業界各社 2022年度 第2四半期決算発表状況(1):エプソン・キヤノン

各社の 2022年度(23年 3月期)第2四半期決算発表が始まりました。キヤノンやローランド DGなどは暦年決算なので、2022年度第3四半期決算の発表ということになります。例によって決算数値そのものよりも、この先をどう読んでいるか?それが四半期ごとにどう変わっていくのか?に重点を決算状況を見ていくことにします。

前回は予算策定時に読んでいた為替レートがロシアによるウクライナ侵攻以降、急激に円安に振れたことがどういう差を生んだのか?…これをテーマにしました。

今回は、ウクライナ戦争はきっかけであって、実態としての日本経済やそれに対する政治の無策や基本的な国力の低下が世界にバレて「円安は当面続く」…もう隠しようもないこれを前提として、各企業がこの先の見通しにどう反映させているか?これを見ていきます

セイコーエプソン

四半期ごとの売上高(左)・営業利益(右)推移です(単位は百万円)。今年度も順調な滑り出しで、第2四半期の売上高は 3,300億円を超えました。エプソンとして四半期売上高が 3,000億円を超えるのは初めてです。営業利益は約 280億円と第1四半期の数値を少し下回りはしましたが、同社のQ2の数値としては史上最高を記録しています。

まあ、こういう局面って不良在庫の廃棄とか、過去の遺産の処理をするチャンスなんですよね。なんでも利益を出して、株主や市場に褒めてもらおうなんてのはレベル低いです、こういう時こそ体質強化のために膿み出しをするのが正解です。そういうこともやって今後に備えたのではないでしょうか?・・・知らんけど(笑)まあ、自分が経営者ならそうしますね・・・

売上高と営業利益の年間見通しは、第1四半期に続いて、今回もまた少し上方修正しています。私も現役時代にやったのでわかるのですが、こういう数字は「小さくコミット・大きく超過達成」が基本です(笑)大風呂敷を広げて達成すればカッコいいですが、達成できないとボロカスに叩かれます・・・事業に絡んでいない管理部門なんかに(笑)

ま、エプソンの場合も市場に対して「控えめにコミット、四半期ごとに上方修正」・・・そういう作戦を一概に批判するものではないです、そもそも、余裕がなければこういうことって出来ませんからね!むしろ流石・・・と褒めるべきでしょう。しかし・・・

これまでは四半期で見てきましたが、ここで半期(6ヵ月)で見てみましょう。エプソンの(上方修正した)売上高年間見通しから、既に実績となった上期(Q1+Q2)を引き算すると、下期に必要な売上高が自動的に計算できます。そのグラフを、二つの側面から見てみると・・・いずれにしてもこの下期は記録的な売上高を達成できると読んでいることになります。

「小さくコミット、大きく達成」という体質と見受けられるエプソンにしては「おお!随分大きく出たね~!」と見えます。ま、これが輸出企業の円安効果なんでしょうね!「輸入品が円安で価格高騰する」という話が出ると、必ずセットで「輸出企業には有利に働く」という論がでますが・・・エプソンさん、一杯税金を納めて、それが庶民に回ってくるように頼みますよ(笑)・・・ところが・・・

大野は百人一首の「恋の歌」で好きなのが2つあります。ひとつは「逢いみての 後の心にくらぶれば 昔はものを 思はざりけり」・・・もうひとつは「忍ぶれど 色に出にけり 我が恋は ものや思ふと ひとの問うまで」・・・まあ何故、どんな局面でこの2首が好きになったのかはさておき(笑)・・・エプソンの業績見通しはこんな感じではないでしょうか?・・・「忍ぶれど 数字に出にけり 我が利益 何故に隠すと 大野問ふまで」(爆)

事業活動において「売上高」というのは基本的な実力ですから、あまり誤魔化しは利きません。一方、利益の方は「合法的な範囲で」操作が可能です。上述したように、世間や社内にコミットした以上の利益が出た場合には、不良資産の廃棄など利益を圧縮することも可能ですし、逆に今期で落とすべき費用を資産化して帳簿上の利益を膨らませることも可能です。

今回、エプソンは「素晴らしい売上高」を予測・コミットする一方で、営業利益に関してはそれに見合う数字を出していないように見えます・・・でしょ?次回、第3四半期の決算発表では、営業利益の大幅上方修正をすると大野は読みます。もしそうでなければ、将来に向けての費用をかなり乗せるのでしょう。まさか、秋田の新ヘッド工場の加速度償却なんてのはないと思いますが・・・

