OIJC ( Ohno Inkjet Consulting ) 代表 大野彰得
皆さま、新年明けましておめでとうございます。
今年も比較的好天に恵まれ、皆様それぞれによいお正月を過ごされたことと存じます。
私は、今年もまた、元旦はニューイヤー駅伝、2日と3日は箱根駅伝と、他人がひたすら走るのに、アナウンサーがドラマチックなコメントをつけるのを見ているだけという、思えば怠惰な3日間を過ごしてしまいました。他人がなにかをするのを単に見ているだけ・・・といえば、AbemaTV(注:サイバーエージェントとテレビ朝日が組んだインターネットTV、パソコンでも視聴可能、無料)の麻雀チャンネルも、他人が打つ麻雀をただ見ているだけなのですが、これが意外とハマります(笑) 単純だけど、それ自体が意外性やドラマ性を持っているものって案外ハマりますね(笑)
【昨年の振り返り】
さて、私は昨年3月末で39年間勤務したコニカミノルタ(入社時は小西六写真工業)を卒業し、4月から独立・中立のコンサルタントとして活動を始めました。主な分野は、これまで関わってきた産業用インクジェットの普及推進ですが、その他にもご縁があったメーカーさんとインクジェットに限らず新規事業創出のお手伝いなどにも関与しております。
インクレシピの開発や、プリンタの設計技術というような専門技術的な分野のコンサルティングは技術屋さん出身の方々にお任せし、もっぱら「どのように事業化をするのか?事業化の課題は何なのか?どこの誰にアクセスすれば必要な情報が取れるのか?」という経営側面のサポート、時には前面に立って海外プレゼンの代行なども行っております。これには「LinkedIn」で2,500人以上、日本の名刺交換ソフト「エイト」でも2,000人以上の人脈資産が大きな力となっております。
また産業用インクジェットの動向をフォローするためには海外、特に欧州・中国のイベントのフォローが不可欠です。昨年だけで「Heimtextil」、「FESPA」、「APPP上海展示会」、「IGI(世界壁紙工業会)」、「DRUPA」、「ITMA ASIA」、「The IJC」に出張し、関係者との情報交換と人脈の拡大を図りました。
国内外のいくつかの企業の顧問、数々の講演とワークショップ、および数々の海外イベントへの参加を通じて、前職コニカミノルタの視座から観ていた世界とは、また異なったものが観えてきており、今年は更にそこから得たことを活かして、なにやら閉塞感の漂う日本のメーカーの状況を少しでも打開するお手伝いができればと考えております。
業種や企業規模の大小に関わらず、成功体験の積み重ねによりメインの事業を発展させてきた(発展させてきた結果、それがメインの事業になった)企業は、その事業が転換期を迎えていることが明白にわかっていながら、なぜか大きく舵を切ることが出来ていない。
一時、「茹でガエル症候群」という言葉が流行りましたが、「何故、茹ると解っていながら、唯々諾々と茹でられてしまうのか?」のメカニズムもわかったように思います。これを打開するのは、案外内部からではなく、外部から「おい、茹ってるよ!」と警報を発したり、強制的に外部の情報を導入してその空気に晒すのが有効かも?それがコンサルタントの一つの存在意義かも?と思い至った次第です。云わば、全く違う文化を持ち込む「黒船」の役割・・・ということになるのでしょうか?
【昨年のハイライト】
さて、話は変わりますが、昨年のハイライトを一つだけ挙げるとするならば、やはり12月13日に開催され、その議長を拝命した WTIN( World Textile Information Network ) のデジタルテキスタイル・コンファレンスということになるでしょう。
WTINは百年以上の歴史のある英国の出版社・調査会社で、繊維産業に特化し、雑誌の出版の他に、最近ではWEBでの記事配信やコンファレンスの運営などにも力を入れています。特に、最近の潮流である「デジタルテキスタイル」は、専門の雑誌の出版を軸に、欧米・南米・中国など世界でコンファレンスを開催し、その推進にも一役買っています。そのWTINが日本で「デジタルテキスタイル」のコンファレンスをやりたいので議長をやってくれないか?と打診してきたのです。
おそらく、2014年のITMA(ミラノ)で開催されたWTINのデジタルテキスタイル・コンファレンスで、日本人らしからぬ存在感で場を仕切ったのが彼らの目に留まり、今回日本でコンファレンスを開催するにあたって白羽の矢を立てられたものと推察します。
インクジェットヘッドの出し手は殆どの日本であり、有力なインクジェット捺染プリンタメーカーもあるにも関わらず、日本でのテキスタイルプリントのデジタル化は非常にお寒い状況で、経費節減にかこつけて、デジタル捺染先進地域に情報を取りに行くことさえ殆どされておりません。
ならば!・・・海外のコンファレンスを日本に持ち込んで、それを乗っ取ってしまえ!眠れる日本を変えるには時として、いや往々にして、いや当たり前に「外圧」が必要なのかもしれません。私は英国企業が、わがお膝元でコンファレンスを開催しそのチェアマンを打診されたとき、そのコンファレンスをジャックすることを、密かに「黒船プロジェクト」と名付けておりました。
この際、最も注力したのは「コンテンツの日本語化」でした。元情報の英語に自由自在にアクセスし、それを消化でき、発言もできる日本人はごく少数で、大方はどこかに課題があります。今回は可能な限り、コンテンツを日本語化・日本語でサマリーして「消化不良感」を少しでも解消しようと努めました。パーフェクトには程遠いレベルでしたが、少しは意味があったかなと思います。
【大野として最も印象に残った講演】
それは9.デジタルテキスタイルへの市場からの期待と、その流れを決めるものとは?
