- 2019-1-31
- イベント参加報告
■ 他に告知をご希望の方:インクジェットに関することなら可能な限り対応します
このように書いたところ、直ちに反応してメールを頂いた花王の森山さんに敬意を表して、まずは花王のインクを搭載し、富士DIMATIXの SAMBAヘッドで試作機を展示していた熊本の KIT-CCの件から書き始めます。諸事情で短時間しか会場に居ることができず、ホンのサワリしか視察できなかったのですが、いくつか興味深いものを見つけました。
【追記:2月1日に時間をとってゆっくり視察予定でしたが飛び込みの別件が入り果たせず、結局1月30・31日の2日間で3時間ほどしか視ていません。断片的ですが少し追加しておきます。原文の冗長な部分は少し整理しました。】
■ KIT-CC:花王のインク+富士DIMATIXの SAMBAヘッドでワンパス試作機
SAMBAヘッドは言うまでもなく、富士フイルムの JETPRESS720(最新のは750)の為に開発され、当初は外販はしない方針だったものを、外販することに方針転換・・・まあ、莫大な投資をした MEMSで、数を捌かないとコストは下がらないとか、チマチマと手作り程度の数量では品質が安定しないとか、いろいろ事情はあったと思いますが・・・外販に方針転換した後、実際の採用事例はオランダ SPGのシングルパス・テキスタイル機 PIKEと、同スキャン機 JAVELINくらいしか知られていませんでした。
そういう意味では「実際にプリントが出来ている試作機の動態展示」というのは私としても初めて見ました。毎回何かサプライズを提供してくれる KIT-CCです。駆動ボード関係はニーズリンク技研などともパートナーシップを結んでいます。
この動画は 120m/minでメディアを搬送しプリントしたもの。サンプルの一番細かい文字1ポイント)は肉眼では見えない(ため、ルーペやパソコンの拡大鏡を用意してプレゼンしています。
■ THINK LABORATORY:1100mm幅機
今回は 1100mm幅のマシンを展示。動画の中で重田社長も語っておられますが、これまでの 540mmではラミネートの段取りが悪く、そこで工数や無駄が発生する・・・そういうユーザーの声を反映させ 1100mmのマシンとしたとのこと。
更に・・・これは公表されている話ですが・・・カラーインクは花王だが、白インクは自社開発とのこと。長年インクジェットビジネスに関わってきた私としては「目が点」というか「耳が点」になるような話ですが、自信を持って自社開発と明言されておられました。
これも、ナッセンジャー SP-1(テキスタイル向けシングルパス機)や KM-1(オフセット画質シングルパス機)を手掛けた経験からは、シングルパス機で「いつでも安定稼働」というのが最大のテーマであることは身に染みて分かっているので、本格普及にはそこをどう実現して、かつそれを分かり易く顧客に分かって貰えるか?・・・そこがキーだろうと思いました。
それよりも私が注目したのは「包材印刷業者への導入」ではなく「食品工場への導入」を強く意識した方向付けを明示していたことです。ブースでは大森機械という包装機械メーカーがコンパクトな包装機械を展示していましたし、重田社長が面談しておられたのは「(食品の)充填機」や計量器で有名なメーカーでした。
この記事をお読みの「包材印刷業者」様には申し訳ないですが、これまで食品メーカーが包材を発注していた包材印刷業者を「中抜き」して、食品の製造業者が自前で包材を印刷してしまう・・・これにより、包材在庫の撲滅と、必要な時に必要な包材をその場でプリントして、包材在庫も包材品切れも撲滅するという訴求をしていたことです。
これ、デジタルの本質です。オンデマンド印刷や無版印刷という無意味な言葉に救いを求めてはいけません。デジタル機の本質は従来のサプライチェーンの「中抜き」なのです。包材在庫の撲滅ではなく「包材印刷業者の撲滅」なのです。但し、極小ロットのものなどからですけどね・・・それって「包材印刷業者」としても、ホントはあまり受けたくない仕事ですよね。なら、顧客にやってもらってもいいでしょう。
そしていずれそ、こういうマシンの生産性がマスにも対応できるようになった時、「包材印刷業者は絶滅の危機」をむかえることになるのでしょう。
あ、これは重田社長の言葉ではなく、あくまで大野の私見で、文責は大野にありますことを明記しておきます。(笑)
まあ、とはいえ、工場が一番恐れるのがラインストップ!需要があるときはラインストップ時間に比例して機会損失が膨らみますからね!従って安定稼働するということを証明・納得・腑落ちしてもらうまでは、導入はなかなか進まないでしょうし、最初はインラインでなく「ニアライン」(near line:印刷業者には発注しないが、生産ラインには組み込まず、その近くで需要に応じてプリントする)という形態から慎重な導入が始まるのではないでしょうか?
■ ミマキエンジニアリング:メタリック UVインク
メタリックをインクジェットで実現するのは「言うはやすし、西川きよし」の世界で、そう簡単なものではないというのが私の認識です。今回のミマキのプレゼンは UVインクでメタリックを実現したというもの。細かく話は聞けていませんが、単にインクだけでなく、何らか絵作りのノウハウがあるのではないでしょうか?しかし、いつも何か新しい話題を提供してくれるミマキ!このパワーには脱帽、目が離せません。
■ パナソニック ビジネス:プリンタを展示・・・え?
