エプソンのノズル検証技術

2026年3月5日

Epson Marly研究所 Manager of R&D 志村敦 氏・セイコーエプソン株式会社 IJS事業部 IJS開発部 岡本麻美 氏

エプソンはスイスで開催された先進インクジェット技術会議でのプレゼンテーションにおいて、インクジェットプリントヘッド内のノズル詰まりが問題化する前にその可能性をフィードバックできる「ノズル検証技術」を発表した。

ノズル検知技術関連の特許を複数保有するセイコーエプソン インクジェット研究開発部門の岡本麻美氏は次のように指摘した:「ノズルが突然噴射を停止し、白線(白じみ)を生じさせることで生産停止につながる可能性があるため、この問題への対応は非常に重要だ」

読者の皆様は、私が今年初めにメテオ・インクジェット社の類似技術について既に報じたことを覚えているかもしれない。しかしエプソンヨーロッパの IJSプリントヘッド事業部長である五十嵐寛氏は、エプソンがこの手法を 10年以上前から検討してきたと明かし、「プリンターサプライヤーとして、競合他社には提供できないシステム全体の ROI向上につながる付加価値を製品に提供したい」と付け加えた。

全てのピエゾプリントヘッドは、圧電アクチュエータに電圧パルスを印加することで動作する。これによりアクチュエータが移動し、まず所定のノズルからインクや流体を押し出し、その後始点位置に戻る。この動きは電子信号または波形によって極めて精密に制御される。

岡本氏は、ノズル検証技術がこの原理を基盤としていると説明した: 「当社はピエゾアクチュエータをインク噴射だけでなくセンサーとしても活用しています。この信号を分析することでノズルの状態を判定可能です。噴射と検知の両方にアクチュエータが使用できるため、追加コストは不要です」

このシステムは、アクチュエータ動作による残留振動を通じてインクキャビティ内の圧力変化を検知し、プリントヘッドに組み込まれた集積回路で圧力変動を電気信号に変換する仕組みだ。

ただし、ノズルが実際に印刷中はこの方式は機能しない。しかし、ほとんどのプリントヘッドが毎秒数千の液滴を噴射することを考慮すると、印刷に使用されていないノズルにテスト信号を通すことは比較的容易である。岡本氏は次のように付け加えた:「ヘッドメーカーとして、高い診断精度を実現するためのタイミング制御を最適化できます」 テスト信号自体はわずか数分の1秒で完了する。五十嵐氏によれば、D3000のようなヘッドでは 3000個のノズル全てを1秒以内に検査可能だという。

岡本氏は、このシステムが印刷装置の日常運転に加え、噴射用インクや液体の開発にも活用できると説明する。通常、インク開発者はレオメーターを用いてインクを試験する。しかし岡本氏が指摘するように、実際のプリントヘッドでは状況が異なる。インク温度、乾燥速度(表面積が異なるため)、圧力変動(噴射時の負圧変化)など、レオメーターでは再現できない変数が存在するからだ。通常、プリントヘッドではレオメーターレベルの粘度測定は不可能だが、彼女はこう述べる: 「NVT(非粘性振動)法を用いれば、残留振動から粘度を測定できる」

エプソンはこの手法をレオメーターと比較検証し、結果が極めて近似していることを確認した。この NVT法の利点は、噴射性能と流体の動粘度を同時にテストできる点にある。これにより流体最適化に必要な時間を短縮し、市場投入までの時間を短縮できるはずだ。

岡本氏はさらに、顧客が 20個のエプソン D3000プリントヘッドで銅系インクを噴射しプリント基板を製造する印刷装置を開発した事例を紹介。エプソンが銅系インクで NVTを適用したのはこれが初めてだと指摘し、「このインク向けにアルゴリズムを最適化した」と補足した。

一部顧客は光学検査の代替として NVTの活用を希望しており、エプソンは現在検討中だ。岡本によれば、NVTアプローチはこの点で 99.5%の精度を達成可能だという。プリントヘッドへの追加コストは発生せず、プリンター全体のコスト削減につながる見込みである。

OEM顧客支援のため、エプソンは NVT技術を組み込んだテスト装置「KSCAN D3000」を開発した。これにより顧客は、自社の使用液・媒体・環境条件におけるプリントヘッド性能を容易に検証できる。

駆動電子回路

エプソンは当初、この技術を家庭用・オフィス用プリンター向けに開発した。岡本氏は説明する:「産業分野へ展開するため、まずエプソン純正基板を開発しました。診断機能を基板自体に組み込んだのです」。これはアクチュエーターが噴射と検知の両方に使用されるものの、NVTパルスの制御や結果の解釈、信号の増幅と噴射用信号からの分離が依然必要だったためである。

岡本氏によれば、エプソンは現在、自社電子基板からこの機能を分離し、OEMプリントヘッド顧客に NVT機能を提供する方法を模索中だ。五十嵐氏は「最初の NVTはエプソンの駆動電子回路のみを使用する。しかし今年からパートナー企業と共同で、サードパーティ製基板への組み込みを開始したい」と語る。ただしこれはメテオ・インクジェット社とは別案件であり、両社は協議中だが互いの動向を把握している状態だ。

五十嵐氏は、エプソンがこの技術の認知度向上を図りフィードバックを収集中だと説明する:「既に一部顧客に NVTを導入し、この技術が創出できる価値の検証を開始した。今年はより多くの顧客に紹介したい」

現時点では、ノズル検証技術は D3000プリントヘッドに組み込まれており、エプソンはSシリーズプリントヘッドの一部バリエーション、特に S3200-S1、S800-S1、i3200-S1HDなど強力な溶剤向けに設計された SIバリエーションへの追加を検討している。これらは印刷エレクトロニクス用途に使用されており、五十嵐氏は次のように指摘している:「このインクは非常に高価なため、一部のお客様はこの用途にNVTを求めています」

NVTシステムは、以前こちらで取り上げたエプソンのロボット式ダイレクト・トゥ・シェイププリンターや、SurePress L5034ラベルプレス(こちらで解説済み)にも採用されている。

AITカンファレンスを主催した iPrint研究所も独自のノズル検証システムを開発中であり、これについては別の記事で改めて取り上げる。エプソンはスイス・マーリーにある iPrint研究所内にオフィスを構えており、開発中の機械性能評価にマーリー研究所の NVTを活用する。これによりテストワークフローの迅速化が図られる。

エプソンは NVTアプローチ、特にインク粘度測定能力の強化と幅広いインク対応の実現に向け開発を継続する。またグレースケール NVTの試験も実施し、故障発生前のノズル詰まりを予測的に検知する技術を追求中だ。

今月後半に AITカンファレンスの詳細を続報でお伝えします。それまでの間、エプソンのPrecisionCoreプリントヘッドに関する詳細は corporate.epsonでご覧いただけます。corporate.epson原文はこちら

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