✙✙ 前回(第1四半期)のコメントはこちら
四半期ごとの売上高(左)・営業利益(右)推移です(単位は百万円)。今いうのは内容にはおもいますが・・・年度も順調な滑り出しで、第1四半期の売上高は 3,000億円にもう少しで届くレベル、営業利益も 310億円を超え、いずれも同社の史上最高を記録しています。

↓↓ 下のグラフはそれぞれ売上高と営業利益のここ3年間の実績と、2022年度の見通しです。2021年度の決算短信に 2022年度の業績見通しを公表し、その後四半期決算ごとにそれをアップデートするのがルールです。黄色の棒グラフが今年度ですが、売上高・営業利益とも上方修正されています(事業利益は据え置き)。エプソンはこのパターンが多い・・・余裕のなせる業か(笑)次回の上期決算発表でもまた上方修正しそうだな(笑)
(なお営業利益・事業利益の違いについてはこちらなどを参照ください。詳しいのはここです。事業利益は制度的に定められたものではないので定義はいくつかありますが、一般に企業としての収益をより明確に反映するとされています。ここでは過去からの継続性を重視して営業利益で統一します)

エプソンの第1四半期決算説明資料はこちらにありますが、下記に総括が書かれています。「価格対応」って・・・円安は外貨建てでは「価格が安くなる」効果があるので、その分外貨建ての価格を据え置く(円建てでは値上げ)をした=コストアップ分を価格転嫁したということでしょう。

前回は 121円/$、132円/€でしたが「直近のレートで見直して見通しに反映させた」ということです。事業利益は据え置き・・・為替の分が他の要因で相殺されて影響なしとのことの様です。まあ、ウクライナの戦争も長期化しそうだし、中国のゼロコロナ政策も続きそうだし・・・万事不透明な状況は続きそうなので、据え置いたのは妥当な判断に思えます。でも、多分また上方修正して株価を上げる作戦のような気がするな(笑)

キヤノン

↓↓ キヤノンの場合は暦年決算なので、第3四半期の発表ということになります。また、キヤノンの場合は、インクジェット製品のウェイトはエプソンよりかなり低いので、その業績をしてインクジェット産業の実態を反映しているわけではないことには注意が必要です。

(キヤノンに関しては追加続報します・暦年決算なので「もう、この期に及んでは隠しきれない利益」が出ています。次回はエプソンもこういう形になるんだろうと大野は読んでいるのです)

第3四半期の売上高・営業利益ともしっかりした実績を残しています。勿論、事業セグメント毎に深入りしていけば課題はあるものと思いますが、企業全体としての成績は調と見受けられます。

年間見通しも、ここでまた売上高・営業利益ともに上方修正しています・・・競合他社から嫉妬を買いますぜ、こういうの(笑)エプソンと同じく「小さくコミット、大きく達成」(笑)もう少し穏当に言えば「手堅くコミット、しっかり超過達成」ということでしょう。文句の付け所はありません!・・・まあ、だからこそ、なんか文句を付けてみたくなるというのもありますけどね(笑)

上述したエプソンは、Q1~Q4の4四半期のうち Q1とQ2を消化した段階ですが、キヤノンの場合は Q1~Q3と3四半期が実績となっているわけです。ここで公表した年間見通しから、Q1~Q3までの実績を引き算すると「第4四半期に必要な売上高・営業利益はいくらか?」というのが単純計算で求めることができます。逆に言えば、キヤノンは第4四半期にそういう売上高・営業利益を上げることができる!・・・と、読んでいるからそういう年間見通しが発表できるわけです。

「決算は締めてみないとわからない・未実現利益が云々・・・」なんてのは次元が低い話で、第3四半期の決算を発表するタイミングでは、残っているのは3か月・・・ではなく2か月くらいであり、生産や調達計画は既に立てられているので、ほぼ大外れしない決算推定が可能なハズです。

細かい話はさておき、キヤノンが第4四半期に想定している売上高は下のグラフのようになります。(年度別と四半期別の両方から見ています)。明らかにこれまでのを記録を更新し、四半期売上としては初めて1兆円をクリアする・・・どころか、1.2兆円ですからね!円安効果だけではなく、これまでの諸施策が花開いたのも大きいでしょう。とはいえ円安効果の享受が大きいのは見逃せないでしょうね。

