FESPA 2019(1):「なぜここが、今これを?」

ミュンヘンで開催された FESPA2019の視察メモです、速報でも書きましたが、正直申して表面上は(というかマシンスペックなどの観点からは)あまり目を引くものは無かったと思います。それよりも「戦略転換?」「なぜここが、今、これを?」というようなことの方が興味深いトピックスになるように思います。

Messestadt München

2015年時点
この時点ではまだ Hall C系列が4棟しか建っていません

まず会場ですが、前回この同じミュンヘンの会場で FESPAが開催された 2014年は、西側がメイン入り口だったのですが、今回は地下鉄 U2路線の終点 Messestadt Ost(東)駅から上がって、東側の入り口がメインとなっていました。この間に Hall Cの系列に2棟が増設されているのが Google Mapで確認できます。そういえば日本で最近、展示会場が拡張されたというような景気のいい話を聞かないですね・・・

ただホテル事情や交通事情は予備知識が必要です。ホテルは会期が近づいてから探すと3万円やそれ以上のしか残っていません。近郊の町のホテルもほぼ満杯です。ドイツ人は展示会に行く・行かないというのは数か月から一年前に決めるので、その時点ではまだリーズナブルな価格のが沢山あります。日本人は周囲の状況や空気を読んで、ギリギリになって海外出張を決めることが多いので、高値掴みをすることになります。

また地下鉄は、本来はかなり時間に正確に運行されていますが、混雑時には遅れたり、途中打ち切りなどが起こりがちです。私も「電車遅れ」「遅れた電車は満杯で乗れず見送り」「次の電車には乗れたが会場駅手前の駅で運転打ち切り全員降車」「やっと次の電車でたどり着く」・・・という目に遭いました。朝一のアポがある際は気を付けた方がいいです。

1.全般印象

視察したのが4日間の会期のうちの最初の2日間のみで、まだ公式の来場者数も発表されていないのであくまで印象や出展者訊いてみたレベルにすぎませんが、これまでに比べやや入場者は少ないイメージです。やはり画期的な新製品などの出展に乏しかったからなのでしょうか?それにしても HPの昇華プリンターなどは話題と集客にもっと貢献すると思ったのですが・・・

ここでは、新製品というより「戦略転換?」「なぜここが、今、これを?」という側面にフォーカスします。

2.「戦略転換?」「なぜここが、今、これを?」(1):セイコーエプソンのヘッド公式外販

セイコーエプソン:ヘッド外販ビジネスの発表をする事業責任者の細野さんと現地人マネージャー

やはりインクジェット業界の雄でありつつ、一方でこれまではヘッドビジネスを展開している他社とは異なったスタンスを取ってきたセイコーエプソンが「ヘッドをオープンにする」ということでプレス発表会場は満杯で、注目の高さが伺えます。私としても一番の注目です(笑)

プレス発表開始時刻に少し遅れ、事業責任者の細野さんによるプレゼンが終わり、現地人マネージャーによる質疑応答が始まったところから参加、私もいくつか質問してみました。「誰にでも売るのか?」「エプソンインクとセットで売ることになるのか?」「インクをバインドしない場合はロイヤリティを取るのか?」・・・というような質問に集約されていましたが、殆どが「ケースバイケースで」「プロジェクト毎に」みたいな答えでした。

まあ、まだ先行しているヘッド事業他社と比べて事例が少なく、かなりバラエティのある潜在顧客群が何を望んでいるのか、どんなことを要望してくるのかという経験値が少ないので、このように答えざるを得ない段階なのでしょう。この時点で「どういうケースではインクロイヤリティを取って、どういうケースでは取らないのか?」と深追いするのは酷というもので、そのあたりは心得たプレスの顔ぶれだったようです。

かつてのエプソンは限られた顧客群に「自社インクとヘッドやパテントなどをセットで供給し、エプソン以外のインクを使う場合にはロイヤリティを課す」というモデルで知られていましたが、広範な産業用途の全てを自社インクでカバーできないだろうということは流石に理解されているようで、エプソンインクではないことは前提としているようです。

私は「中国ではグレーマーケットで通称 DX5や DX7というヘッドが多数の部品業者から大量に供給されているのが実態だが、これは今後どうしていくのか?」「ヘッドは販売先のお客がプリンタ開発に成功し、それが順調に売れて初めてヘッド事業として成り立つわけだが、顧客のプリンタ開発を助けるサポート部隊はどうするのか」という質問をしてみました。中国事情などは現地人マネージャーには想定外だったのか、あまり明確な答えは無かったと思います。顧客の開発サポート部隊は設置されると思われます。

