畏友からのメール:HPのテキスタイル参入に関して思うこと

業界のさる畏友から、HPのテキスタイルへの参入に関して下記のようなメールを頂きました。私が考えていたこととほぼ同じポイントを突いておられるので、ハタと膝を打った次第です。文中にある日経新聞記事の画像とともご紹介します。(日経はそのままの引用は控えて、モザイクでイメージ化してあります。記事へのリンクはこちら

大野さん

いつもお世話になっております。
このHPのテキスタイル参入という情報を私の中でどう理解してよいのか正直最近までピンと来ていませんでした。ここでちょっとピースが嵌ったかも、と思ったのが添付の日経記事です。

我々がインクジェットの世界で馴染みがあったのは、どちらかと言えば既存捺染のサプライチェーンを利用してバーティカルインテグレーションを構築してきたファストファッションの方で、正直ネット中心の直売ブランドはまだキワモノ、と多寡を括っていました。既存捺染の業界を中心に考えると、HPのようなゴリゴリのクローズドインク主義者、消耗品中心のビジネスが馴染むのかいな?というのが率直な私の印象、疑問でした。

しかしこうした日経の記事を読んでいくと、成るほど、HPは最初からそういう文脈で業界を見ていないのかもしれないな、と思い始めました。デジタル捺染と一言で括られる話ではなく、既存商流をベースにしてきたテキスタイルの業界とは異なる、新しい中抜きの世界に向けて彼らは商売をやっていこうとしているのだろうと今は推察しています。その意味では、HPは MS、EFI Reggiani、コニカミノルタといった従来からのデジタル捺染機とは競合するものでも無いのかもしれません。

後は、こういうネット直売型のテキスタイル業がどのくらい成長するか、既存市場を食っていくか、という話かと思います。ITMAという場がその意味では本当にHPが展示するところとして適切かどうかは分かりませんが、ホームのバルセロナで何もしないという訳にも行かないのだろうな、とは思います。

こういうところ、大野さんはどうお考えか、次回お会いする際にでもまた忌憚無き意見交換をさせて頂ければ幸いです。

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【大野の私見】

デジタル化する際に「従来の産業構造・サプライチェーンを活かしたままで、プリントの部分のみをアナログからデジタルに置き換える」というのは、第一歩としてとか、過渡期的なステップとしては有り得ても、早晩その産業構造を壊すことになるだろうし、また壊さないと意味が無い…そんな風に考えます。

アナログレコードが CDに置き換わった時も、所謂「レコード屋」という業態が残ったまま、そこで CDを販売していました。しかしデジタルの本質はポリカーボネートのお皿に録音できることではなく、元の音源を如何様にでも扱えることで、CDやそれを売っていたレコード屋(CD屋?)は過渡期としてしか存在できず、今はネット配信まで行きついています。

アパレルはもちろん音楽とは異なりますが、現在のデジタル捺染は「川上・川中・川下」という産業構造を維持したままで、川上のプリント手段をデジタル化しつつあるという「過渡期」的段階に見えます。そんな中で、スポーツアパレルなどは、川上・川中などという業態を無視してプリントから最終製品までをコンパクトな形で完結させ、それが広がりつつあります。

更にこれがネットインフラ(プラットフォーマー)と結びついて、個別のオーダーが集積してマスになるということが起こりつつあります。畏友はキワモノと多寡を括っていたとのことですが、日経の記事を信じれば、ファストファッションや SPAといったアパレルの革命児達にも、大量閉店というインパクトを与えつつあるようです。

なお、この兆候に関しては、私の 2017年の新年のご挨拶の最後の方に、2016年 12月に開催された WTiN主催の Japan Digital Textile Conferenceの「最も印象に残った講演」として触れてあります。ご参考に。

余談ですが、昨今、各国政府によるプラットフォーマーへの規制強化の動きが活発化しています。私は一般論としては規制というものに反対する方なのですが、やはり必要な規制というのはあるのではないかと最近考えています。

課税逃れや、優越的な立場を利用して出店者に圧力をかけていることなどが指摘されていますが、要はそこで挙げていた独占的利益をもう少し出店者などに還元する方向に向かう規制なので、結果としてはネットインフラの活性化に繋がり、既存の産業構造を壊す方向に向かうと思われるからです。

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