- 2017-11-6
- イベント参加報告
- LabelExpo2017
【UTECO+EBEAM+INX】
今回のラベルエキスポの話題ツートップのもう一つは「eビーム(電子線)」によるインク硬化が、初めて実用化を意識した形でプリンタのプロトタイプとして登場してきたことでしょう。
UVインクは光重合開始剤の(食品本体への)マイグレーションという問題が指摘されており、ヨーロッパでは少なくとも食品パッケージには敬遠されるムードがあります。実際に2005年9月に、テトラパックに施されたUVオフセットインキに含まれていた開始剤ITX(Isopropyl Thioxantone)が食品の中で発見された事例が報告され(欧州の業界では「テトラパック事件」などと呼ばれている)、それ以来、UVインクに対する風当たりがきつくなったとされています。
日本語のGoogleでは検索で出てきませんが、英文では下記などいくつかヒットします。
https://www.researchgate.net/publication/290816792_Migration_of_ITX_Isopropyl_Thioxantone_from_Tetra_Pak_Bricks_into_Food
概要をGoogle 翻訳して引用しておきます。
『2005年9月の初めに、UV硬化インクに使用される光開始剤であるITXが、パッケージングから食品に移行したことが確認されています。 Tetra Pakは、UV硬化オフセット印刷インキからと、移動源を特定しました。テトラパック容器に詰められた食品中のITXの存在は、ボックス壁の内側のポリエチレン層の汚染の結果である。 ITXは、包装材料を通って移動することができ、または例えば印刷の不安定現象の結果として接触によって食品に到達することができる。おそらく、ITXの転写は、プリントされた外層とパッケージの内層との物理的な接触によるものであり、これにより、インクまたはインク物質は、プリントから隣接するシートの裏に転写される。 Tetra Pakは、このテクノロジからすぐに離脱し、代替印刷テクノロジを使用して、パッケージからITXやその他の物質の移行がない、または最小限になるようにしました。 ITXはまだ食品中の禁止物質のEUの負のリストに載っていないし、世界保健機関(WHO)もそれを人間の健康に有害であると分類していない。欧州食品安全局(EFSA)は、事件後のITXの健康リスクを調査した結果、食品中に含まれるレベルは「望ましくないが健康上の懸念を引き起こさない」と結論づけた。』
これに対し、電子線(eBeamあるいはEB)による硬化の可能性はかねてより検討されており、特殊な分野では既に実用になっているようです。UVとEBの比較については下記に解説があります。
http://www.elebeam.com/kanosei_detail.php?eid=00007
要は、光重合開始剤を使うのではなく、電子線で対象物の表面の一部を破壊して反応点として、そことインクのモノマーを重合架橋させて密着させるというものです。問題の光開始剤を使わないので安全と主張されています。実際に、今回の展示では実際に食品軟包装にお菓子を詰めて配布することで、安全性をアピールしていました。(ただし…中身のお菓子は更に「個装」されていました(笑))。
特徴としては、かなり多くの反応点(架橋点)が出来るため、インクの密着が非常に良いとのことで、軟包装をクシャクシャにして、インクが剥がれ落ちないというデモもやっていました。
一方、今回の時点で多少気になったのは、プリント済メディアの表面に残る「粘着性」でした。配布されていた菓子袋はそういう感触はありませんが、プリントされたロールメディアのサンプルは折りたたんだりすると表面同士がくっついてしまいます。また、欠点として(UVでは可能な)ピニングが出来ないと思われ、白インクのバックコートは可能なのか?という指摘があります。写真の菓子袋は、メディアそのものが白いものを使っています。
また、eBeamの硬化装置は、安くコンパクトになってきたとはいえ「10センチ幅で1,000万円」というのが現状の相場のようで、UVランプとはまだまだ桁が違っているようです。
とはいえ、進化しない技術は無い。我々は、こういう用途にフォーカスしてモノを見がちですが、電子線の応用技術は幅広く、フィルムにインクジェット印刷をするのはそのごく一部。ほかの分野での技術革新が、いずれここにも反映され、更に安く、更に使いやすくという方向に進んでいくのは間違いないと思われます。今回のプロトは開発期間も非常に短かったようで、それも含めて今後の展開に要注目です。
なお、食品包装への安全基準をBOBST社が主導して提案していくような会議体が持たれたようですが、結論は出ていないようです。今後の食品パッケージ産業の行方を左右する側面もあるだけに、背景で様々なロビー活動も行われていることと考えられます。ここも(ともすると部外者になりがちな)日本企業として要フォローのポイントかと考えます。