ハンブルグ(1)

(左)Messe Hamburg (右)同スケールの東京ビッグサイト(サイン&ディスプレイショーは西館のみ使用)

(左)Messe Hamburg (右)同スケールの東京ビッグサイト(サイン&ディスプレイショーは西館のみ使用)

5月8日(月)~12日(金)の5日間の日程で大判プリンタの展示会FESPAが開催されました。今年2017年は北ドイツのハンブルグ、2016年はアムステルダム、2015年はケルン、2014年はミュンヘン、2013年はロンドン、2012年はバルセロナ、そして次回2018年はベルリンと、ドイツを中心とした欧州各地を巡回して開催されています。

また、ここ10年は偶数年はFESPA DIGITAL ということで、デジタル機=インクジェット大判機とその周辺(ソフト・インクなど)に絞った内容で開催されてきました。そもそもFESPAとはFederation of European Screen Printing Association (欧州スクリーン印刷組合連合会)という素性のもので、本来はスクリーン印刷の展示会だったのですが、これが徐々にインクジェットに置き換えられて、遂には隔年でインクジェット機専門の展示会となったという経緯からです。ただ、ここで再び統合して今後はFESPA DIGITAL として独立しては開催されず、再びFESPAで纏まるとのことです。

出展されているアイテムはインクジェット機の他に、従来のスクリーン印刷装置やそのスクリーン製版機、スクリーン印刷用インキなども並べられかなり規模の大きい展示会となります。FESPAが発足したのは1961年と半世紀以上も前のことで、近年サイン用途はインクジェット機に置き換えられてきたとはいえ、欧州ではスクリーン印刷のポジションが未だに(日本に比べて)高いポジションをキープしている感触です。

その印刷成果物も「グラフィックスやソフトサイネージ、産業印刷物、衣類、販促品など、インテリア、表面装飾、車両のラッピング」などと非常に多岐に亘ります。前述のように「スクリーン印刷」の素性のアイテムと「インクジェット」の素性のアイテムが複雑に混在するため、慣れないとなにやらカオスに酔いがちです。なんで屋外サインの大判プリンタと、Tシャツが同じ場所に?(笑)

出展社は770社、来訪者数は5日間で出展者を除いて約40,000人(8,000人/日)で、11日間で260,000人(24,000人/日)を集めたDRUPAとは比較になりませんが、それでもスクリーン印刷由来のジャンルだけと考えると、そこそこの動員数かなと思えます。逆に出展社が139社(FESPAの1/6)にしか過ぎない日本のサイン&ディスプレイショー2016が3日で30,000人の来場者があったという発表の方が違和感があります。

冒頭の写真のビッグサイトの狭い西館だけしか使わず、かつ海外メーカーの出展も無い国内のサイン&ディスプレイショーとは、全く比較にならない賑わいで、数字の集計方法が違うとしか考えられませんね。

ハンブルグのメッセ会場は真ん中を道路で分断されており、また右手のホールB群はスクエアな形をしておらず、かつホールを繋ぐ通路が真っ直ぐではないなどの事情で、かなりトリッキーな作りとなっており、慣れるまではホールを行き来する度に迷子になりそうになります。全体の広さ自体はドイツの展示会場としては比較的小振りで、東京ビッグサイトを一回り大きくした程度ですが、かなり歩かされる感じがする分、かなり大きく感じます。

ホールの構成は上図のとおりで、Hall-B6(濃いピンク色)がインクジェット機でサイン用途、薄茶色の部分がテキスタイル向け、Hall-A4(ブルー)が工業用スクリーン印刷・・と一応の色分けがされてはいますが、実際にはこうは綺麗に分かれている訳ではありません。このあたりも訪問者を迷わせる一因となっています。

【全般傾向】

サイン用大判プリンタの発展に関しては別途書くつもりですが、ざっくり言えば:
1) 海外:塩ビメディアに強溶剤インクでプリントする屋外サイン(ヘッドはそれに耐えるスペクトラやXAAR)
2) 日本:紙メディアに水系インクでプリントする屋内ポスター(エプソンヘッドを使った日系3社)と分かれていた
3) そこに、ミマキが「エプソンヘッドでマイルド溶剤で塩ビメディアに」というカテゴリーキラーJV3を投入・大成功
4) 中国勢が強溶剤安価機で急成長
5) 欧米勢はVOC規制などをちらつかせて強溶剤・マイルド溶剤には流れずUVインクにシフト
6) 塩ビのロールメディアから、フラットベッドUV機の投入でリジッドなボード類へのプリントも可能になった
7) ヘッドもコニカミノルタ・セイコー・リコー・京セラなどが参入し、各種のインクに対応して用途拡大を加速
8) 更にHPは水系を謳い文句に熱硬化樹脂を分散したラテックスインクで参入、徐々に浸透していく
9) 近年ではポリエステルの布メディアが多用されるようになり昇華(ダイレクトあるいは転写)インクが発展
10) 現在は(先進国では)強溶剤は姿を消し、マイルド溶剤・UVインク・昇華(ダイレクトあるいは転写)・ラテックス・水系等が併存
11) メディアも塩ビとロール紙の時代から、ボード類・布メディア・プラスチックなどに拡大中
12) カッティング機などとの連携でパッケージサンプル、インク種類の拡充でテキスタイル業界にも横展開

