- 2017-4-5
- 連載
- 産業用インクジェットの世界
【産業用インクジェットの分野概観:プリンテッド・エレクトロニクス】
前回は、ものづくりへのインクジェット技術応用の中で、所謂「部分塗布」・「パターン塗布」の事例を取り上げましたが、今回は「プリンテッド・エレクトロニクス」と総称される分野を解説します。当初は「プリンタブル・エレクトロニクス」と呼ばれていましたが、もはや「-able」と可能性を語るのではなく、「-ed」と過去分詞を使って、プリントされたと言い切るんだという決意も込めて、「プリンテッド」と呼ばれるようになりました。
プリンテッド・エレクトロニクスとはいささか広い概念ですが、割り切って申せば「(従来は「フォトリソ法」や「真空蒸着法」などで製造されていた)家電や電子機器の部品を「印刷法」で製造する」というものです。詳しい解説は検索してお調べ頂くとして、従来技法であるフォトリソ法や真空蒸着法は、マスクが必要だったり、大掛かりな装置が必要だったりするところを、インクジェットでマスクレスで、かつ比較的簡単な構造の装置で、工程を簡素化してハイテク電子部品を製造することが可能と期待されましたし、今も期待されています。
国のプロジェクト”JAPERA (= Japan Printed Electronics Research Association)” 日本プリンテッド・エレクトロニクス研究組合というのもあり、産総研と20社余りの民間企業が参加して、この分野を追求しています。
この分野に、最初に着手したのは米国のLITEREX というベンチャーで、インクジェット法で電子部品を試作したり、それ用のインクを開発したりすることを目的とした精密プリンタを市場に投入しました。これは、世界に名だたる家電メーカーや研究機関に導入され、この分野の開発を加速しました(その後、アルバックに買収され消滅)。また富士フィルム傘下の米国DIMATIX社や、コニカミノルタ傘下のフランスのCERADROP社も、こういう試作品製造用の精密プリンタを販売しています。
最初に実用化が試みられたのは「液晶パネルのカラーフィルター」でした。このカラーフィルターを製造するには通常「フォトリソ法」という手法がとられますが、工程が複雑で無駄も多く、印刷の版に相当する「マスク」が必要で、柔軟性に欠けるという側面があります。これをインクジェットで(YMCKの代わりに)BGRのインクを撃つことで、マスクが不要になり、工程が簡素化され、サイズも自由になり、一時検討されたBGRにもう一色追加して色域を広げることも可能・・・など様々な利点が期待されました。実際シャープの亀山工場で実用化され、市販の液晶テレビに搭載された実績もあります。が、結局主流にはなれず、いつしか消えてなくなりました。
他にも、キャノンと東芝が一時実用化を目指し挫折したSEDディスプレイや、次世代のディスプレイとされる有機ELディスプレイにもインクジェット技術が関与していました(います)し、太陽光パネルの製造工程にもインクジェット技術が関わっていました(います)。が、いずれも今一つメインストリームの製造技術になり切れていないのが実情のように見えます。JAPERAで官民を挙げて開発した技術も、それが企業に取り込まれて量産に寄与するには至っていません。
次回は、プリンテッド・エレクトロニクスという名前で期待され、錚々たる企業や国家プロジェクトなど多くの試みにも関わらず、インクジェットが今一つ、この分野の主流の製造技術になれていない事情を考察します。
そして、次々回からはいよいよ、第一象限の「大判プリンタ」の領域を解説していきます。