EFI:CEO Guy Gecht 氏へのインタビュー (2/3)


(1/3)からの続きです。

【 M&A について】

大:M&A の話に戻るんだが・・・EFI は沢山の会社を買収してきた。でも、M&Aで最も大事なのは買収後の統合、PMI = Post Merger Integration だよね。
G:その通りだね。ソフトウェアを書くより、チェックにサインする方が余程簡単だよな(笑) 俺は大小取り混ぜて約40件のM&Aを手掛けてきたが、PMI は非常に重要だ。多くの場合は買収した会社のチームをそのまま残し、殆どの場合は経営者にもそのままいてもらう。その中で、EFI としてのシナジーや買収した目的を発揮させる。上手くやってこられたと思うよ。

大:40件はすごいね。その中で、これは失敗だったなあと後悔するM&Aはあるかい?40件全部の M&A が成功したってこともないだろう?
G:失敗だったということはないが、どんな M&A だって必ず何か問題はあるものさ。逆に何の問題も無かったM&Aなんて一件も無かった。でも、そこをマネージするのが重要だよな。買収して徹底的に自社に同化させるやりかたもあれば、買収しても何も変えずに放置するというやりかたもある。EFI はその中間だ。必要な同化はやるし、そこのやりかたを尊重してそのままにすることもある。そのあたりのバランスを含め、うまくやってきたつもりだ。

大:でも、世の中には買った会社を上手くマネージできていないケースも多い。たとえば・・・あの事例とか、あれとか、あれとかね(笑)
G:(笑)まあ、それはその会社なりの戦略や考え方があるからなんとも言えないところだな。EFI はいい人材にも恵まれ、そこは上手くやってくることができた。いい会社はオーガニックと M&A と、その両方をうまく組み合わせるものだと思う。

大:日本の会社はそこが必ずしも上手くいっていないという気がするな・・・

REGGIANI

CRETAPRINT

JETRION (FLINTへ)

M&A で獲得した諸要素の結晶としての NOZOMI

【 日本企業について 】

大:あんたからみて日本の会社はどんな風に見えているの?アドバイスがあるとすればなんだろう?
G:日本の会社は、イノベーションに熱心だし、長期的思考で行動するし、会って話をしていても鋭い質問をする。そういういい点はキープするべきだろう。ただ、敢えて言えばスピード感に欠ける面は否めないね。

大:なるほどね!それはインクジェットという社内では新しいことをやっていてもそういう気がした。一般論だが、日本企業は商品の企画や開発に数年かけて、満を持してローンチする。インクジェットでそんなことをやっていては世の中のスピードについていけないんだが、どうしてもそのあたりが理解されにくい。インクジェットの世界のスピード感はやっていないと解らない。
G:どんな技術にも「旬(Time to market)」というものがある。この iPhone だってそうだ。iPhone4 や iPhone5 は、その時々でタイミングよくローンチして大成功を収めた。アップルが満を持して今日あれをローンチしていたら Disaster だっただろう。スピード感やタイミングを感度よく掴んで、実際にアクションすることは大事だね。考えているだけでは始まらない。

あと、Customer Intimacy (カスタマー・インティマシーとは、顧客と親密な関係を築き、関係を強固にすることで顧客を囲い込み、長期の安定した良好な関係を築いて戦略的優位性を構築する考え方)はまだまだ改善の余地があるように思うね。特に国際的な Customer Intimacy の構築というのが得意ではないように見受けられるね。

大:なるほど!俺はドイツに11年駐在していたので、典型的な日本人じゃないとは思うけど(笑)、そんな自分からしても「我が意を得たり!」という感じだな。日本人が、変わるにはどうしたらいいかね?なにか特効薬ってあるんだろうか?
G:んんん・・・(考え込んで言葉を選んで)・・・まあ、長期的思考とかのいい面は大事にして、素早く意思決定するとか、もっとオープンに国際的になるとか、ほんのちょっとアジャストすればいいと思うんだけどね・・・

【 後任と今後について 】

大:あんたはここでCEOを降りるとして、後任にはどういうことを期待する?
G:自分の後継者となる「彼」あるいは「彼女」(he or she)何かにフォーカスする必要がある。EFI が参入しているそれぞれの市場の変革はまだ始まったばかりだ。パッケージ分野もそうだし、テキスタイル分野だってそうだ。成熟しつつあると思われているグラフィックだってまだまだやることはある。急速に伸びる市場もあれば時間がかかる市場もある。それぞれをどう位置付けて、どうフォーカスするかはひとえに後任次第だ。そこをちゃんとやってくれることを期待したいね。

大:でも、あんたはボードに残るし、アドバイザーとして残るんだよね?黙っていられるかい?
G:前にも言ったけど、会社にリーダーは一人でいい。これは信念だ。自分がリーダーの間は他にごちゃごちゃ言わせない。でも自分がリーダーじゃ無くなれば、自分はサポートに回る。

