産業用インクジェットの世界(1)

【産業用インクジェットの分野概観】

まず最初に、産業用インクジェットの応用分野にはどのようなものがあるのか?これについて簡単に触れておこうと思います。一般に、印刷業界の方々はインクジェットに関する情報感度が高く、釈迦に説法的な面もあろうかと思いますが、今後の話の展開への伏線としてお付き合いください。

産業インクジェットの分野マトリクス

産業インクジェットの分野マトリクス

これは、私が産業用インクジェットに関わり始めた頃、2000年代の初期によく使った図です。その後の発展で、この図に収まらないようなものも出てきてはいますが、取り敢えずはおおらかに見てください(笑)

一つの軸は、インクジェットのヘッドの使い方に「スキャン方式(家庭用プリンタに見られるように、ヘッドキャリッジが左右に往復し、その下を紙(メディア)が少しずつ間欠送りされる。シリアル方式ともいわれる)と「シングルパス方式(ヘッドキャリッジは固定され、その下をメディアが連続送りされる。ワンパス方式ともいわれる)」という二種類があり、そこでまず大きく分かれます。

もう一つの軸として、プリントの成果物が「印刷物(プリントしたものが文字や画像など、それ自体が表現物として意味を持つもの)」と、「ものづくり(着色や機能性液体の塗布など)」に分けることができます。

こうして、二つの軸が交差した結果、数学の「象限」のように4つの分野を定義することが可能です。数学では右上を「第1象限」として、反時計回りに2、3、4と名付けられているので、一応それに倣いますと「第1象限は『スキャン方式で、印刷物をプリントする』もの」となり、典型的にはサイン業界向け大判プリンタとその応用製品です。

第2象限はそれをものづくりに応用したもので、液晶パネルのカラーフィルタや、ソーラーパネルの集電配線などへの応用が試みられました。所謂「プリンテッド・エレクトロニクス」と言われる分野への応用がそれにあたります。実現すれば、それこそ産業革命を起こせること必定に思われますが、なかなかコトはそう簡単ではないようです。ここについては追々その理由を解明していきます。

第3象限は、いわゆる「塗布」と言われる分野です。既存の塗布方式は様々なものがありますが、一般には「全面塗布」は得意でも「部分塗布」、すなわち必要な部分だけに、所望の液体を塗布するのは得意ではありません。これをインクジェットで、狙った場所だけに液体を噴く=オンデマンド塗布、スポット塗布することが出来れば素晴らしいという発想です。これも、一部の特殊事例を除いては成功事例は少ないようです。

最後に「第4象限」、これは印刷業界の皆さんがイメージし易い、所謂「インクジェット印刷機」の概念です。バリエーションは、モノクロのバーコードプリンタから、フルカラー印刷機まで幅広いものがありますが「シングルパスで、印刷物を生産する」という点では共通しています。

これまでのところ、産業用インクジェットは、スキャン方式の大判プリンタを中心に市場を拡大してきました。モノクロのバーコードプリンタなど多少の例外はありましたが、一言で申せば「スキャン方式はシングルパス方式よりも簡単」なため、まずそこから応用が始まったのです。が、ここにきて急速にシングルパス方式の技術開発が進展し、速度・画質ともに印刷業界でも認められるレベルに到達しつつあります。

次回は、このそれぞれをもう少し掘り下げていきます。

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