パナソニックのヘッド事業はコニカミノルタが買収しましたね。で、なんとそのパナソニックがインクジェットヘッド事業(と思しきもの)を展示しています。なんじゃ、そりゃ?
- コニカミノルタにヘッド事業を売却した際に「競合禁止義務」を負う契約になっていなかったのでしょうか?2年間などと期間を限定して、競合領域には参入しない・・・というような義務を負うことが普通かと思うので、素朴な疑問です。まあ、これは当事者同士の問題なので私の預かり知るところではないですが・・・
- ヘッドを売るビジネスなのにヘッドのモックアップさえ展示されていません。何故なんでしょう?
- 開発用キットの価格(ヘッドの価格も)は明示されてはいませんが、巷の噂では数千万円とのこと。いろいろなパラメータを変えてテストをする開発用プリンタは、それに特化したベンダーは各社のヘッドを装着して比較できるようになっていますが、価格はそれより安いはず。パナソニックのヘッドしか搭載できない開発用プリンターに数千万円を投じることのできる顧客とは?
- 高粘度インクを出射可能・・・開発用プリンタでは50cp、量産用では25cp・・・開発段階で50cpのインクを選択しても、実用には25cpが限度なら、その50cpの意味とは?
- 既存プレーヤーは高粘度のUVインクは加温して8~10cp程度に粘度を下げて出射するのが一般的。桁違いの高粘度ならともかく、3倍程度の25cpが撃てるというのは差別化になるのでしょうか?
- 適用インク種は溶剤インクと UVインクと開発用プリンタのパンフに記載がありますが、今の産業用プリンタの大きな流れである水系インクには対応しないのでしょうか?
- DPN(Drive Per Nozzle:ノズル毎に駆動電圧を独立に設定でき、液滴の出射速度を揃えることができる)とパンフに記載があります。DPNは高い均一性が要求される高度な用途には向くとされますが、その分駆動回路が重く高価になります。サンプルを展示していた掃除機や便器の蓋への加飾に DPNが必要でしょうか?
- そのサンプルの掃除機や便器の蓋は、既に商品化されているものであるにも関わらず、写真撮影を拒否されました。何故なんでしょうか?
- パンフに記載されていた URLを覗いてみましたが、インクジェットに関する記載はありませんでした。
- 禁忌領域(用途)や顧客はあるのでしょうか?例えば Samsungや LGが OLEDディスプレイ製造用途に使いたいと来た場合、喜んで供給・サポート致しますなのか?あんたらには売れませんなのか?
- インクはオープンなのでしょうか?それともパナソニックが供給あるいは認証するものしか使えない(使わせない)クローズなのでしょうか?
海外のインクジェット業界の知人( TheIJCや IMIや GISなど)10人程に当たってみましたが誰も知らないとのことで、産業用インクジェットの主戦場である欧州や中国への告知・展開はこれからのようです。どの舞台で海外デビューするの興味深いところですが、その際には普通に疑問を持たれる上記のポイントはクリアになることを期待したいと思います。
【追記】
パンフレットをよく見ると「ヘッド売り」のビジネスをするとはどこにも書いていないですね!「インクジェット設備のご要望にお応えします」と書いてあるということは「設備を売る(受託する)」ということなんでしょうか?ヘッド単体を売るということではないならばヘッドのモックアップを展示しないというのは分からないでもありません。しかし、上記の疑問の大半は残りますし、新たな疑問も生じます
- 量産設備で 300mm x 300mmというのはどんな用途を想定しているのでしょう?少なくとも掃除機や便器の蓋ではなさそうですが?
- 300mm x 300mmということは枚葉?ロールtoロールには対応しない?あるいは要望により対応?その際の速度(生産性)は?
- 安全装置という項目がありますが、生産性の情報よりこれの記載を優先した理由は?
■ 一旦寝ます(笑)
■ 山形大学
■ ワイ・ドライブ■ 富士フイルム
使い捨てカートリッジで高価なヘッドを壊すことなく、かつ高価なサンプルインクを無駄にすることなく試作・評価できる研究開発用プリンター。価格は 800万円台で手頃感ありとの噂。
■ RICOH、FUJI XEROX、KONICAMINOLTA
電子写真系ベンダーは、そこで培った技術を他用途に転用して新規事業を開拓しようと模索しています。なかでも今回リコーは「インクジェット技術を用いて、ロール・ツー・ロールでリチウムイオン二次電池を自由な形状で製造する技術を開発し、電池のデジタル印刷製造を大きく前進させたことを賞す。」とのことで「ナノテク大賞」を受賞しました。
■ 銀ナノインク・メタリックインク
■ 3Dプリンター
TCT Japanという 3Dプリンター(積層造形)の展示会が一連の関連展示会の一つとして開始され、ストラタシス他各社がブースを出していましたが、この分野は昨年フランクフルトの FORMNEXTという世界最大の展示会を視た目からすると、やはり規模や活気が足りないように感じます。
以上、2日でたった3時間しか視ることが出来ず、やや消化不良ではありましたが、それでも結構面白い発見はあったかと思います。しかし、やはり日本の展示会は世界の縮図というにはかなり偏って規模が小さいということも感じざるを得ず、ドイツを中心とした欧州、米国、そして中国の展示会に自ら足を運ばないと、いつしか「井の中の蛙」になってしまうのでは危惧を憶えます。