展示会報告 上海TEX 11月27~12月1日 繊維機械総合展示会(2)

SHANGHAITEX

出展されたアイテムでの着目点は:
1. シングルパス機はその後どうなったのか?
2. 新しい提案はあったのか?
3. 昇華転写インクの勢いはどうなったのか?
4. 顔料インクは活発か?
5. 米国資本に買収されたイタリアメーカー(REGGIANI・MS)の動向は?
6. Industry4.0に対応した動きは出てきているか?
といったあたりかなと思います

1. シングルパス機

HOPE社のシングルパス機

HOPE社のシングルパス機

MEIJA社のシングルパス機

MEIJA社のシングルパス機

2年前のITMA2015(ミラノ開催)では、MS・SPG・コニカミノルタが実機展示を行い、その他数社がビデオデモや開発着手の発表などを行って大きく期待されたシングルパス機(ワンパス機)ですが、2011年のITMA(バルセロナ開催)でMSが発表して以来、6年間での設置実績は30台強にとどまっており、まだブレークしたとはいいがたい状況が続いています。

中国でも、昨年のITMA Asia では数社が実機展示をしていましたが、今回はHOPEとMEIJAの2社のみで、ビデオデモの数も減ったように思われます。この2社はいずれもセラミックタイル向けのシングルパスプリンタで成功した中国メーカーですが、習近平の「不動産投資過熱抑制政策」でマンション建設にブレーキがかかり、セラミックプリンタ市場も冷え込んだため、開発したシングルパス技術の出口としてテキスタイルのシングルパス機に参入したというのが背景です。このあたりの大胆さは、とても真面目な日本メーカーが真似できる芸当ではありません(苦笑)。

なお、セラミックといえばスペインのCRETAPRINTも有力なメーカーですが、そこを買収したefiはイタリアのテキスタイル機メーカーのREGGIANIも買収し、その強みを活かしてシングルパス機を開発中と、REGGIANIの営業部長自らがリークしています。REGGIANIは更にコンティニュアス方式のインクジェット技術も有しており、これを活用して「捺染ではないシングルパス機」を開発しているという推測もできます。具体的には「捺染ではなく染色(無地染め・単色染め)」や「機能性材料の塗布(撥水性や親水性などを持たせる材料)」などが考えられます。これらはITMA2019(バルセロナ)では姿を現しているでしょう。

2. 新しい提案はあったのか?

1) 東伸工業 IUGO(融合)

スクリーンとインクジェットのハイブリッド機

スクリーンとインクジェットのハイブリッド機

スクリーンで黒、インクジェットで複雑な柄を

スクリーンで黒、インクジェットで複雑な柄を

一ノ瀬社長。手にするのは金色部分をスクリーン印刷した見本

一ノ瀬社長。手にするのは金色部分をスクリーン印刷した見本

名称は「融合」から来ている

名称は「融合」から来ている

新しい提案として目立ったのは兵庫県尼崎市の東伸工業による「インクジェットとスクリーンのハイブリッド機」。こういう試みはこれまでもMS(イタリア)やATEXCO(中国)のワンパス機にロータリースクリーンを搭載するなどの形でなされましたが、試作機レベルで終わり成功したとはいえないようです。

東伸工業のハイブリッド機は、スキャンタイプのインクジェットに、フラットスクリーンを一版という構成で、高付加価値のプリントを狙ったものと思われます。インクジェットはオールマイティではなく、深みのある漆黒や、中間色の単色をバンディングなしでプリントするのは苦手です。また金銀などのメタリックや、機能性インクの射出はまだまだ難しいのが実態で、そこをスクリーンでやってしまうという考え方でしょう。

インクジェット機を開発する視点からは「版が不要」という最大のメリットが失われ、「繰り返しパターンのない自由なデザインが可能」という強みも失われてしまうため、こういう発想は出てきません。東伸工業は永年スクリーン印刷機を手掛け、また同社のインクジェット機はヨーロッパの高級ブランドのプリントにも採用されているという経験値から、「高精細・複雑な部分はインクジェットに分担させ、インクジェットの苦手な部分をスクリーンに分担させる」という発想が出てきたものと考えられます。同社はスクリーン版のエングレーバーも持っており、全て版でやることに比べれば大幅な手数減とコストダウンになるとのこと。

現在はインクジェットのスキャン速度が律速になっているようですが、ここは高速化は十分に可能であり、ヘッドの追加で高速化が可能などの設計にしておけば導入もスムースかと考えられます。中国のような量産主体の市場より、まずは日本で普及させたいとの想いがあるとのことです。

2) SkyJet(瀋陽):両面プリント

SkyJetの梁社長

SkyJetの梁社長

双面という文字が見える。両面デジタル捺染と書いてある

双面という文字が見える。両面デジタル捺染と書いてある

中国遼寧省の瀋陽にある中堅のサイン用プリンタメーカーのSkyJet。このメーカーの得意技はメディアの両面に位置精度よく同じ柄をプリントすることです。電飾看板などの光を透過する媒体の画像濃度を上げるために、表裏からおなじ画像を(左右逆転させて)プリントするマシンを持っていますが、これを捺染に応用して、布の裏表で同じ柄が見え、インクを浸透させたのと同じ効果が得られるというものです。

流行りの昇華転写の弱みは、インクが布の表面に留まり、裏に抜けないので、スカーフのような「裏が白地のまま」では商品として成り立ちがたいものがありますが、そのようなものやインクが浸透しない厚手の布などに両面からプリントしようというものです。

3) MOUVENT:スイスのBOBST社とRADEX社の合弁会社

9月にブラッセルで開催されたラベルエキスポで、スイスの大手包装機械メーカーBOBST社と、小規模なインクジェット技術開発会社RADEX社が合弁のMOUVENT社を設立し、その第一弾としてラベルプリンタを発表しましたが、その第二弾ともいえるインクジェット・テキスタイルプリンタを発表しました。

実はRADEX社はかねてよりテキスタイル機は開発しており、既にITMA2015にこのスキャンタイプの試作機を展示していました。同社は開発会社で、販売は Swiss4Tex という別会社を設立して準備を進めていましたが、ここでBOBSTという後ろ盾を得て、合弁のMOUVENT社にすべてを統合するとみられます。

既にシングルパス機にも着手しており、ITMA2019までには本格的に市場に参入してくるものと推測されます。ここでは詳細には触れませんが、RADEX社の技術は「富士DIMATIXのSAMBAヘッドを搭載したモジュールに、駆動基板・脱気モジュール・インク循環などをコンパクトに組み込み、これ4をYMCK4色をセットにしたものを『クラスター』と呼び、それ単位でスケールアップしていく」というものです。

天才的なインクジェット技術者 Piero Pierantozzi 氏の構想が、BOBSTの資金とチャネルの支援を得てどう花開くか…当分の間、目が離せません。

(この項続く)

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