展示会報告 Heimtextil 2018 (1) フランクフルト1月9~12日:全般

まず例によって、最初に場所の俯瞰です。

フランクフルト中央駅からSバーンでひと駅、路面電車でも数駅でMesse Frankfurtに到着します。東京ビッグサイトの数倍の敷地に、展示会場の他にコンサート会場や劇場などが集まる複合施設です。ここでで開催される種々の展示会の中でも、自動車ショーや、書籍見本市(Buch Messe)などは特に有名です。

書籍見本市(Buch Messe)は15世紀半ばに近郊のマインツでグーテンベルクが活版印刷を発明して、ほどなくしてフランクフルトで書籍の市が開かれ、以来500年以上の歴史があるそうですが、このハイムテキスタイルはそのルーツを辿ると1240年にまで遡るということです。ドイツ語ではハイムテキスティールと発音しますが、その意味はホームテキスタイルで、「ベッドカバー・シーツ・布団カバー・テーブルクロス・カーテン・暖簾・カーペット」など所謂布製の内装材を指します。ここに壁紙が加わりますが、これも元はといえば(紙が安価に製造できるようになり普及するまでは)タぺーテン Tapeten と言われる布張りクロスが主流だったことに起源があると想像されます。

800年近くにもなる連綿とした歴史の中で形成されてきた「業界コミュニティ」の構成メンバーにとってはごく自然に溶け込める展示会なのでしょうが、プリント技術としては超新参者のインクジェット屋が紛れ込むと違和感に圧倒され、身の置き所が無いような気分にさえなります。これ、どうやってインクジェットで攻略すればいいんだろう?(笑)この種の違和感は、昨年出かけた Interpack2016 で感じたものと共通しています。 また、印刷業界のデジタル化に詳しい英国人ジャーナリスト Nessan Cleary 氏も記事の中で、この業界の製品の深みや技術の奥行について感嘆しています。

ハイムテキスタイルの全体感をたった一枚の画像で表現するのは所詮無理ですが、この写真はドイツ四大壁紙メーカーとされる RASCH, AS CREATION, MARBURG, ERFURT の一角の RASCH のブースです、概ねこういう壁紙、寝装具、カーテンなどの完成品やデザインを展示するブースが全体の95%のスペースを埋め尽くしていると思って頂ければいいでしょう。商業ベースの来場者は4日間で70,000人(一日平均17,500人)、出展社数は2,975社といずれも対前年微増、出展者の国籍は89%(前年と同じ)がドイツ以外で国際的な広がりを持った展示会と言えます。

所謂「デジタルプリンタ」の機器展示は下のフロアプランの矢印のスペース(Hall6.0)の部分のみです。本当はその横のピンクのスペースも埋めたかったのではないかと想像されますが、恐らく埋められず、テーマパークに変更したのでないかと推察されます。Nessan Cleary も記事の最後に書いていますが、プリンタ機器を展示する場としてはFESPAの方が適しており、またプリンタメーカーからそういう場としてしっかり認知されたと言えるでしょう。日本人のメーカーマンはもFESPAには違和感を抱かず、比較的分かりやすいと感じると思います。

しか~し!一度はこういう場に足を運んで、この産業の奥深さや、製品の複雑さ、アプローチするにはどうすればいいのか?などを「自分で、身をもって」感じ体験することは大変重要なことではないでしょうか?日本人はともすると機器の展示会にでかけ、「出展されている機器のスペックを調べ、それを横並びにして比較する」とか「プリント物を顕微鏡で拡大してドットのサイズや形を調べて論評する」とか「版を作らなくていいから小ロットはデジタルが有利」…などという表面的な比較やロジックで満足しがちです。それが重要でないとは言いませんが、その成果物でメシを食っている人達が形成している業界とはどういう感触のものなのか?それを理解までとは言わずとも、見る・感じることは大変重要なことだと思うのです。

今、なにやら期待と注目が集まっているテキスタイルについても同じです。インクジェット機のスペックを議論するだけでなく、そもそも繊維機械業界とはどういうものなのか、アパレル業界の展示会やファッションショー、インクジェット製品が出展されるパリコレとはどういう世界なのか?一度は出かけて空気を吸ってくる…逆にそれ無しに、解像度や粒状感などを議論している様は滑稽でさえあります。このあたりが日本メーカーと欧州メーカーのアプローチが大きく異なるように思えるのです。

ドイツの四大壁紙メーカーのうちの3社(これにERFURTが加わる)及び英国のANSTEYです。

ヨーロッパの壁紙は60cm弱の幅x30mのロールで売られるのが主流で、「巨大な東急ハンズ」というイメージのDIYチェーンで売られるのが主流です。その巨大さはなかなか表現できませんが、およそ自分で家を建てるのに必要な資材から工具まで全て揃う店です。ドイツではOBIやBAHRなどが有名ですが後者は経営破綻して売却されたと聞きます。

ヨーロッパでは壁紙はこういう店で買ってきて自分で貼るのが主流で、OBIのサイトには「壁紙を貼る前に・選び方・貼り方」などをコーチする動画があります。ドイツ語なので言葉はスルーして動画だけでもお楽しみいただければと思います。

自分で貼るには「貼りやすく、貼り直しができる(破れない)」ことが必要です。日本の壁紙は90cm幅で素人が貼るのは至難ですが、ヨーロッパのものは60cm弱です。この幅は欧州女性の平均的な肩幅から算出され決められたと言われています。また所詮素人が貼ると、微妙に斜めになったり重なり部分は多過ぎたり少な過ぎたりという失敗をしがちです。この為、基材が破れやすい紙ではなく、破れにくい不織布(フリースと呼ばれる)が主流になってきています。グラフは、ドイツの壁紙の約80%が不織布であることを示しています。もはや壁「紙」という呼び方は適切ではなく、Wall Covering というのが適切なようです。

日本は住宅事情から難燃・不燃の基準が厳しく、また幅が90cmで素人には難しく工務店が貼るのが主流で、かつその流通の大半をサンゲツという内装材総合企業が押さえているという、世界的視野から見ればやや特殊な市場です。統計上、日本の壁紙使用面積は世界の8%程度あるようですが「輸入も輸出も殆ど無い」という、まさにガラパゴス状態にあるようです。少なくとも、インクジェットや電子写真(XEIKONやHPのIngido)で壁紙市場への進出を考えるなら、日本視点では世界市場を見誤ることになるでしょう。世界の壁紙はデジタル化が始動しつつあります。

さて、デジタル機器が集められた Hall6.0 の解説はこの報告シリーズの後半で触れようと思いますが、その前に次回(2)以降暫くは保守本流のブースが並ぶHall4の中に垣間見るデジタル化をご紹介します。

【続く】

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