業界各社 2023年度 第3四半期決算発表状況(3):エプソン

今回は 4月 26日(金)に発表のあったエプソンを採り上げます。

エプソン

え?なんだ、これは?この円安環境下で減収減益ですか?しかも 2024年度の見通しは 2022年度の実績にも届いていない?EPSONに何が起こっているのでしょう?

私の印象では、エプソンはこういう数字の開示方針は割と正直な方だと思っています。キヤノンは「社員へのモチベーション鼓舞?」の意味もあってか、流石にこんな数字は無理だろうというのが客観的に明らかな段階でも「下方修正しない=社員に対して目標を下げない」というやり方が目立ち、それが逆に株主をバカにしてるんじゃないの?と思って証券取引所幹部に「こういうのってどうなの?」私から聞いたりしています。それと比べるとエプソンはストレートに数字を出してくるという印象です。

ただ一方で「開示内容が貧弱になった」という疑いもあります。具体的には、これまであった「中国市場のコンポーネント売上」が今回開示されていません。何故なのでしょうか?私は前回【ヘッド外販の分析】という記事を書きましたが、まさかそれでヤバいと思って開示しなくなったのでしょうか?(笑)

↑↑ これなんか典型ですね。かつてはヘッドの売上高を中国と中国以外の金額まで開示していました。そのうち、金額の数字を消しました。今回は「中国向け」を消しました。こういう開示内容の後退は極めて残念です!中国が不振なんですか?ちゃんと元に戻して中国とそれ以外に分けて金額も明示してもらいたいものです。姑息な隠蔽はエプソンらしくないですね!

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ん?どうしたかな?また年間業績予想を前回から修正していますね?先に、四半期ごとの年間予想の推移を見てみましょう。

グラフはクリックすると拡大しますが、中央の「2022実」とあるところで黄色の棒が 2022年度実績・淡青の棒がその時(2022年度決算発表時)に公表した 2023年度予想です。これを見ると、微妙に「増収減益」の予想を公表しており、この時点で既に 2023年度は甘くは無いぞ!と楽観視はしていなかったものと推察されます。

その後、年間売上高予想は四半期を追うごとに微妙に上方・下方修正をしていますが、営業利益に関しては一度微妙に上方修正した後は、Q2・Q3と大幅に下方修正していることが分かります。

同社の場合はキヤノンのように、Q3というタイミングにもなって「2008年以来の 4,000億円台を目指す」と社内向けの決意表明のようなことを言って、結果は未達となる・・・というようなことをせず、バッドニュース・ファーストで、大幅な下方修正でも早めにちゃんと開示する姿勢は評価したいと思います。

Q3の実績グラフと、年間予想を達成するために必要なQ4の数字です。下方修正したので、無理な数字には見えません。但し、前回Q2でも下半期が無理の無いように下方修正した訳です。この一見無理のないように見えているQ4の必要売上高・必要営業利益が本当に無理なく達成できるのかどうか・・・一抹の不安はぬぐえません。

どのセグメントが傷んでいるのか?・・・2022年度実績と今回の年間予想を比較して、売上・利益ともに落ち込んでいるのはマニュファクチュアリング関連・ウェアブルとされるセグメントのようです。この中でも特にマイクロデバイスのヒットが大きいという記述がありました。

損益の全体層は上の表です。為替の影響部分の説明がイマイチよくわかりませんが、素直に読むと今回予想は前年実績に対して「売上高で 690億円、事業利益で 250億円の為替の下駄を履いている」という意味でしょうか?とすると現地通貨ベースや数量ベース、あるいは製品単価がその分落ち込んでいるというコトになるのでしょう。う~ん・・・楽ではなさそうですね。営業利益率も前年実績の 7.3%から 5.1%へと2ポイント以上下がっています。私としては、ストレートに「為替が円安となって、利益率が低下する」・・・この構造がイマイチ腑に落ちていません。

【ヘッド外販の分析】

さて私がウォッチしているインクジェットヘッドですが・・・元のプリントヘッド外販のグラフには目盛りの数字が消されています。ただ、完成品+ヘッド外販の数字が、上方に掲げてある表の「商業・産業IJP」の合計であることから逆算して推論すると「一目盛りは 50億円」と見ていいでしょう。2022年度で 100億円/四半期規模の売上高に到達し、今年度は 120億円/四半期に成長したということになります。まあ、為替で下駄を履いた分も当然ありますが、立派なもんですね!

