- 2018-6-24
- イベント参加報告
画像学会の企画委員長で、山形大学産学連携教授の酒井様から下記のご案内を頂き、メーリングリストとウェブでの広報もお手伝いした関係で、現場を覗いてきました。
6/21(木) 14:00-16:00 千葉大学 けやき会館2F 会議室2
インクジェット技術において,インクジェットヘッドは微小な液滴を精密に噴射する基幹要素です.本企画では, セイコーエプソン、富士フイルム、リコー、コニカミノルタ、ブラザー工業、SIIプリンテック、東芝テック、京セラ、Memjet、HPの各社ヘッドを一堂に集めて展示をします。 そして,それらのヘッドの特徴,用途,市場での狙いなどの説明を受けられます.現在,多様化するインクジェットの応用は,より高品位な画像をより高速にプリントするためのインクジェットヘッドに支えられています.実際にインクジェットヘッドを間近に見て,将来・未来のインクジェットがどこに向かい,インクジェットヘッドはどのように進化していくのか,考え,理解し,議論する,またとない機会です。
展示室の手前入り口から時計回りに見ていきます。スペック詳細はヘッドの後ろの表をブラウザの拡大機能を使うか画像をダウンロードして確認下さい。社名は通称を使わせて頂きます。
京セラはKJ4シリーズ600dpi、360dpi 及び1200dpi ヘッドを展示。全て循環構造とのこと。2656ノズル600dpiヘッドは、ミヤコシのワンパス連帳機に採用され、それがOceへのOEMでヒットして、ワンパス向けとして設計した意図通りの市場地位を確立したわけですが、それが更にイタリアのMSとREGGIANIがインクジェット捺染プリンタのスキャン機に採用し、スキャンタイプのテキスタイルプリンタ市場でも不動の地位を確立しました。ワンパステキスタイル機のLaRioにも採用されています。
1568ノズル360dpiヘッドはスキャン機を(も?)想定したと考えられ、インクが2チャネル(2色)あり、かつオフセット構造ではないので1色にして720dpiとして使うことはできないとのこと。ということは784ノズル360dpiヘッドをワンセットにしたようなもので、ヘッド価格を維持しながらスキャン機に採用を期待する(ヘッド2個で4色)意図かと考えられます。また最大液滴が84plで360ノズルでありインク循環も可能とのことでセラミックなどの市場も狙っていると考えられます。
5116ノズル1200dpiヘッドは、富士DIMATIXのSAMBAあたりを意識した高精細小液滴ヘッドと考えられます。特徴的なのは駆動基板からの発熱対策として冷却水を循環させる流路が内蔵されていることです。フルデューティで撃てばかなり発熱するということでしょうか?
また、ちょっと気になったのは展示ヘッドのノズルが3種とも金属プレートでネジ止めされ、ノズルプレートが見えないようになっていたことです。展示品として見せつつ、ノズルプレートを保護するならアクリル板でもよかったように思います。なにか見られたくない事情があるのでしょうか?(笑)
コニカミノルタは、商業印刷市場向けのKM-1に搭載したモジュールと、買収を発表したパナソニックヘッドを展示。パナヘッドだけは何故かケースに入れられており、買収の意図や、既存ヘッドとの棲み分け、今後は品種を統合していくのか?というような問いには「お答えできません」とのこと。
エプソンは薄膜ピエゾのプレシジョンコアを数種類と、中国でDX5という通称で大量に流通している従来ヘッドなどを展示。先般の上海展示会で中国メーカーが大々的に宣伝した、小型機からカニバライズされたヘッドは右の写真の、ノズルプレートが4列あるタイプです。ああいう動きに対するエプソンとしてのスタンスは話を聞く機会がありませんでした。
東芝テックはインク循環構造をXAARのライセンシーとしては最初に採用した1278ノズル600dpiヘッドを展示。セイコープリンテックとは対照的に非常にコンパクトで、300npiのノズルがオフセットされ600dpiと高精細を実現した、東芝テックらしいヘッド。理想科学のワンパス機オルフィスに(このヘッドのバリエーションが)大量に採用されていると想像されます。
富士フイルムは傘下のDIMATIXヘッド2種を展示。一つは1024ノズル400dpiのSG1024(通称Star Fire)、もう一つは2048ノズル1200dpiのSAMBA GL3(通称SAMBA)のモジュール。ノズル解像度は筋が書いてはありますが、何故か「非公開」とも書いてあります。必須の情報と思われますが「非公開」とする意味はなんでしょうか?
