展示会報告 上海TEX 11月27~12月1日 繊維機械総合展示会(1)

SHANGHAITEX

まず本題の前に、例によって場所の巨大さに触れておきます。開催場所は上海の浦東にある国際展示場です。メインの入口は上の写真で下方のV字の部分ですが、ここに立って左手をW棟(西)、右手をE棟(東)、遠方にあるのがN棟(北)と呼び、展示棟の白い屋根がそれぞれ、5つ、7つ、5つあります。

この、メイン入口に立って、遥かN棟群を眺めると、遠くに霞んで見えます。冬場に入り、多少空気が悪いのを差し引いても途方もない距離です。よく大きいもの・広い場所の比較の対象にされる「東京ドーム」・「甲子園球場」などではとても太刀打ちできないスケールです。

上海TEXは繊維機械の総合展示会です。総合とはいえ、繊維の世界は「紡績機」「織機」「編機」「染色機」「捺染機」あたりまで、即ち布を生産し、それに何らかの模様や色を付けるまでと、「裁断機」「縫製機(ミシン)」、即ち布を加工し、最終製品に仕立てる番屋は別の系統の展示会という区分けがあるようで、ここではいわゆる「上流」側の展示会というところです。

世界的にはITMA(International Textile Machinery Association) がヨーロッパで4年に一度開催されますが、アジアではその姉妹展の ITMA Asia と上海TEXが隔年開催され、結果的に毎年こういう繊維機械総合展示会が中国で開催されることになっています。

今回はW棟5つとE棟4つを使っての展示。自分の目的はもちろんW3~W5にあるインクジェット機の視察ですが、他にW1は編機及び靴下の製造装置(Hosiery)、W2はスポーツ衣料関連、E1・E2は紡績機、E3はスペアパーツ、E4に織機が並んでおり、そういう繊維産業(上流)の全体像を見るのも大きな意味があると思います。

これを読まれておられる皆様の多くは印刷業に関わる方々と思いますが、あえて印刷業で例えれば、主要なメディアとしての「紙」を製造する抄紙機や、フィルムを製造する装置、から印刷機までがカバーされている展示会ということになるでしょう。(実際には、元は「印刷(Druck)と紙(Papier)」という単語から名付けられた drupa でさえ製紙機の展示はありませんが…)

さて、印刷関係の総合展示会は、この秋シカゴで開催されたPRINT17に出張した業界人からは、「スペースは縮小し、AFGA・HEIDELBERG・KODAKが出展していない」とか、そのあとのIPEXに至っては論評にも値せずなどと、商業印刷の総合展示会の縮小・退潮が伝えられました。また、日本にいると繊維関係でも、年々国内生産量が減少しているというような話題が多く、あまり景気のいい話を聞きません。

ところが、ここは違います。基礎的な必需品である繊維製品は、おそらく世界のGDPの総和や人口というようなマクロ指標と連動して生産量が増加していると考えられ、情報伝達の手段が電子データに取って代わられつつある商業印刷とは根本的に事情が異なるということなのでしょう。また、日本の現状をして世界を推し量るのも、往々にして間違う元のように思われます。

巨大な紡績機

巨大な紡績機

高速織機

この業界、ドイツ製とイタリア製は存在感が高い

この業界、ドイツ製とイタリア製は存在感が高い

ロータリー・スクリーン捺染機

ロータリー・スクリーン捺染機

環境意識の高まりか、無水染色は人気と見えた

環境意識の高まりか、無水染色は人気と見えた

私自身は、コニカミノルタでナッセンジャー事業も統括していた関係で、前回のミラノ開催のITMA2011、前々回のバルセロナ開催のITMA2011を初め、ITMAアジアや前回の上海TEXなど、この手の繊維業界総合展示会の主だったものは何度も視察し、驚きは少なくなったので、下記に今回初めてこういう展示会を視察したインクジェット機の開発技術者の知人のコメントを引用させてもらいます。

●全体感
9つのホールを使用し、紡績から織り編み、染色整理、すなわち素材からテキスタイルを作るまでの製造設備を一堂に会した展示会。巨大な設備が所狭しと運び込まれ、その一部は轟音を上げながら稼動している。この圧倒的なスケール感は、アジア諸国への転出もささやかれ成長が鈍化しつつあるとは言え、中国での繊維産業が依然世界No1であり、未だ投資意欲も衰えていないことを改めて思い知らされる。

この中で染色の占める割合はごく一部でしかなく、そのさらにちっぽけなプリント、さらにはその中の(まだ3%程度といわれる)インクジェット機を我々は担っているわけである。狭い範囲内での思考にとらわれず、巨大な繊維産業全体の動向をふまえたうえで、染色の未来を考える必要性を強く感じた。この再認識が、今回の訪問における最大の収穫であった。

●染色の中でのデジタルの立ち位置
9つのブースの中で、染色関連はざっと3ブース、その中で1/2くらいはデジタルプリントの展示であった。この比率は現状のデジタルのシェアから考えると驚くほど大きいと言える。古典的な染色機(いわゆる無地染め)こそ多く出展されてはいるものの、ロータリー、フラットスクリーンはごくわずかであり、それに取って代わるIJプリントの期待値は大きいということだろう。

さらに今回象徴的であったのは、デジタルの中でも昇華転写プリントで動態展示しているブースが圧倒的に多かったことだ。これは明らかに昨今の中国での環境規制を反映しているだろう。現地メンバーいわく、排水規制によって多くの捺染業者が廃業に追い込まれている中、昇華転写機しか売れないということ。中国市場は国を挙げてGREENの方向に突き進んでいると言える。

デジタル化の流れは疑いようもない必然であることを改めて思い知らされる。この中で、昇華転写ソリューションがすべてのプリントニーズをかなえられるわけでなく、改めて前後工程レス、生地を選ばないユニバーサルインクの必要性を感じる。いち早くこれを実現したプレイヤーが市場を制する気がしてならない(まだ顔料インクの展示はわずかであることからも)。

●インクジェット各社の出展の動向
各社の出展スタイルは軒並み平凡そのものであった。まず、各社ともに装置の訴求点をほとんど出してこない。言い方は悪いが、ただプリンターを置いているだけ。これはITMA2015でのそれなりに洗練された各社のデモ、プレゼンと比較すると雲泥の差があった。
・(特に欧州メーカーは)中国の展示会ではあまり最新技術をアピールせず、隠し持っておく傾向にある
・中国市場では、目新しい先端技術よりも、実績のある安定感が好まれるからがその理由となるか。

特に後者は、コスト至上主義でダウンタイムを著しく嫌う(かつ、装置はその厳密なスペックどおり動くことを求める)この市場ニーズの表れではないかと考える。逆に言えば、決定的な安定稼動をもたらすことができれば、それが最大の差別化になりえよう。この市場ではそれはプリンター単独でもたらされるものではなく、一定の現場サポート、カスタマイズが必要とされる。すなわちそれをやり切る体制と知見が必要

――――
次回はインクジェット各社の動向をレポートします

本記事のPDF版はこちらからダウンロードできます。

関連記事

ページ上部へ戻る