第3回 デジタルテキスタイル研究部会講演会「デジタルとファッションのものづくり」

3月19日に文化服装大学の講堂にて開催された、ファッションビジネス学会 デジタルテキスタイル研究部会講演会「デジタルとファッションのものづくり」の参加メモです。100人を超える参加者を集め盛況で、また講演内容やネットワーキングパーティを含め大変充実した講演会でした。

趣旨は「本研究部会は,デジタルテキスタイルを軸に,ファッション産業の新たな飛躍を目指して,情報提供や意見交流を行うことを目的に,2017年4月に発足しました。第3回講演会では,デジタルによるファッションのものづくりをテーマに,各最前線で活躍する方々をお招きして,ご講演いただきます。」ということで、講演は下記のお三方による3テーマです。

◇プログラム
13:30-14:30 『つながる社会のつながるファッション(Fashion as a Service)』
文化学園大学 服装デザイン学研究室 教授  河本 和郎
14:40-15:40 『インクジェットで広がるアパレルビジネスの新しい可能性』
株式会社リコー 執行役員 CIP開発本部 本部長,CIP事業本部 副本部長  森田哲也
15:50-16:50 『デジタルを生かしたものづくりの実践について
株式会社マークス ジェネラルマネージャー  樋上 和則

文化学園大学服装デザイン学研究室河本和郎教授による『つながる社会のつながるファッション(Fashion as a Service)』。ファッションビジネスを含んで、全てのビジネスが「サービス」の部分を切り出して繋がり始めている現状と、そのインフラの動向について事例豊富に解説されました。


株式会社リコー執行役員 CIP開発本部本部長,CIP事業本部副本部長の森田哲也氏による 『インクジェットで広がるアパレルビジネスの新しい可能性』。先日、上海はで Gen6ヘッドの発表をしていた森田さんが、今度はリコーの産業用プリンティング全般への取り組み状況と、Colorreelや Anajetなどのテキスタイル関係ビジネスへの取り組み、更にはシステム全体を繋いで一気通貫でソリューションを提供する DTMF(Digital Textile Micro factory)の構想などをプレゼン、八面六臂です。因みに森田さんのバックグラウンドはハードウェア系ではなく、「ソリューション・ソフト・システム系」の技術屋さんです。

まずは埼玉大学の長谷川教授からは「大変感動的なプレゼンだった!」と絶賛のコメント。また、会場からの「今は DTG(Tシャツ)プリンタしか発表していないが、所謂ロールのファブリックにも展開するという構想なのか?」という質問には「既にワイドフォーマット機を持っているので、それも構想に入っている」とのこと。

もう一つ「メーカーがソリューションシステムを提供する際には、自社のハードウェアを囲い込むことを目的とすることが多いが、その一気通貫のシステムに、例えばブラザーやエプソンの DTGプリンタも繋がりますよ・・・という方向を指向するのか?」という質問。これには「リコーはヘッドもインクも含め全ての要素技術を有しているので、お客様にとってコスト面でも品質面でも最適なものを提供できると考えている」と、暗に囲い込み指向を示唆。まあ、そこらへんは決まったわけではなく、これから検討という感触を持ちました。


株式会社マークス ジェネラルマネージャー樋上和則氏による『デジタルを生かしたものづくりの実践について』

これも大変興味深いプレゼンでした。スポーツなどのユニフォーム(チームウェア)のパーソナライズ・・・すなわち同じデザインのユニフォームに背番号や名前を入れることで個人に紐づけするのは、かつては刺繍やアップリケの縫い付けで対応していましたが、今は昇華転写で、ユニフォームをプリントする段階でそれをやってしまう流れができています。

その際、全くの白紙からデザインを出来る人は限られているので、先に数多くのテンプレートを用意しておき、それを画面上で弄ってもらうことで、ハートにピッタリくるデザインを実現してもらうという考え方。アバターに着せて出来栄えを確認してもらうのはもちろん、アルファベットのヒゲにまつわる微妙なノウハウにも言及、結構奥が深いです。

また、同じ考え方で Tシャツのデザインテンプレートにも展開しているとのこと。更には、学校のイベント Tシャツの発注が多いので、先回りして「全国の中学校・高校の校章を既にトレースしてデータベースとして用意した。あとは大学のが進行中」とのこと。これは実際の使用時には、意匠権を持つ学校の確認・承諾を得て使うもので、当該の学校からの発注で校内での合意をとってから使ってもらうとのこと。

まあ、このあたりは遠目で見れば私の名刺を発注している Vista Printなんかも同じですね。ゼロから名刺をデザインするなんていう絵心の無い私のような顧客向けに大量のテンプレートが用意されており、それをカスタマイズしてつかうというものです。

「そのテンプレートのコンテンツは、リコーの DTG(Tシャツ)プリンタにも適価で開放して頂けますか?」と森田さんが質問。「基本は自社に Tシャツを発注してくれる顧客向けに用意したものだが、画面上でデザインだけを Tシャツの発注無しでも適価でダウンロード可能にすることは考えている」とのこと。これこれ、森田さん、自社のシステムは囲い込み目的だが、他社のコンテンツは利用したい?・・・ま、お気持ちは分かりますが(笑)

大野の質問は「今はチームウェアや Tシャツという範疇だが、一般アパレルへの展開は考えないのか?」これに対して「かなりノウハウが溜まってきたので、そろそろこれまでの枠組みをはみ出してみようと、いろいろ検討中」とのこと。期待したいところです。

最後に、おっと目を引くプレゼンがありました。

これは KIP(桂川電機)の電子写真方式の昇華転写用紙向けプリンターですが、インクジェットを追いかけている私にとってはいわば盲点で、ちょっと虚を突かれた想いです。確かにスキャンタイプインクジェット機よりは線速度が早く、熱転写ヒートローラーを増設することで、一日の生産性はかなり高まることが容易に理解できます。画質も、マークス社のような老舗・大手が採用したということは心配ないことは確認済みでしょう。DTMFの推進に寄与すると思われる新しい提案を見た思いです。

いやあ、なかなか内容の充実した講演会でありました。

100人を超える盛況

コンファレンスや講演会には、やはりこれが無いとね(笑)ネットワーキングパーティです。文化学園の校舎最上階のイベントスペースで、素晴らしい風景を眺めながら、いろいろな出会いと会話、情報交換が行えました。事務局さん、ご苦労様!

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