SG1024は多方面で人気のあるヘッドで、最近ではセラミックプリンタ業界にも採用が増加中、DIMATIXの稼ぎ頭となっているものと想像されます。海外では「ノズルプレートを外して洗浄したり交換したりできる」ことを謳っていますが、ここでの説明員の人はあまり積極的には対応していないというような感触を滲ませていました。まともに受けるとコストや品質保証など面倒な問題がでて来るんでしょうね。どうしてもというお客には、手順を教えて自己責任でやってもらっているようです。
ただ、たまたまそこに居た潜在ユーザーは、かなり特殊な液体を撃ちたいようで、自己責任でもノズル交換が可能という点に魅力を感じていた様子です。かつてトライデントヘッドというのが分解洗浄可能として、特殊な用途に使われていました(今も?)が、なにかそういう特徴のあるヘッドを開発し、ニッチでも不動の地位を確立するという発想が有ってもいいように思います。
SAMBAヘッドの、富士フイルムのJetPress720シリーズ以外の外販事業での成果を訊いてみましたが、あまり明快な答えは頂けませんでした。まあ、DIMATIXの市場の大半は日本以外の海外なので、実際には水面下で進行中で、DRUPA2020に外販顧客としてのプリンタがなんらか出てくるものと期待したいところです。そもそもJetPress720専用で、外販はまかりならない・・・というところから、外販が出来るように持ち込んだDIMATIXとしては、頑張る意味はあるでしょう。
あ、プリンタを開発する・事業化するお立場の皆さん!2020年のDRUPAとInterpackに何か出すおつもりなら、ボチボチ形が見えている必要があるタイミングですよ!目先はIGASでご多忙かもしれませんが、DRUPAのスペースの申し込みは会期の18か月前、今年の冬です。あっという間に来ちゃいますよ(笑)
ブラザーは自社製品に使用するヘッドを展示。これはスキャンタイプのプリンタ向けで、一時、製品に投入されたワンパスのヘッドの展示はありません。同社は、かつてヘッドを京セラと共同開発した経緯があり、そのヘッドの外販にトライしたこともあるようで、最近もヘッドの外販を指向する兆候はありましたが、あまり情報はありません。またドミノの買収効果は株主総会でも質問されるとのことで、いろいろと施策を練っているとのことです。
リコーは3種のヘッドを展示。何故か、「サンプルに触るのは自由ですが、写真はご遠慮下さい」とのことでカタログを撮影しました。何故?と訊きましたが「営業からの指示」とのことで意図は不明です。カタログは配布しており、現物も見たり触ったりし放題なので、何故写真だけが不可なんでしょうか?
とはいえ、リコーのGen5と呼ばれるヘッド(MH5421F)は、いくつかの改良を加えつつ、積極的な販売政策も奏功して、特に中国ではかなりの人気ヘッドとなっています。MF5220は小液滴版で、UVインク専用、ラベル市場を意識したヘッド。またGelJetのヘッドも外販用に供給されています。これについてはプリンタでの採用実績の情報を訊きそびれました。中国でのエプソンヘッドの代替案として提案しているものかと推測しますが、今のとこるエプソンヘッドの牙城を脅かすような状況にはなってはいないようです。ただエプソンは意図してそういう牙城を築いたのかどうか(誰かが勝手にやっちゃったのか)は不明ですが・・・
MEMJETとHPのワンパスヘッドも展示されていました。それぞれのメーカーから説明員が出ていたわけではなく、キヤノンの中島さんが(サーマル陣営を代表して?(笑))非常に分かり易い解説をされていました。
ピエゾヘッドとは異なる技術で、使用用途も必ずしも同じではないため、同列の比較はできませんが、例えばMEMJETヘッドは、この写真のモジュールで、パーツとしての入手価格は10,000円/本レベルという中島さんのお話でした。まあ、最低購入数量とか、インクをどうするとかの条件はあるんでしょうから、誰でもその価格ではないとは思いますが。
HPのヘッドも、写真に写っている千鳥配列された個々のヘッドは家庭用プリンタに膨大な数量が生産されており、かつこの単位で既に4色のインクがプリント可能であり、ラインヘッドが極めて安価にコンパクトに構成可能です。
業界各社のヘッドを同時に見ることができ、またそのメーカーの技術者から説明が聞けるというのは、滅多にあることではなく、なかなか素晴らしい企画だったと思います。一方で、顧客ならともかく、殆どが競合メーカーの技術者という状況下で、どこまで何を喋っていいのかについては戸惑っている出展者もあったように思います。とはいえ、基本はカタログスペックや、共通の顧客(候補)などから入ってくる情報の範囲で、お互い決定的な企業秘密を開示するわけではないのですから、来年以降も継続し、業界全体が盛り上がればいいなと思う次第です。