XAAR:業績不振・経営陣の流出・迫り来る人員削減により株価が急降下

ラベルエキスポの会場を歩いているとき、ニュースが飛び込んできました。まあ予想はしていた話なのでさほど驚きはしなかったのですが・・・先般、XAARが上半期の決算発表を延期した件を報告しましたが、その延期した決算内容が公開され、株価が急落しました。また薄膜ピエゾヘッド(5601)からは撤退、CEOの Doug Edwardsは退任し、後任には元 INCAの John Millsが就任するとのことです。

下記は BUSINESS WEEKLYからの引用です。

Xaarは、業績不振、経営陣の流出、迫り来る人員削減により株価が急降下
Xaar shares nosedive on poor results, management exodus and looming job cuts

ケンブリッジのインクジェットテクノロジービジネスである Xaar plcの英国株価は、業績不振、痛みを伴う再編のニュース、CEOダグエドワードが倒産した企業(Kodak)の幹部の一員だったという知らせを受けて、40%以上下落しました。
The UK share price of Cambridge inkjet technology business Xaar plc dropped more than 40 per cent after a poor set of results, news of a painful restructuring and notification that CEO Doug Edward was one of several executives standing down.

また、プリントヘッドのビジネスを精査するという関連する決定により、まだ特定されていない失業が発生する可能性があります。
There are also likely to be as yet unspecified job losses from a related decision to review the Printhead business.

上半期の売上高は、前年同期比 1,280万ポンド減の 2,250万ポンド(17億円減少して 30億円になった)、総損失は 2,170万ポンド減の 260万ポンド(総利益が29億円減って 3.5億円の赤字に)でした。工場生産高の減少と不利な製品ミックスが下落の中の 390万ポンド(5.2億円)を占めました。最終損失は 7.6百万ポンド(10億円)でした。
First half revenue was down £12.8 million to £22.5m year-on-year, gross loss was £21.7m lower to £2.6m; reduced factory output and an unfavourable product mix accounted for £3.9m of the fall. The underlying loss was £7.6m.

Xaarのすべての Thin Film活動を停止する(薄膜ピエゾヘッドの開発・生産・販売を止める)決定の結果、39百万ポンド(52億円)の減損費用が発生しました。
Impairment charges of £39m have been taken as a result of a decision to cease all Xaar’s Thin Film activities.

エドワーズは 2019年末に退職し、米国で家族と再会し、新たな機会を追求します。彼の後任は現在のプリントヘッドユニットチーフのジョン・ミルズ(元 INCAの CEO)です。エドワーズは、2020年 3月末まで Xaarに残り、秩序ある継承を確保します。
Edwards will leave at the end of 2019 to rejoin his family in the United States and pursue fresh opportunities; he will be replaced by current printhead unit chief John Mills. Edwards will remain available to Xaar until the end of March 2020 to ensure an orderly succession.

Xaar議長のロビン・ウィリアムズ、CFOショーミット・ケンカレ、非常勤取締役のマーガレット・ライス・ジョーンズも退職の意向を発表しました。
Xaar chair Robin Williams, CFO Shomit Kenkare and non-executive director Margaret Rice-Jones also announced their intentions to leave.

Thin Film事業を閉鎖する決定は、戦略的レビューに従います。 Xaarは、従業員との協議を条件に、プリントヘッド事業のさらなる再編を発表しました。これにより、年間 800万ポンド(10.6億円)の節約が見込まれますが、必然的に人員削減につながります。
The decision to shut the Thin Film business follows a strategic review. Xaar has now unveiled further restructuring of the Printhead business, subject to employee consultation, which is expected to deliver £8m of annualised savings but will inevitably lead to job cuts – number to be confirmed.

エドワーズは、次のように述べています。「Xaar 3Dへの投資の増加は、成長のためにそれをうまく位置づけ、株主価値を高めます。製品印刷システムは、良好な成長と強力な販売パイプラインを示しています。」
Edwards said: “The increased investment in Xaar 3D positions it well for growth and unlocks value for shareholders. Product Print Systems is showing good growth and a strong sales pipeline.

「プリントヘッド事業における薄膜のすべての活動を中止する決定を下したことはかなり不本意ですが、戦略的な投資パートナーがいなければ、継続することは不可能です。」
“It is with considerable reluctance that we have taken the decision to cease all Thin Film activities in the Printhead business, but without a strategic investment partner it becomes, by ourselves, unaffordable to continue.

「この決定と関連するリストラは、痛みを伴うものの、来年の会社の収益性と営業キャッシュフローの大幅な改善につながります。」
“This decision and the associated restructuring, although painful, will result in a substantial improvement in profitability and operating cashflow for the company in the coming year.”

市場は、Xaarのビジネス構造が度々変わることや、結果として生じる無駄にうんざりしていました。
The market has frankly grown tired of Xaar’s regular changes in business structure and resultant redundancies.