こういう流れにサマリーできるかと思います。そういう流れで、今回のFESPAで何かブレークスルーが有ったかといえば、むしろ諸用途への横展開のための使い勝手の向上の流れが向いていたという印象です。

【今回の新規トピック】

  • Durstは、UVベースのRho P10 250 HSプラスとRho 512R Plusプリンタと水系UVインクのRho WT 250とRhotex 325の4機種公開
  • EFIは幅1.8m、400m2 /時のレッジャーニ・ルノワール・フレキシー・テキスタイル・プリンターがデビュー
  • ゲルUVインクを使用する最初のデバイスであるCanonのOcéColorado 1640が欧州デビュー
  • ミマキは3DUJ-Pという新しい3Dインクジェットマシンの試作品を展示
  • HPは新しい中型ラテックスマシンを発売:180m2 /時の3.2m幅のHPラテックス3600とHPラテックス3200
  • リコーは、昨年買収したANAJET機をベースにした2つの新しいDTG(Direct to Garment)プリンタを発売
  • SwissQprintは2.5x2m、180m2 /hrのImpala LEDと3.2x2m、206m2 /hrのNyala LEDの2機種を発売

唯一、技術的な新しさをアピールしていたのはOCE(Canon)のゲルUV技術でしょうか。ただ、これがサイン業界の動向を左右するキラー技術なのかどうかは見極める必要があります。ミマキの3Dプリンタは、FESPAという場にそれを持ち込んだことが新しいといえます。efiは先に買収したイタリアのアパレル業界向けインクジェット捺染プリンタメーカーREGGIANIのプリンタを活用して新しいことをやらせようとしているように見えます。以下、各社の状況に触れていきます。

1. HP:ラテックスインクの進化とプリンタラインアップの拡充

HPはかつて脱溶剤(エコ・安全)を掲げてラテックスインクを投入、開発とマーケティングに莫大な費用を投じてキャンペーンを続け、漸くそれが定着してきた感があります。この間、インクも進化を遂げ(第三世代とのこと)、プリンタも3.2m幅の広幅機を投入。ショールームは、壁紙・床材・クッション・布など、すべてのプリントをHPのラテックスで行ったという建付けの訴求をしていました。

2. efi:買収したREGGIANI機を改良して布サイン方面に展開

efiがここでデビューさせたFLEXYは、従来のシンボルカラーである赤ではなく、緑色のカラーリングと買収したREGGIANIのロゴで、従来とは異なる系列であることを示しています。搬送ベルトに捺染機で使われる粘着ベルトを使用していることから、ターゲットは捺染業界とも思われますが、インクはダイレクト昇華と推測されます。(プレスリリースではインク種は明らかにされていない)。昇華インクではコットンにプリントできません。ポリエステル布+昇華インクでサイン業界を狙うなら、1.8m幅はいかにも中途半端に狭いです。狙いが謎です。

アパレル捺染業界では布種に対し「コットンには反応インク、ポリエステルには分散インク」、サイン業界ではポリエステルが殆どで「昇華(ダイレクト或いは転写)インク」というのが通り相場で、捺染業界に行くなら少なくとも「反応と分散」の2種のインクを持っている必要があるのが従来の常識です。ここを明らかにしていないのは何やら謎めいています。下記はefiのリリースをGoogle翻訳させたものですが、特に何も触れられていません。

●Reggiani ReNOIR FLEXYは、Reggianiの大型プリンターの優れた性能と結果を提供することで、ほぼすべての企業が工業用繊維に取り入れることを可能にする新しい装置です。お客様は、新型「Dynaplast」技術を使用して、ニットから織り、低伸縮性、伸縮性のある素材まで幅広い種類のファブリックを安心して使用できます。1.8メートルのプリンタは、8つのプリントヘッドで利用でき、400 m 2 /時以上の生産速度と最高2,400 dpiの解像度を備えています。同社はクラス最高の性能を実現する最新のデジタル技術を組み込み、操作が簡単でメンテナンスコストが低く、生産とサンプリングの両方に理想的なソリューションとなっています。

●このプリンタは、EFI産業用繊維製品の初のプリンタで、インク消費を大幅に削減するインクリカバリ機能など、環境に配慮した製品ラインのほか、Reggianiブランドの伝統を反映した新しい住宅を所有しています。

efiは所謂UVインクも「LEDインク」などというネーミングをして、UVに対する潜在的な抵抗感を薄めようと試みるなどの策を弄する場合があるので、今後のアナウンスに注目していきたいと思います。

