上海:APPPEXPO+DPES 参加報告(2)リコーの新ヘッド NH5320/5340 あるいは Gen6

上海:APPPEXPO+DPES 参加報告(1)からの続きです。

今年の上海 APPPEXPO会場でリコーが新ヘッドを発表しました。中国で「世界初」の発表をすることは珍しく、同社の中国重視の表れかもしれません。正式名称は MH5320/40ですが、現行の有名な Gen5(MH5420/5440)に対してあらゆる側面のスペックが改善されており、通称では「Gen6」といってもいいかと思われます。

世界初の発表がここ中国ということです

プレゼンは同社の執行役員 CIP開発本部本部長・CIP事業本部副本部長の森田哲也さんが、質疑応答を含め(中国語通訳を介して)全て自ら対応されました。日本の「事業責任者」というポジションにいる人はそもそも出てこないか、出てきても最初の挨拶だけで詳細や質疑は担当者にやらせるパターンが多いのですが、これをトップ自ら対応するというのは、個人的には大変好感を持ちました。やっぱり、事業を引っ張る立場の人はこうあって欲しいなあ!

中国では英語でスピーチしても、聴衆の大多数に対してはやはり中国語通訳が必要なので、堂々と日本語でやる方がむしろいい場合が多いです。リコーの Gen5は中国の UVインク機市場では 50%に近いシェアを獲得している(同社発表)とのことで、締めてきた赤いネクタイを示して「チャイナレッド大好きです!」というリップサービスに、思わず会場から拍手が起こる・・・など、サービス精神も旺盛で、リコーと森田氏の存在感を中国に示したと思います。

リコーの中国人スタッフによる通訳を介して、自らプレゼント質疑応答をする森田執行役員

満員盛況の発表会場

森田さんのご了解を頂いてプレゼン資料のパワポ画像を並べます。クリックするとスライドショーになります。

なお、Nessanが記事を書いていますし、プレゼン資料が非常に分かり易いので詳細は割愛しますが、敢えてスライドをセレクトすれば、Gen5とのスペック比較表や比較が書いてあるものでしょうか。

Gen5は品番の最後の桁が「1」となっているものが「水系対応」と書いてあり、UVインクや溶剤インクを想定した末尾「0」のものに対して、後日水系対応したことを窺わせます。今回のものは最初から水系インクに対応したというのを強調している・・・私の前職のヘッドは水系インク対応は最初から当然だったので、水系インクが可能ということをわざわざ強調しなかったのですが、逆にこれ(水系インクが可能)を強調するということは、それなりに苦労された(痛い目にあった)ことの裏返しかもしれません。「中国のお客さん、今回は大丈夫ですよ!」というメッセージと読めます。

最小液滴は Gen5の 7plから Gen6は 5plと小液滴化が図られています。小液滴化すれば駆動周波数は上がるのは、ある意味当然なので「駆動周波数が上がった」というだけでは高性能化を意味しませんが、下のスライドにあるように「単位時間のインク吐出量(所謂ポンプ能力)」が80%アップと説明されています。

また着弾精度(液滴飛行精度)やノズルの位置精度・・・偏差が向上していることを数値化して説明しています。

また、Gen5はヘッドから出ているケーブルの長さが固定長でしたが、Gen6ではヘッドから分離できるとされており、長短2種類が用意されているようです。このあたりも前職のヘッドはそもそもヘッド単体で、そこにコネクタでケーブルを接続する方式だったので、特に目新しくはない感じです。(まあ、このコネクタって結構曲者なんですけどね・・・ねっ(笑)

主な質問は:

1.Gen5は MH5420/40 に対して、それよりスペックが上の今回の Gen6は何故 MH5320/40 と数字が少ないのか?(なんかスペックダウンのコストダウン品という印象があるが?)・・・というもの:これに対しては「リコーの社内ネーミングルールによるもの」という、今一つ釈然としない説明でした。おそらく、4桁の数字の各桁がなんらかの意味を表しており、それに従ったということなのでしょう。また、公式には Gen5とか Gen6という表現も使っていません。ここも何らかの背景がありそうです。ゼロックスの電子写真プリンター iGen3と混同されるから?まさかね(笑)

2.Gen5を全てのスペックで上回る通称 Gen6を発表した今、Gen5はディスコンになるのか?:これに対しては、Gen5は併売するとの明確な回答がありました。当面は付加価値に対して価格差を付けての併売が妥当と考えられますし、ケースによっては最小液滴が 5plは必要ないものもあると考えられるので、既に市場実績のある Gen5を選択する方が妥当な用途もあると考えられます

3.実は質問しなかったのですが、私は先に挙げた下のスライドが気になっていました。

即ち、Gen5の方には「バイナリで 30kHz、グレースケールで 20kHz」とあるのに対し、Gen6は「グレースケールで最大 50kHz」あってバイナリの周波数が書いてありません。何故?

推測(推論)ですが、グレースケールで 50kHzが出るということは、バイナリでは 100kHzやそれ以上(200kHz近く)が出せるものと思われます。しかし、ワンパスで使った場合、5plでは 600dpiのピクセル(2.54cm/600 = 40μm四方)は埋まらない=ワンパスでは、ヘッドを二つ組み合わせて 1200dpiにするか、グレースケールで「使わざるを得ない」ことになります。

ではスキャン方式ではどうか?計算して頂くとわかりますが、5plで埋まるピクセルx 200kHzをフルに活かす速度でキャリッジを安定して加減速+シャトル運動させようとすると、どんなことになるのか?要はこのヘッドは、グレースケールを前提とした用途を想定した設計思想が背景にあると考えていいかと思います。バイナリで 200kHzが出るなんてことを誇示しても実質的な意味がないから書かない・・・ということなのでしょう。

また、スライドに説明はありませんが、キャリッジの位置決めも、Gen5が位置決めピンを基準にするのに対して、この Gen6は「面基準で位置決めをする=ワンパスに向いている」との説明がありました。意識しているのは京セラや富士 DIMATIXなどのワンパス指向ヘッドであろうと想像されます。今回のプレゼンは「当社従来比」ということで Gen5との比較でしたが、実際の顧客との営業現場では「他社同等品比較」がプレゼンされるものと想像されます。そこが一番大事ですからね(笑)

ちなみにインク循環には言及がありません。要望は多いだろうなぁ・・・

上海:APPPEXPO+DPES 参加報告(3)に続きます。

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