コロナウィルスの今後:苦しい長期戦は必至、そしてその向こうにあるものとは?

「DRUPAの延期とコロナの今後について」という記事を書いてから、まだたった一週間しか経っていないというのに、その間の世界の感染者数累計は13万人から23万人と2倍近くになり、中心地は中国から欧州に移り、多くの国々が国境を閉ざし、株価は歴史的な暴落をし・・・と、コロナ問題は新たなフェーズに入ったように見えます。マスコミやネットでは嫌というほど情報が流され、更新され、ともすると方向感を失いそうになります。こういう「情報過多」によって方向感を失わないためには「ブレない思考拠点」を持って、そことの距離・方向を常に確認することです。今回、私なりのブレない思考拠点の試論と、今後の展開に関する心構えを書こうと思います。

【1.集団免疫獲得(形成):おさらい】

まず、集団免疫獲得(形成)についておさらいです。「新型」ウイルスであるが故に最初はまだ誰も免疫を持っていません。新型であるが故にワクチンもまだ存在しません。ということは、発症する・しないに関わらず、感染して治癒するしか、免疫を獲得する方法がありません。ワクチンが出来れば、未感染者に先回り投与して免疫を与えることが可能です。これがワクチン開発・量産・世界への普及が希求される所以です。

さて、「感染治癒+ワクチン投与」の結果として、人口の 100%が免疫を持てば完璧ですが、現実には(パラメーターにもよりますが)60~80%の人が免疫を持てば事態は沈静化するとされます。この程度の割合の人が免疫を獲得すると、残り 20~40%の未感染者にウイルスが辿り着くまでに、免疫保持者によってブロックされてしまうからとされています。これを「集団免疫獲得(形成)」といいます。(数理モデルもありますが省略します。)

これ以降は話を簡単にする為「日本の総人口1億人、その 60%として 6,000万人が免疫を持つ状態」をひとつのゴールと考えます。ここを精緻にしても、この後の議論には影響しません。

次に「医療崩壊を避ける」話です。簡単に言えば、病院に大勢が殺到して機能不全を起こさないように「感染者数を押さえる」+「感染しても軽症のうちは自宅で自己隔離」を求めるものです。所詮、薬が無いので対症・緩和療法しか無いわけですが、重症者は自宅より入院の方が人工呼吸器や点滴による栄養補給が可能で、命が助かる可能性が高くなります。感染者が全員医療機関に殺到すると、所謂「医療崩壊」を起こして重症者が救えない事態を引き起こします。今のイタリアはそういう状況の様に見え、ドイツや周辺各国はそうならないように躍起になっているわけです。上の図でピークを低くする施策(ピーク・カット)です。

【2.医療崩壊を避ける=問題の長期化を意味する:おさらい】

ここまでは前回のおさらいです。さて上の図は分かり易いですが、嘘(誇張)があります。まあ、出典を見ればそうかなと思いますが(笑) 医療機関のキャパは上の図よりもっと低い位置にあり、それを潜るようなピーク・カットのグラフは実は下のような形になるのです。

このグラフの出典はこういう論考です。ご参考に。

現在、日本では毎日各県で散発的に数十人の感染が報告されていますが、まだ病院のキャパの内数と見えて医療崩壊は報告されていません。ちなみに先の「集団免疫獲得:6,000万人」に到達するには、現状 60人/日の感染報告(この60人が治癒し免疫獲得したとして)6,000万人 ÷ 60人/日 = 100万日 = 2,740年かかる計算になります。

ただ、この感染者は諸事情によって(笑)対人口比検査数が極端に低く抑えられた状況で、それでも検査をして発見された 60人/日であり、実際には未検査(検査拒否)感染者や、無症状感染者などもいるわけです。まあそれを10倍と見積もっても 274年かかる計算になります。

また、ここまで医療キャパという言葉を曖昧に使ってきましたが、実際には病院の病床数・医師数・看護師数など様々な律速条件があり、一番低いところがクリティカルなんだろうと想像されます。

また重症・重篤者を救うという観点からは「人工呼吸器」の数が律速となると考えられます。先の論考によれば、日本に人工呼吸器は 60,000あるそうで、そこを律速として計算すると(詳細は論考を参照)「今の発症者数は医療崩壊限度よりかなり下にある(まだ理論的な余裕はある)」、「日本が集団免疫を獲得し事態が鎮静化するまで36か月かかる」という結果になっています。この計算は、「人工呼吸器が空いたらすぐに次の重篤患者がそれを使う、そういう状態が全国均等に可能」という理論値なので、余裕を見ると5年かかってしまうというくらいに覚悟すべきと考えられます。