3. Canon:OCEがゲルUV機”Colorado 1640” を欧州デビュー(北米では4月のサインエキスポでデビュー)

Canonは、かつてのRastergraphics(Gretagが買収し、その後OCE買収した)系列のArizonaシリーズに加えて、OCEとして自社技術の延長上で開発した「ゲルUV機 Colorado 1640」を欧州デビューさせました。
ゲルインクとは「もともと固体になっているインクを加熱して液体にし、それを出射してメディアに着弾した時、一瞬で冷えて固まることで余分なインクの流れ・拡がりを抑制する」という技術で、それを最終硬化させるのにUVで架橋させて固める・・・という原理です。仕組みそのものは目新しいものではなく、ゼロックスが保有していたワックスインクや、その他いくつかのプリンタもこの仕組みを採用しています。

なによりOCE自身が、この技術を保有しており “OCE CplorWave 600” というCADプリンタに採用しています。下記のプリンタの「インクタンク」に相当するところに「固体のボール」が見えます。これを本体の中で温めて溶かし、液体にしてインクジェットで撃って、紙の上では急激に温度が下がるので固まる・・そういう原理です。

CplorWave600 の「インクボール」

CplorWave600 の「インクボール」

UVインクは、UV光が当たって硬化するまでは通常液体なので、インクが着弾してからUV光が当たるまでに時間があり過ぎると、種々の色のインクが混色したり、インクが濡れ広がって狙いのピクセルサイズにならなかったりします。これを防ぐために、スキャンタイプではキャリッジのすぐ傍らにUVランプを取り付けるとか、ワンパス機では色と色の間に「ピニング」という中間硬化UVランプを取り付けたりします。

このピニング効果を、温めたインクがメディアに着弾したときに一瞬で常温に冷えてゲル化することで得ようとするものです。4色を重ねた後、最終的にはUVインクでガッチリと固めてあげようというものです。こうすることで、キャリッジにUVランプを取り付けなくて済むので設計に自由度が増し、また従来のUVインクのように「盲牌ができるほど分厚く積みあがらない」などの利点が得られるとされています。動画ではキャリッジとUVランプが独立してスキャンしている様を撮影しました。

Canon(OCE)は、加えてプリンタ価格の抑制、インク消費が少ないこと、インク単価が安いこと・・などを謳っています。今後、主流なっていくかどうかは未知数ですが、ユニークな技術であるだけに、逆に仲間は増えないと考えられ、成り行きを見守る必要があろうかと思います。

なお、ヘッドはOCEの独自開発のピエゾヘッド、インクもOCEの従来技術の延長とすれば、Canonとのシナジーはどうなっているのでしょうか?

4. DURST:

北イタリアBressanone(ドイツ語名Brixen)にあるDURSTですが、元々は商業用・プロ用の写真の引伸し・焼き付け機を生産していたメーカーで、DURST Lamda といえば世界の商業写真ラボ(プロラボ)に導入されていたものです。

商業用写真といえば用途はサインどいうことで、そのプロラボからの要望で、インクジェットで直接サインが作成できるプリンタの開発を手掛けたのが、銀塩写真の行く末がぼちぼち見え始めてきた1990年代の後半です。そもそもプロ用機器のメーカーで、インクジェットも最初から顧客であるプロラボの要求スペックをしっかり聞きこんで機器の開発を始めたため、非常にしっかりした機器を作り込むことで定評があります。

そもそもここは、第一次世界大戦の戦後処理でイタリアに割譲される前まではオーストリア領(ドイツ語圏)で、ドイツの機械工業の遺伝子を受け継ぐメーカーと言えます。

DURSTに関してはいずれ改めて書くことがあると思います。今回のFESPAでは目立った新製品というより、従来路線のハイエンドUV機に、高画質を狙った水系UV機、テキスタイル機をブラッシュアップしたというところです。

―――
長くなるので、これ以降は続編にて報告することにします

【おまけ】

FESPAが開催される頃(大体は5月)のドイツは白アスパラガス、ドイツ語でシュパーゲルのシーズンです。3月末ごろから南欧のが入ってきて店頭に並びますが、やはり「地のモノ」というと4月末から6月の初旬あたりが旬になります。まだ間に合えば是非、来年のFESPAもベルリンなので是非ドイツのシュパーゲルを堪能ください。ちなみに、ドイツでは「聖ヨハネの日:6月24日」以降はシュパーゲルを食べないという不文律があります。一説には、そのあたりを過ぎると苦みがでて美味しくなくなるといわれますが、かなり土地のエネルギーを吸い取る植物とのことで、旬を味わいつつ、土壌を守る先人の知恵かもしれません。

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