大:プライベートにはどういうことをしようと考えているの
G:正直言って、全くノーアイデアなんだよ(笑) まあ、一度休んで、なにかベンチャーを起こすのもありだし、そういうスタートアップを応援するのもありだし、あるいは学問の世界に没頭して PhD を取得するってことも考えている。幸いなことに、自分にはまだその余力が十分に残っていると感じているからね。なにしろ、この19年間、寝ても覚めても EFI のことばかり考えていたからね。一番長い休暇でも2週間だったんだぜ(笑)

大:そだろうなあ!仕事のことを考えなかった時間という意味では、俺は8時間がマックスだ(笑)。じゃあ、今後も、あんたが関わってきたこの市場に関係するなにかをするって感じかな?
G:そうだね!なんたって EFI のボードしては残るわけだし。日本の経営者や技術屋さんたちともいい関係を築いてきた。彼らが引退した後もいい人間関係を維持している。これからも、自分が人生賭けて関わってきた産業用プリンティングの世界には関わり続けるつもりだし、drupa や大きなコンファレンスなど業界に影響力のある人達が集まるところには顔をだして、自分もその一員でいようと思っている。

大:じゃあ、よくある「引退して牧場主になってのんびりと余生を送る」って感じじゃないんだね?(笑)
G:それは自分には無理だね(笑) 子供に「引退したら庭いじりでもするよ」って言っても信じてくれないし(笑)

名著 Start-up Nation

なんだ、この翻訳本タイトル(笑)

X-JET 3Dプリンター

大:ははは!(笑) ところで、かなり前だけど、イスラエルのベンチャーに関する有名な本 Start-up Nation を読んだ。大いに感動したよ。ここで EFI が一段落したら、国に戻ってイスラエルに貢献するってことは考えてる?
G:ああ、あの本を読んだんだね、そりゃ有難う。うん、もちろん自分はイスラエルに深い繋がりがあるわけだし、イスラエルの大きなサイバーセキュリティ企業 Checkpoint のボードメンバーでもある。これは非常に素晴らしい技術を持っているし、EFI もその技術を使っている。そういう関わりもあるし、スタートアップを応援したいとも思っている。自分のカミさんもイスラエルの NPO ではちょっとした活動をしているしね。やはりそこは切っても切れない縁があるよ。

大:俺も、2012年の drupa の最中にイスラエルに行ったんだ。ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の関係の縮図のようなエルサレムを見て「世界の混迷」のルーツを見たような気がした(笑) 多分、また行くだろう。その時 Hanan Gothait という有名な人の家に招待されたんだ。X-JET の創業者で、ソーラーパネルの製造工程にインクジェットを使うことをトライしていたんだ。
G:おお、そりゃ素晴らしい!彼は3Dプリンタの元祖だね!何度も彼を雇おうとしたんだか、自分がEFIでアメリカに行くことになったりしたタイミングもあり実現しなかった。彼は素晴らしい人間だ。

大:その彼の会社 X-JET には、あの Benny Landa も出資しているそうだ。最後の質問だけど・・・Landa のマシンをどう評価する?
G:ははは、難しい質問だね(笑) 彼らの目標はすごく高いところにある。彼らは Fiery の最重要パートナーの一つだ。成功もしてほしいし、すると思う。Fiery としても超ハイエンドの DFE としてサポートしていく。

大:でも、先ほど Time to market が重要だと言ったよね?既に drupe には二回出展した。これは Time to market を逃したことにはならないのかい?
G:そこはわからないが、そういうことはないと思う

大:また、少し前に戻ってしまうが、後任の具体的な人選はもう見えたの?
G:もちろん何人かの候補者はいるにはいる。でも、そこはボードが中心となって慎重に見極めていく。なんたって、まだ今は自分が CEO な訳だから、後任を明らかにするタイミングではないしね。その人選は慎重にやる。外部からだと特にね。例えば、外部から CFO を採用した時には19人もインタビューした。まあ、自分の後任は自分とは違う経験値を持ち、違う発想で会社をリードしてくれる人がいいと思っている。

大:半分冗談で、半分マジなんだけど・・・日本企業の CEO になるって考えはない?
G:えっ?俺がかい?(笑) 日本の会社は皆素晴らしい会社だ。でも、それをマネージするのは、また全然違った難しさがあるだろう。自分が関わってきた分野でも、オフィス事業は難しい局面にあるわけだしね。

大:そう、だからさ!俺が、日本企業からアドバイスを求められたら「Guy を雇えば?」って進言するなあ(笑) 今、日本企業に必要なのは荒療治みたいなものだと思う。社長はいいとして、その下のレイヤーや、シニア管理職クラスが本当に会社を変えたいと思っているのか?自分が中心になってそれをやろう・やらなくては・やるのが使命と本気で思っているのか?あんたが、ちょっと日本企業をシェイク(揺さぶる)だけで、随分な刺激になると思うよ(笑)
G:例えば?

大:●●とか、▲▲とか(笑)
G:(爆笑)

大:いやあ、今日は忙しい中、時間をとってくれて有難う!業界にはずっといるということなので、これからも引き続き stay in touch でいようね!
G:こちらこそよろしく!今日は有難う!

8月23日、ホテルのラウンジにて

(3/3)に続く

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