2018年 6月末に報告したように、Xaarは、利益目標を達成するためのコスト削減運動の一環として、不特定多数の人員削減を行いました。その後、その後、セラミックス事業の収益が減少し、多様化戦略が不透明になりました。2014年 10月に、Xaarは中国での問題(従業員の不満・離反)の後、従業員の 5分の1(約160人の雇用)を削減しました。
As we reported at the end of June 2018, Xaar made a number of unspecified job cuts as part of a cost-slashing exercise in a bid to meet profit targets. That followed a fall in revenues in the Cambridge Science Park company’s ceramics business and poor visibility regarding a diversification strategy. Back in October 2014, Xaar cut a fifth of the workforce – around 160 jobs – after problems in China.

■ 大野註
株価急落とは言っても、市場は既に織り込み済みで、40%の下落というのもかなり低いレベルでの話です。

関心は「今後どうなるのか?」ということですが、こういう状況に陥った企業体を日本企業が買うリスクを冒すかな・・・まあ妥当に考えればヘッドの国産化を目標にしている中国がなんらかの手を打ってくるのではないかと個人的には想像します。

薄膜ピエゾヘッドは、何年か前にいくつかの有力ヘッドメーカーが商品化を発表した際に、趨勢に乗り遅れないようにと無理やり参入を発表したもので、そもそも勝ち目があるようには思えませんでした。前回 DRUPAで XAARがリコーとの提携を発表した際に、リコーからは発表が無かったことからしても、XAARにとっての株価対策・株主対策というのが透けて見えました。

旧来タイプに絞れば生き残る道はあるのか?

かつて独占市場状態だった中国を、128ノズルから 500ノズルレベルへの多ノズル化でコニカミノルタとセイコーに奪われ、ほぼ完全に締め出された形になり、その後循環構造ヘッドで南欧のセラミックプリンター市場を創出して復活を遂げるも、これもセイコーや富士DIMATIXに奪われました。

ここ数年は「2019年上半期に前年同期の3,530万ポンドから36%減の2,250万ポンドの売上高を報告しましたが、2019年の430万ポンドの薄膜フィルムXaar 1201の収益反転に合わせて調整すると、 2018年のセイコーインスツルメンツからの970万ポンドの1回限りのロイヤルティ支払いにより、収益は130万ポンド増加しました。総損失は260万ポンドで、2018年上半期の19.1百万ポンドの利益から21.7百万ポンドの減少となった。同社は、この数字は2018年の業績を押し上げたセイコーインスツルメントの支払いによるところが大きいと述べた。」(PRINTWEEKからの引用)とあるように、ライセンス料の先食いなどで形づくりをしてきたわけです。

旧来技術製品をブラッシュアップして生き残る道も、セイコーや富士DIMATIXに既に勝てなくなっているものをどう立て直せるのか?少なくとも私には思いつきません。そんな企業体を中国が買うか?

ここ数年(十年くらいか?)中国もいくつかのメーカーがヘッド開発に着手しています。政府の資金援助もあるようです。私自身も「中国でヘッドが作れるようにしてくれればカネに糸目は付けない」とさる筋から持ち掛けられたこともあります。私はこういうことには一切手を貸していませんが、既に何人かの日本人技術者は中国に渡っているようです。(余談ですが、日本企業は停年制や、低コストでの再雇用で、こういう優秀な技術屋さんの流出をどうするんですかね?)

薄膜ピエゾに絡んでいる技術屋さんにありがちな勘違いですが、別に薄膜ピエゾがエライわけではないのです。薄膜ピエゾで実現できるヘッドのスペックが旧来技術のより高いからエライわけでもないのです。超高精細小液滴はインクジェット市場の一部にしかすぎません。例えば XAARからセラミック市場を奪った、セイコーの大液滴が撃てる循環構造ヘッドなどに薄膜ピエゾを採用する意味は無いでしょう。

そういう意味では中国は巨大な内国市場規模があり、そこに入っている日本製の「超高精細小液滴」以外のシェアを奪えるなら、古くなったとは言え、逆に「こなれた」 XAAR技術を獲得する意味は十分にあると思われます。

その際に、既に製造設備もある企業体ごと買って中国に持っていくのか、その際は設備だけでなく「人の身についた経験値」も一緒に持っていかないと意味がないので、そこをどう縛るのか?あるいは最初からチェリーピッキングで、優秀な技術屋さんだけ引き抜いていくのか?

PRINTWEEKによれば、最高経営責任者のダグ・エドワーズは次のように語っています。

「外部アドバイザーがおり、30社以上の企業と話をして、いくつかのデューデリジェンスを行いました。

従業員との対話は継続していますが、明らかにこの発表により、明確な期限が設定されます。今日から始まって45日かかる相談プロセスがあり、多くの主要な人々が45日の終わりに退職するでしょう。

「たとえば、Xaarが最初にバルクテクノロジーで行ったものと同様のテクノロジーのライセンスを取得する機会があります。そのようなことは継続できますが、開発する人がいなければ開発はできません。」

―――
私が中国企業のオーナーなら「どうせ借り物の薄膜ピエゾ技術は要らない。それより、短期間で既存技術のヘッドを中国で作れるようにするためのパッケージディールを提案してくれ」と言うと思います。

何となくですが・・・英国人技術者と日本人技術者が英語で会話しながら蘭州拉麺を啜っている様子が目に浮かぶんです(笑)

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