まあ、ヘッドビジネス先行企業群の中でも、各社によってスタンスとアプローチが異なります。「駆動波形を公開するのか・しないのか?」「インクロイヤリティを取るのか・取らないのか?」「サンプルヘッドは無償で配るのか・有償とするのか?」「顧客が自社のプリンタと同様な分野に参入したしたいという場合、これを支援するのか・しないのか?」・・・そして、敢えてプレスでは誰も深追い質問をしなかったけれど「どういう場合はイエス・どういう場合はノーなのか?」、どこかにイエスと言って、どこかにはノーと言った場合、その差は何なのかを明確に説明できるのか?それはエプソン本体のみならず、末端の営業までちゃんと共有されているのか?(訊いた人にって話が違わないか?末端に訊くと「本社に確認して回答する」・・・というのは一番信用されないパターン)・・・

そして・・・ここにはあえて書きませんが「あの問題はどうなのか?」「あの課題には気が付いているのか?」「あれは?」・・・ヘッドビジネスでは先輩企業群が直面し、それなりにそれらを乗り越えて来てそれぞれの現在のポジションがあるわけですが、「オープンなヘッドビジネスに、最後発で参入する」としたエプソンが、そういう問題にいつ直面し、どういう哲学を持ってそれらを乗り越えるのか?注目していきたいところです。

いずれにせよ、ヘッド単体のスペックや技術力では間違いなく世界トップクラスのエプソンが、ヘッドをオープンに供給するということがインクジェット産業全体の活性化に繋がることを期待したいと思います。

3.「戦略転換?」「なぜここが、今、これを?」(2):HPの昇華プリンター参入

HPの昇華プリンター参入を開設するビジネスマネージャー:Mike Horsten氏

大野Q:なんで今、最後発で昇華プリンターに参入するの?
マイクA:ここまでは市場ををウォッチしていた。ピエゾ陣営は問題が一杯あるじゃないか!HPはそれを解決する!

「HPが昇華プリンターに(最後発で)参入」「300,500,1000の3機種」「安価な薄い転写紙を使用可能」「ダイレクトと転写の両方が可能」「ヘッド交換は安価な部品で、かつユーザーができる」・・・そんな事前情報でした。今回、少し意外だったのは、HPのブースでの昇華プリンターの扱いがあまり大きくなかったことです。

まあ、4月の米国でのサインエキスポ+5月の欧州での FESPA+6月にはお膝元のバルセロナで4年に一度の繊維機械の大展示会 ITMAと続く中で、どこにどのように予算配分をするかというのは、流石の HPといえども頭を悩ませたであろうことは容易に想像がつきます。

HPが何を目指しているのか?少なくとも今回の展示を見た限り、まだ判然としません。先般書きました「畏友からのメール」のような方向を本当に目指しているのか?だとすると ITMAではないだろう?逆に ITMAではどういうアピールをするのか、あるいはしないのか?ITMAを見てからの判断と致しましょう。

4.「戦略転換?」「なぜここが、今、これを?」(3):DURSTが再び FESPAにブースを!

展示会から撤退し、オープンハウスに切り替えたとされた DURSTが再び FESPAにブースを!

昨年は FESPAに出展せず、また今年の HEIMTEXTILにも出展せず、「高価な出展料を払うくらいなら自社に顧客を呼んでのオープンハウスをやる」という方向としたと言われていた DURSTが、なんと今年はまたブースを持っていました

DURSTはかなりしっかりしたプリンタを供給し、かつての「プロラボ(商業写真の現像所)」を顧客基盤として持っていることから、殆どがロイヤリティの高い顧客からのリピートオーダーと言われており、それが本当だとすれば確かに新規開拓に大金を投入するより、ロイヤル顧客をしっかり守るというのが理に適っていっるようにも思えます。

しかし、今年また出てきたということは、そこの基盤になんらかの変動が有ったのでしょうか?とはいえ、ブースは比較的シンプルで、会期中に会場からクルマで3時間ほどの距離にある同社の Lienz(オーストリア)拠点にロイヤル顧客を呼んでオープンハウスも開催したようです。

なお、FESPAでの唯一の出展物の P5についての Nessanの記事はこちらです。

5.「戦略転換?」「なぜここが、今、これを?」(4):SwissQprintのロール2ロールプリンター参入

まあ、これは「戦略転換?」ということではなく「満を持して」という部類でしょうか?ここまではフラットベッドに集中していたSwissQprintがロール機を出しました。でもまあ、それが話題になるくらいなので、ある意味大したもんだと思います。

SwissQprintは、ハイエンドの UVのフラットべッドプリンターメーカーの中でも、世界最高峰の画質を実現していることはまず間違いないところです。しかし、それとは関係ない次元で、企業の広告宣伝費が看板やボードを含むプリント物から、ネット広告にシフトしつつあることの影響は SwissQprintに対しては例外ではなく、なにか新しい分野に業容を拡大せざるを得なかったといううがった見方もあります。

この機種に関する Nessanの記事はこちらです。

続きます

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