下の2つのグラフの左はプリントヘッド外販のグラフを過去の説明会資料から抜き出したものです。以前は目盛りを隠してなかったんですね。並べて見ると(コロナ初期に一瞬落ち込んだものの)概ね順調な伸長がわかります。ただ、公式に外販解禁宣言する以前は、中国にはプリンターとして出荷した製品から剝ぎ取ったかなりの数のヘッドが流通していました。それは実質的には無くなったのでしょうから、ヘッドの生産ベースでの純増分はこの見かけほどは増えていないとみるのが妥当と思われます。

上のグラフから数字を読み取って時系列に並べてみました。グラフからの読み取りなので億円の一桁部分は多少の誤差はあると思いますが、大勢に影響はないでしょう。

これをグラフで示したのが上の2つです。左はそのまま円建て売上高のグラフ、右は中国向けはドル建て・中国以外向け(≒日本向け)は円建てと仮定して円安効果を補正したもの・・・いわば数量ベースに近いイメージのグラフです。円安分を補正すると大きな伸びと見えた分は少し、マイルドになり、加えて以前は剥ぎ取りヘッドが中国で隆盛だったことを勘案すると、ヘッドの生産ベース全体では激増というレベルではないのではないかと推察されます。

これは設備投資と減価償却費の推移のグラフです。エプソンはヘッドの生産工程を含めて積極的に設備投資を行っています。これはメーカーとしては必須の行動(設備を更新・進化させていなければ、利益は出ているように見えて長期的にはジリ貧になる)ですが、結果として数年前と比べて年間で 200億円ほど減価償却費が増加しています。あくまで推測ですが、増強した設備生産能力と、市場での販売数量はいきなりはバランスしないので、ここでの利益率低下は償却負担増も一因というコトではないでしょうか?

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グラフで明らかなように第1四半期は対前年同期で「増収減益」です。同社の場合は事業利益を見ていますが、ここでは他社比較や継続性を重視して営業利益に着目します。売上高に関してはここ数年で一番多いのが見て取れますが、営業利益は減益です。前年も四半期を追うごとに利益が下がってきているのが気になります。

ドルもユーロも前年同期に対してそれぞれ 10円程度円安となっているにも関わらず減益となっているのが少し気になります。

セグメント毎の説明はスライドが分かれ、説明も細かいので、数字だけを纏めておきます。事業分野全般に亘って利益率は下がっていますが、減益の要因は「マニュファクチュアリング関連・ウェアラブル関連」と「プリンティングのうち『オフィス・ホーム分野』のようです。後者に関しては:

という説明があります。ちょっと分かりづらい表現ですが「コロナもほぼ終息したので、本格的に拡販する為の販促費などを投下して経費が増加した分が、粗利益の増分を上回ったため『減益』となった」という意味なのでしょうか?前向きな経費投下なら四半期利益が多少凹むくらいのことは気にすることではないと思います(あまり気にし過ぎて前向きな経費投下が出来ない方がむしろ問題)

従来エプソンは、年間見通しを四半期を追うごとに少しずつ上方修正するというパターン(余裕を持っていて、それを少しずつ小出しにして上方修正するパターン)だったのが、2022年度 Q2(上期)をピークにその流れが変わったように見えます。

今回、グラフでは読み取り辛いですが、年間売上高見通しは微妙に上方修正しています。また事業利益は据え置きとありますが、営業利益では上方修正しています。ここで為替前提を:

としていますが、現時点の実勢レートに近く、下のキヤノンと比べて随分吐き出してしまったなという印象を受けます。

まあ、まだ第1四半期なのでこれからの成り行きに期待しましょう

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エプソンの年間決算は、概ね前回(第3四半期)にコミットした数字を少し上回る値に着地したようです。これまでの傾向と異なり、営業利益が四半期を追うごとに下り基調に見えるのが気になります。決算説明資料はこちらに公開されています。

第3四半期時点では、増収減益(営業利益)という弱気な見通しを正直に発表していましたが、営業利益・事業利益とも前年をクリアして増益となっています。決算説明会の資料によればエプソンは事業利益を重視しています。私は過去からの継続性をチェックすることもあって、古典的ですが営業利益を見ています。(営業利益との違いについてはこちらなどをご参照

また「繰延税金資産の積み増しがあった前年度に対して、当期利益は減益となった」という説明があります。繰延税金資産に関してこちらなどに詳しい説明がありますが、正直申してかなり専門的になり解り辛いです。一般論として「積み増しは利益が増える・取り崩しは利益が減る」方向で、取り崩す理由としては、期末に事業セグメント毎の将来性を精査して「何らかの事業が将来、利益が上げられる見込みが無くなった時」というのが多いです。なにか「この事業は将来ダメだな・・・」と判断した事業があるのでしょうか?