同じ計算式「公表した年間見通しから、Q1~Q3までの実績を引き算」して営業利益をどう見通しているのかを二通りの視点から示したのが下のグラフです。エプソンは、まだ第2四半期なのでかなり控えめに年間営業利益を公表していたわけですが、キヤノンの場合は第3四半期が締まったわけで、この時点であまりコンサバな数字を公表し、決算を占めてみたら莫大な利益が出ました!・・・なんていうのが逆に「どんな管理をしとるんじゃい?」とネガティブにみられてしまいます。もう第3四半期時点では、かなり正直に公表しないとならないでしょう。

ということで、キヤノンは第4四半期の営業利益をどう読んでいるのか・・・が下のグラフです。上のグラフで「四半期の売上高が初めて1兆円を超えたばかりでなく、1.2兆円」というのを見ましたが、「四半期の営業利益でも初めて1千億円を超え、1.2千億円を超える」・・・ということを言っているのです。いや、凄い!

円安効果って・・・単純に日本から輸出するモノの値段の話だけではありません。連結決算対象の海外現法での売上高も、ドルやユーロでは横ばいだったとしても、今のレートで円換算すると、円がその国の通貨に対して下落した分だけ、大きな数字になる・・・これも含みます。ま、ということで、エプソンの第3四半期の決算発表も楽しみですねえ(笑)

なお、現段階では私自身が JITF2022の準備で多忙ということもあり、事業セグメントにはまだ踏み込めていません。キヤノンも富士フイルムと同じく(東芝メディカルを買収するなどして)業容のシフトを図っています。私の関心事である「インクジェットを(で)どうしようとしているのか?」などの分析は後日書き足していこうと思います。

✙✙ 前回(第2四半期)のコメントはこちら
四半期ごとの売上高(左)・営業利益(右)推移です(単位は百万円)。キヤノンは決算期が暦年なので、今回は 2022年度の第2四半期(上期)の発表ということになります。第1・第2四半期とも売上高・営業利益は過去最高を記録しており、年間最高記録更新に向かって順調な滑り出しと見受けられます

↓↓ キヤノンの場合は暦年決算なので、増収増益という年間見通しを立てたのは昨年末=ロシアのウクライナ侵攻など誰も想像していなかった時期です。その時期に立てた見通しでは増収増益となっています。

今回、上期を締めた時点は戦争は長期化しそうな様相を呈しており、それに起因する様々なネガティブ要因を織り込んで(エプソンの事業利益のように)据え置きとすることも可能だったと思われますが、公表された数字は、第1四半期に続いて「更に上方修正」という強気なものです。余程自信があるのでしょうね!

↓↓ 決算説明資料には下記のような説明があります。すべてのビジネスユニットで増収増益ですって!文句のつけようがありません。御手洗社長、益々の長期政権となりそうですね(笑)画像はクリックすると拡大します。

前回書きましたが、ロシアによるウクライナ侵攻に関連するスタンスは明確ではありません。エプソンが侵攻から2週間後に「自社の行動原則に照らしてロシア・ベラルーシとの取引を停止する」と明言したのに対し、キヤノンからはスタンスについて明確なメッセージはありません。

キヤノンメディカル、ロシアのヘルスケア大手と合弁」・「キヤノンメディカルシステムズ,R-Pharm社とロシア・CIS地域における機器販売・サービス保守事業の合弁事業開始に合意」というような報道や発表もあったわけで、これらについて会社としてどういうスタンスを取るのでしょうか?世界の優良企業が明確なスタンスを公表しているなかで、もはや堂々たる世界的な企業である同社も何らかのメッセージの発信はあってもいいように思います。

撤退を表明すべき・・・と言っているわけではありません。例えば独シーメンスは「多国籍コングロマリットであるシーメンスAGは、ウクライナへの侵攻が続いているため、産業用事業をロシアから撤退する計画を本日発表しましたが、別経営の医療技術部門であるシーメンス・ヘルスイニアーズはロシアに残り、ヘルスケア製品やサービスの提供を継続する予定です。」と、ヘルスケアはロシアで事業継続と公表しています。何も言わないのと、明確に意思表示をするのとの違い・・・これを理解して初めて「日本企業」を抜け出して「世界企業」になれるように思います。

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