中国:ITMA ASIA 2018 上海 (9月15~19日@国家会展中心)視察メモ (6/6)


視察メモ (5)からの続きです

【 纏めと若干の考察 】

巨大な会場の入り口

「シングルパス機を近々発表するよ」という発表

今回の ITMA ASIA 2018 視察して感じたことをいくつか列挙します。

1.新製品や画期的な新規技術の発表は少なかった(実質無かった)と見えます。これは来年 2019年 6月にバルセロナ ITMAを控え、そこに注力する為と推察されます。また、一般に中国の展示会で画期的な新製品や新技術がお披露目されることは少ないという傾向にもあります。

またデジタル分野に関しては、主要プレーヤーでも出展しないメーカーもあるので、必ずしも世界の全体像を反映している訳ではないことにも留意すべきでしょう。下のグラフでインクジェット機の「総出展台数」が 2016年の 74台から、2018年は 65台と減っていますが、これをしてインクジェットは退潮気味と判断しては誤りと言えます。また展示会の出展数が、現実の設置台数を正確に反映しているわけではないこともアタマに入れておく必要があるでしょう。

2.この展示会には主要産業としての繊維産業の川上(糸を紡ぎ、布を織り、染色・捺染をして反物を生産する工程)で使用される繊維機械が展示されます。大きな伸長を見せているとされる昇華転写によるプリントは、メインストリームの繊維産業では殆どやっていなかった=展示会を訪れるバイヤー達は昇華転写には関心の無い人が大多数ということで「昇華転写機の展示はさほど多くないだろう」と想像していましたが、実際には増加しています。

これも、昇華転写機はサイン系のプリンタメーカーが手掛けることが多く、サイン系の出展社が増加するとこういう現象は容易に起こり得ます。これが基幹産業としての繊維産業の捺染業にこういう勢いで浸透しているのかどうかは更に考察が必要です。おそらくそれ程ではないと想像しています。

インクジェット機の総展示台数は減ったが昇華転写機は増加

同じく比率も約半分まで到達

3.このところバズワードとしての「顔料」が聞こえてきます。世の中の既存捺染の半分は顔料捺染ですが、主要な用途はホームテキスタイルで、アパレルには実質的には使われてこなかった経緯があります。従って画質に五月蠅いアパレル業界に顔料が浸透するにはかなりのブレークスルーと意識革命が必要とされていました。

一方で、環境問題、特に中国に於いては国家施策で推進しているので、期待も含めて「これからは顔料だ」という声も聞こえてきます。環境に優しいとされる昇華転写も、所詮は転写紙の廃棄や、紙を作る段階でCO2を輩出するともいわれ、顔料有望の根拠とされたりしています。

今回の顔料インク搭載機は下記のリストのとおりです。DTPの KORNITと BROTHERを除いても 10社以上あり、これは私の事前想定を大きく上回っています。このうち中国メーカー群はサイン系や無名メーカー(少なくとも私の耳にはメジャープレーヤーとして聞こえてこない)が大半で、彼らが顔料インク機をローンチしても繊維産業にどのくらいのインパクトを与えられるのかは疑問です。

ただ、イタリアの MSが 2機種とも顔料インクを搭載していたことは少し注目に値するかと思います。

顔料プリンタのリスト。想定より多い感触

4.ヘッドメーカーの展示会シェア(全展示機に占める搭載ヘッドのシェア)では京セラの伸長が目立ちます。

京セラヘッド機の展示会シェアが伸長

全体で見ると京セラが他社のシェアを少しずつ食ってシェアを 13ポイント伸ばしたように見えます。がダイレクト機と昇華転写機に分解してみると、出展台数が倍増した昇華転写機で大きく稼いでいることが分かります。

従来はグレーマーケットに流れる EPSONヘッドで昇華転写機のエントリーモデルを開発する中国メーカーが多く、それがヘッド別に見た EPSONヘッドのシェアを押し上げていましたが、ここに来て京セラヘッド搭載機が増えたことは、台数の伸びと並んで「昇華転写の高速機が増加している」ことの反映と見ることができます

以上、簡単な感想です。

展示会視察で大事なことは、同じ展示会に複数年参加して、その差分を解析しトレンドを掴むことです。ITMA ASIAと上海 TEXは毎年交代で上海にて開催されますが、主催者が違うので出展社も微妙に違います。両方に出すのは勿体何ので一方に絞るメーカーもあります。また ITMAはメーカーしか出展を許可されないので、代理店が賑やかに出展する APPPEXPOなどの賑わいとは様相が異なります。

従って、同じ展示会を複数年、可能ならば同じ目で、更に言えば中国などは出張費は安いので「同じ人は軸として毎回固定しつつも、可能な限り大勢のスタッフを派遣する」のが効果的です。50人出張させて、10万円/人の費用としても総額で 500万円の話です。異分野に挑戦する際には、全体像を把握するまでは「群盲像を撫でる」的な状況が続きますが、折角なら「費用対効果」なんで言葉で出張費をケチるのではなく、出来るだけ多くの「群盲」で撫でた方がいいと考えます。

【予告】バルセロナ ITMA2019
さて、来年のバルセロナ ITMAではガイドツアーを企画する予定です。詳細はこれから詰めますが、下記のカレンダーで 6月 22日(土曜日)・23日(日曜日)をガイドツアー+24日(月曜日)開催予定の WTiNコンファレンスをセットにしようと考えています。詳細はまた追ってご案内します。

■ 以上

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