今回発表した 2023年度(2024年 3月期)の見通しは売上高は少し増収、営業利益では減益となっていますが、エプソンはここ数年、一貫して事業利益を表に出しており「事業利益では増益」ということになっています。↓↓ 当期利益は特段の説明は無いようですが、更に減益となっています。なにかあるんですかねえ。このあたりは開示というか説明が欲しいところです。決算説明会で質問は出なかったんでしょうか?まあ為替をちょっと円高目に設定しているので、期を追うごとに少しずつ上方修正していくといういつもの作戦なのでしょうか?

プロジェクター市場については門外漢なのですが、そろそろオフィス市場が飽和してきた・・・ということなのでしょうか?前年並み・・・と表現されていますが、細かく言えば減収減益です。予算や IRの担当者や、最終的にこれを承認する経営陣の性格にもよりますが、この程度の減収減益であれば、数字を作ってでも増収増益にして発表する・・・というタイプも(よく)あります。そのあたりは、最近のエプソンはあまり「カタチ」にはこだわっていないように見えます。説明会資料も全般に淡々と抑制的なトーンです。外国人アナリスト向けのプレゼンだと少し物足りなく感じられるかもしれません。

ChatGPTにエプソンの課題を訊いてみたところ、あまりに常識的な一般論しか返ってこなかったので割愛します。また、私はインクジェット畑のご出身ではない現社長とは面識が無いので「セイコーエプソンの社長はどういう方ですか?」と訊いたところ・・・「2021年9月時点でのセイコーエプソンの社長は、石川 睦男(いしかわ むつお)氏です。石川氏は、セイコーエプソンに入社して以来、主にプリンター事業を担当してきました。また、グループの持続可能な発展に注力するため、環境・社会・ガバナンス(ESG)の推進にも力を入れています」・・・と、出鱈目な答えを返してきました。ダメだな、こりゃ(笑)

✙✙ 第3四半期時点のコメントはこちら

四半期ごとの売上高(左)・営業利益(右)推移です(単位は百万円)。「第2四半期の売上高は 3,300億円を超え、エプソンとして四半期売上高が 3,000億円を超えるのは初めて」・・・と前回書きましたが、第3四半期は更に増えて 3,600億円を超えました。ここまで、売上高は順調な推移に見えます。

一方、営業利益は下り基調となっています。対売上高営業利益率も、Q1・Q2・Q3がそれぞれ 10.5%・8.3&%・6.0%と悪化トレンドです。

この状況を踏まえて、年間見通しも下方修正しています。売上高は四半期ごとに上方修正してきましたが、今回は年度初めにコミットした 1,32兆円を少し上回る 1.33兆円まで見通しを下げています。

営業利益も四半期ごとに上方修正してきましたが、今回は年初にコミットした 960億円や、昨年の実績 945億円をも下回る 940億円まで見通しを下げました。前年実績を割る「減益」という見通しを発表せざるをえないというのは、経営陣にとっては断腸の想いと拝察しますが、あまり見栄を張らず、バッドニュースは早めに開示するという姿勢は評価したいと思います。

年間見通しを下げた結果、残りの第4四半期に必要な売上高・営業利益はどのくらいなものでしょうか?例の計算手法で求めた数字をグラフ化したものが下にあります。

事業別・製品別の状況を細かく精査したわけではありませんが、見たところ左程無理な目標には見えません。特に営業利益はまったく背伸び感はなく、営業利益率も 3.9%と見ています。今回下方修正した見通しはまず確実に達成できると思われ、少なくとも売上高に関してはそれを達成すると「増収」と言えます。

また、営業利益も下方修正した 940億円を達成できれば、総資産が 1.2兆円もあるエプソンならば、資産評価や引当などの決算調整でプラス方向に調整できる懐は十分あるはず・・・最終的には前年実績を無理ない範囲で超えて「増益」(すなわち「増収増益」)を達成する目論見と見ました!

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四半期ごとの売上高(左)・営業利益(右)推移です(単位は百万円)。今年度も順調な滑り出しで、第2四半期の売上高は 3,300億円を超えました。エプソンとして四半期売上高が 3,000億円を超えるのは初めてです。営業利益は約 280億円と第1四半期の数値を少し下回りはしましたが、同社のQ2の数値としては史上最高を記録しています。

まあ、こういう局面って不良在庫の廃棄とか、過去の遺産の処理をするチャンスなんですよね。なんでも利益を出して、株主や市場に褒めてもらおうなんてのはレベル低いです、こういう時こそ体質強化のために膿み出しをするのが正解です。そういうこともやって今後に備えたのではないでしょうか?・・・知らんけど(笑)まあ、自分が経営者ならそうしますね・・・

