エプソン:役員の「誰」が現地に行って Fieryをマネージするのか?

EPSONが Fieryを買収する・・・このニュースの波紋は暫く収まりそうにありませんね。

え?何それ?買って何をするの?シナジーってあるの?$591mil?ええっ?その根拠は?高くない?

必ずしも「ネガティブな反応」という訳ではありませんが、取り敢えず業界の皆さんは confusedとか puzzledというリアクションが大半のように見えます。

Linkedin Toby Weiss氏(Fiery CEO)の投稿に使用されたロゴを引用

というのも、エプソンのプレスリリースには業界人、更には株主が知りたい具体的なことが一切書かれていないからです。プレスリリーズは出せばいいというモノではありません。わざと意図をボカしたいならいざ知らず、やはり 800億円以上の買い物なら、その明確な意図が説明されていて然るべきでしょう。少なくとも株主はそう思うでしょうね。小川社長は本当にご自身で納得しているのでしょうか?ご自分の言葉で説得力のある説明ができるのでしょうか?

本件は日本だけの話ではありません。Fieryがインターナショナルな会社なので、むしろ海外でインパクトが強いわけです。ところがエプソンの US拠点や EU拠点に問い合わせても「何も言うな」と箝口令が敷かれていると聞き及びます。なんだ、それ?…pleased to announce ではないの?(笑)

ここから先は EPSONだけの問題ではなく、一般論として書きます。恐らく、こういう M&Aにおいてあまり語られない視点ではありますが、私が思うに一番本質的な課題と思う部分なのです。

買った会社に「乗り込んで」現地人の信頼を勝ち得て、その会社をマネージする・仕切る人はいったい「誰」なのでしょうか?

日本企業のこの規模の M&Aは経営企画部門と社長など極く限られた少人数で進められることが殆どです。まあ「コンフィデンシャリティ」の問題があるのである意味当然ではあるでしょう。しかしここで問題は「経営企画部門」のスタッフはほぼ絶対、自分では買う会社に乗り込んでいくということをやらないことです。「自分は企画提案する人・社長は決める人・実際に行くのは別の人・・・そこに口出しするのは自分の職責ではない」・・・なんちゃってね(笑)まあ、ひとことで申せば経営企画部門なんて所詮は「責任は取らない」ワケです(笑)

で、実際に M&Aで一番大事な PMI(=Post Merger Integration)をやる・やらされることになるのは、事業部門の誰かだったりします。M&Aの長いプロセスの当初から行く人を決めておき、その過程にインボルブさせて「行ったらなにをやる!」ということを腑に落としていくならともかく、そういうやり方をする事例は寡聞にして聞きません。で、結局は事業部門から「誰か」を送り込むことになるのですが、ここでまた課題があります。

「役員」クラスが行かないのです!せいぜい部長クラスとか、下手をするとそれ以下・・・それもエクセルの使い手で、スパイのように本社に報告する管理データを作る程度の人材で、買った会社が持つ能力を最大限に活かしつつシナジーを発揮させるような影響力を行使できる人材を送る例はほぼ聞いたことがありません。

ブラザー工業は 2015年 3月に英国 DOMINO社を 1,890億円(当時のレート)で買収しました。以来、今日に至るまで「役員クラスを現地に送り込んだでしょうか」?日本本社に担当部署があり担当役員がいるなんてほぼ無意味です。キヤノンは 2009年 11月に 980億円(当時のレート)で Oceを買収しました。キヤノンが役員クラスを送り込むまでに何年かかったでしょうか?要は「役員がハラを括っていない」のです。そんなことで PMIがうまくいくと思われますか?

エプソンの場合は「Fiery社は本件以降、エプソングループ傘下に加わり、社名及び組織は現体制を維持します」・・・とプレス発表にあります。どういう意味でしょう?例によって役員を送り込まず(送り込めず?)遠隔操作でマネージするつもりなのでしょうか?それが可能と思っているのでしょうか?ありがちな Steering Committeeなんて設置して、結局責任は曖昧なままとか?

私がエプソンの株主ならば、する質問は簡単!「役員の誰が向こうに行ってマネージするのですか?その人に今回の買収の意味と、$591milの正当性と、あなたが起こそうとするシナジーを説明してもらいたい」「え、役員は誰もいかない?そんな腰の引けたことで PMIがうまくいくと思われますか?

PS:ちなみに・・・誰が行くにせよ「Linkedin」に登録してあり、そこそこちゃんとしたプロフィールが書いてあり、かなりの数の繋がりがないと馬鹿にされます。何故なら、彼らが相手を知るために最初にすることは「Linkedin」のプロフィールをチェックするからです。

これは、これから誰かが行く場合のみならず、日本にいる人についても同じこと・・・このような案件に関わる人と名刺交換したら「必ず」チェックしています。付け焼刃で登録してももう手遅れですけどね・・・何人くらい、誰と繋がっているのかを調べるのですから、一朝一夕に増えるものではありません。これまでの交渉過程で登場した人についても同じです!

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