Market expectations of printers & specifiers
John Scrimshaw, Editor, Digital Textile and WTiN Effects Channel, WTiN
でありました。
中でも最も衝撃的だったのは「デジタル捺染によって、モノづくり・衣服づくりが米国に戻って来る!欧州ではすでに戻りつつある!」というものです。
私の認識では、労働集約的で、環境負荷が大きい捺染業・縫製業を含むアパレルの製造業は、デザインと最後の流通を除いては、低賃金国に移ってしまった・・・アメリカでは既に絶滅、日本も絶滅寸前、中国でさえもはや「捺染業など、外に出ていけ!」という状況です。
それが「米国に戻って来る!」・・・それはトランプ氏が「中国製やメキシコ製には高関税を課す」と発言したからとか、インクジェットは環境負荷が小さいから・・・という理由(だけ)ではなく、もっと本質的な、いわば「デジタル技術が起こす産業構造変化」とでも言える話なのです。
簡単に(誤解を承知でやや大胆に)結論を申せば「アマゾンのようなWEBインフラを使って、個別デザインの発注を全部ネットで受けて、それを纏めて、インクジェットプリント工場に送って個別デザインを一括プリントし、裁断し、縫製して、発送する」・・・いわばテキスタイルのWEB to PRINT です。
小品種大量生産から、多品種少量へ、究極は個別カスタマイズになって、仕事が非効率になるのは注文件数の級数的増加です。無版オンデマンド印刷で、個別プリントは効率的にする前段階の受注と注文管理をWEBでやらせてしまう。そのインフラにアマゾンを・・・またしてもアマゾンモデルです!これは正しく「デジタルテキスタイル(革命)」と呼ぶにふさわしいと思いますが、その一方で、多くの日本企業の発想は「インクジェット捺染」の域を出ていないように思われます。
でも待てよ?受注やプリントは解決できても、最も手間のかかり、かつ避けられない「縫製工程」が低賃金を求めて途上国に出ていったわけで、そこが戻らないとそれが律速になるのではないか?この疑問が残ります。ところが、この縫製も戻ってくるというのです!
考えてみれば、アマゾンは注文と同時に課金されます・・・ということは、受注したものは全て売れるものと考えていいので、在庫の廃棄リスクはなく、また売れ残りを薄利・低利益率でバーゲンする必要もありません。また、注文と同時にクレジットカードに課金するので、キャッシュフローも従来ビジネスモデルよりも圧倒的によく、また回収リスクもゼロです。
この分、多少高く払って国内生産にしてもペイする!米国内に縫製工程を創設しても、「安価な労賃+そこからの輸送費+関税+貸し倒れリスク+在庫廃棄リスク+分業により各工程が薄く課金しているマージンの総和・・・」とキャンセルできる・・・そんな計算です。
まさにネット(WEB)インフラとデジタル捺染が作り出す産業構造改革かと思う次第です。アメリカにアパレル製造業が戻って来る?これまでは考えられなかったことが、なにやら起こりそうになっているようです。John Scrimshaw によれば「欧米で起こることは、必ず日本でも起こる!」とのこと・・・確かに起こっても不思議ではありません。が、それを起こす志士達が居なければ、核になる人達が起こさなければ、結局何も起こりません。この「黒船プロジェクト」が、そういう志士たちを目覚めさせるきっかけになればと願っておりますし、単発で終わることなく、今後も続々と黒船を呼んで、開国を促進したいと思う次第です。
【2017年のイベント】
会社はトップ次第、煎じ詰めれば社長次第!・・・これは39年の会社人生と、1年のコンサルタント経験から得たことです。今年は昨年からの活動の延長に加えて、日本の産業インクジェットシーンを変えるポテンシャルのある企業のトップ、社長に直接届く・響くようなことをやって参りたいと企画しております。ご期待ください(笑)
末筆ながら、今年も皆様のご健勝とご活躍を祈念いたす次第です。