売上高と営業利益の年間見通しは、第1四半期に続いて、今回もまた少し上方修正しています。私も現役時代にやったのでわかるのですが、こういう数字は「小さくコミット・大きく超過達成」が基本です(笑)大風呂敷を広げて達成すればカッコいいですが、達成できないとボロカスに叩かれます・・・事業に絡んでいない管理部門なんかに(笑)

ま、エプソンの場合も市場に対して「控えめにコミット、四半期ごとに上方修正」・・・そういう作戦を一概に批判するものではないです、そもそも、余裕がなければこういうことって出来ませんからね!むしろ流石・・・と褒めるべきでしょう。しかし・・・

これまでは四半期で見てきましたが、ここで半期(6ヵ月)で見てみましょう。エプソンの(上方修正した)売上高年間見通しから、既に実績となった上期(Q1+Q2)を引き算すると、下期に必要な売上高が自動的に計算できます。そのグラフを、二つの側面から見てみると・・・いずれにしてもこの下期は記録的な売上高を達成できると読んでいることになります。

「小さくコミット、大きく達成」という体質と見受けられるエプソンにしては「おお!随分大きく出たね~!」と見えます。ま、これが輸出企業の円安効果なんでしょうね!「輸入品が円安で価格高騰する」という話が出ると、必ずセットで「輸出企業には有利に働く」という論がでますが・・・エプソンさん、一杯税金を納めて、それが庶民に回ってくるように頼みますよ(笑)・・・ところが・・・

大野は百人一首の「恋の歌」で好きなのが2つあります。ひとつは「逢いみての 後の心にくらぶれば 昔はものを 思はざりけり」・・・もうひとつは「忍ぶれど 色に出にけり 我が恋は ものや思ふと ひとの問うまで」・・・まあ何故、どんな局面でこの2首が好きになったのかはさておき(笑)・・・エプソンの業績見通しはこんな感じではないでしょうか?・・・「忍ぶれど 数字に出にけり 我が利益 何故に隠すと 大野問ふまで」(爆)

事業活動において「売上高」というのは基本的な実力ですから、あまり誤魔化しは利きません。一方、利益の方は「合法的な範囲で」操作が可能です。上述したように、世間や社内にコミットした以上の利益が出た場合には、不良資産の廃棄など利益を圧縮することも可能ですし、逆に今期で落とすべき費用を資産化して帳簿上の利益を膨らませることも可能です。

今回、エプソンは「素晴らしい売上高」を予測・コミットする一方で、営業利益に関してはそれに見合う数字を出していないように見えます・・・でしょ?次回、第3四半期の決算発表では、営業利益の大幅上方修正をすると大野は読みます。もしそうでなければ、将来に向けての費用をかなり乗せるのでしょう。まさか、秋田の新ヘッド工場の加速度償却なんてのはないと思いますが・・・

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四半期ごとの売上高(左)・営業利益(右)推移です(単位は百万円)。今いうのは内容にはおもいますが・・・年度も順調な滑り出しで、第1四半期の売上高は 3,000億円にもう少しで届くレベル、営業利益も 310億円を超え、いずれも同社の史上最高を記録しています。

↓↓ 下のグラフはそれぞれ売上高と営業利益のここ3年間の実績と、2022年度の見通しです。2021年度の決算短信に 2022年度の業績見通しを公表し、その後四半期決算ごとにそれをアップデートするのがルールです。黄色の棒グラフが今年度ですが、売上高・営業利益とも上方修正されています(事業利益は据え置き)。エプソンはこのパターンが多い・・・余裕のなせる業か(笑)次回の上期決算発表でもまた上方修正しそうだな(笑)
(なお営業利益・事業利益の違いについてはこちらなどを参照ください。詳しいのはここです。事業利益は制度的に定められたものではないので定義はいくつかありますが、一般に企業としての収益をより明確に反映するとされています。ここでは過去からの継続性を重視して営業利益で統一します)

エプソンの第1四半期決算説明資料はこちらにありますが、下記に総括が書かれています。「価格対応」って・・・円安は外貨建てでは「価格が安くなる」効果があるので、その分外貨建ての価格を据え置く(円建てでは値上げ)をした=コストアップ分を価格転嫁したということでしょう。

前回は 121円/$、132円/€でしたが「直近のレートで見直して見通しに反映させた」ということです。事業利益は据え置き・・・為替の分が他の要因で相殺されて影響なしとのことの様です。まあ、ウクライナの戦争も長期化しそうだし、中国のゼロコロナ政策も続きそうだし・・・万事不透明な状況は続きそうなので、据え置いたのは妥当な判断に思えます。でも、多分また上方修正して株価を上げる作戦のような気がするな(笑)

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