(前回からの続き)
3.昇華転写インクの勢いはどうなったのか?
展示会に出展されている全プリンタを調べ上げ、そのインク種や搭載ヘッドで分類する「展示会シェア分析」という手法があります…というか、大野が前職コニカミノルタ時代に考え出し、若手社員を出張させて継続的にデータを取ってきたやり方です。実際の販売台数などはなかなか統計が取れないのですが、展示会の出展機は、その時々の実態をある程度は反映しているだろうという考え方です。グラフは(左)昨年vs(右)今年です(スマホ等で読まれる際には(左)→(上)、(右)→(下)と読み替えてください)。
まず、中国の展示会なので、出展者は大半が中国のプリンタメーカーです。この状況は昨年と大きな変化はありません。ちなみにトルコやインドあたりの展示会ではかなり中国色は強いですが、ITMAなど欧州の展示会では中国メーカーの影は非常に薄いです。
展示機の総数(約70台)に占める昇華転写機の割合は、昨年は1/4だったところ、今回は半分強と増加しています。
中国ではEPSONヘッドとその駆動基板、更にはインク供給系やプリンタのフレームなどが当たり前に流通しており、極端に言えばEPSONヘッド搭載機ならレゴのように誰でも「ナンチャッテプリンター」を作ることが出来ます。ここで京セラヘッド搭載機が大きく伸びているということは、より高速な本格的プリンターが出展されている(そういう需要があることの反映)ということになります。
近年、中国でも環境規制が厳しくなり、排水処理規制値をクリアできない零細業者の捺染工場は強制的に操業停止させられる動きがありますが(実態は環境規制に名を借りた、税金を納めない零細業者の淘汰といわれていますが…)、そういう零細業者が向かったのが「排水処理設備が不要な昇華転写機」と言われています。
なお、政府も「昇華転写機は、確かに排水は出さないが、転写用紙を製造する工程で排水を出す」ことに気が付き、そこをまた規制する動きがある…など、いたちごっこは続いているようです。
いったいどこに、どういう需要が、どのくらいあるのか?という実態はなかなか掴めませんが、少なくとも中国では、至る所に夥しい量の布製品が売られており、その画像の印象からは明らかにインクジェットプリントと思しきものが大量に出回っています。
空港などでも「シルク、シルク」などと声を掛けられ、触ってみるとサラッとした手触りのいい布地ですが、おそらく安いものは近年高騰しているシルクではなく、シルクのように加工されたポリエステルで、昇華転写機でプリントされたものと推察されます。色がかなり派手・ケバい(笑)という、好みの問題を別にすれば、鮮鋭性や階調などの品質は着実に向上してきており、従来機の置き換え狙いで京セラヘッド搭載の中速機が出てくるなど、市場の伸びしろはまだあると想像されます。
但し…だからと言って「市場調査をして、商品企画を提案し、市場を知らない経営層による社内承認を取り付け、開発に着手し、市場からは求められてもいない社内基準で品質や安全確認を行い、御前会議で販売決定を行う」…こういうプロセスに平気で2年くらいの時間を費やす日本の大メーカーがついていけるような市場ではないと断言できます(苦笑)
4.顔料インクは活発か?
5.米国資本に買収されたイタリアメーカー(REGGIANI・MS)の動向は?
6.Industry4.0に対応した動きは出てきているか?
上記3点に関しては、少なくとも表面上あまり目立った動きはなかったように見えます。顔料は、中国のシルク(調)のプリントをターゲットにするものではないと思われますし、Industry4.0は「従来は低賃金だった中国やアジアに大量生産を委託していた先進国が、サプライチェーンを見直し、生産場所を先進国内にシフトさせる」という動きと捉えれば、中国でまずそれが導入される流れはないでしょう。イタリアメーカーを買収した米国資本も、少なくとも中国を最新鋭機の発表の場とは位置付けていないように思われます。
(次回、写真レポートに続く)