要は「集団免疫を獲得して事態が落ち着く(これ以上爆発的な感染は起こらず、マスク等無しで安心して外を出歩き、濃厚接触が起こる集会やイベントも開催・参加が可能となる。但し散発的感染・発症は皆無ではない)には5年はかかる」と考えられるということになります。

もう一つ、ピーク・カットを強める(山を押しつぶす)方向の施策は、集団感染形成目標(60%と仮置いた)の達成時期を後送りするということとセットです。逆も真です。それは下のアニメーションから自明でしょう。

ここまでの議論を劇的に変えるもの?それはワクチン(and/or 特効薬)の開発・量産・世界への普及です。5年以上、自粛・禁止生活なんてとんもない?そう、例えば2年でワクチンの開発に成功し、即量産がなされ、直ちに世界に行き渡り、未感染者に投与されれば2年で沈静化するのです。ワクチンが希求される理由です。何故、世界への普及?人の往来を伴う正常な経済活動を取り戻すには、日本だけ鎮静化すればいいという問題ではないからです。

【3.とるべき政策は「ブレーキとアクセル」しかない】

さて毎日、政府や地方自治体レベルで様々な方針が示されたり、政策・施策が発表されていますが、矛盾した内容もあったり朝令暮改もあったりと混乱しますが、大きく見れば個々の施策は「禁止・自粛」か「解除・緩和」のどちらかです。その各々に目的と副作用があります。その関係を整理したのが下の表です。

政府や自治体は医療崩壊を招かないように感染者数・入院者数を押さえる必要がありますが、一方で経済や失業にも責任があるので、結局現状に応じて「禁止・自粛」か「解除・緩和」をブレーキとアクセルのように踏み分けて政策運営を行うことになる(ならざるを得ない)のです。

政策骨子 イメージ 政策の意味と概要と副作用 集団免疫獲得時期
禁止・自粛 感染者数・感染リスクを押さえる為に:

●休校・外出禁止・テレワーク推進
●集会やイベントの禁止や自粛
●移動の制限や禁止・国境封鎖

結果として経済活動レベルは低下・失業増加

遅れる
解除・緩和 経済活動レベルを引き上げ・失業減少させる為に:

●休校解除・外出禁止の緩和
●集会やイベントの禁止解除や緩和
●移動の制限や禁止の解除や緩和・国境封鎖の解除や緩和

結果として感染者数・感染リスクは増加する方向

早まる

集団免疫獲得の時期は、感染者数を押さえる「禁止・自粛」政策では遅れ、「解除・緩和」政策はでは早まる効果がありますが、政府としては所詮どっちにしにても「医療崩壊を招かない」というリミッターをかけての運転なので五十歩百歩・・・というか「5年か10年か?」のような選択の違いでしかなく、それより前にはワクチン(あるいは特効薬)が開発されるだろうと期待して、そこを政策選択のキーとはしていないのだろうと思われます

安倍政権のコロナ対応も、上記の二方向の政策を試行錯誤しながらブレーキ・アクセルを踏み分けており、これまでのところ一部の国のように医療崩壊やパニックを起こしていないという点(あってもトイレットペーパーのパニック買い程度(笑))に於いて合格点なんだろうと評価します。勿論、安倍政権になってから整備された訳ではない高レベルの日本の医療体制に支えられていることは言うまでもありません。

敢えて申せば、政策の全体像、ネガティブ側面(政策の副作用側面など)や、時間軸に触れないのが「曖昧」「具体策が無い」「目先だけ」という印象を与えているのでしょう。比較するつもりも意味もありませんが、ドイツのメルケル首相の談話も是非ご覧ください。

【4.本当に深刻な問題とは?】

しかし本当に深刻な問題は日本の国内にではなく、全世界や国ごとの関係にあります。状況の深刻度には差がありはしますが、世界の各国はやはり「禁止・自粛政策」と「解除・緩和政策」のブレーキとアクセルを交互に踏みながら試行錯誤をしています。この「禁止・自粛政策」のなかで将来に禍根を残すかもしれないのが「国境閉鎖」(出入国制限)です。

特にヨーロッパは、EUの理念に基づき「域内移動の自由」を実現し、またシェンゲン協定加盟国は相互にパスポート無しで行き来することが可能です。緊急措置とはいえ、この理念を棚上げして「構成国」が国境を互いに封鎖してバラバラになって、貝のように殻を閉じてしまったのです。あのアメリカも現在「国境封鎖」状態にあります。自国内の火消しが最優先で、そこに他国からの感染者を持ち込んで問題を複雑化したくないということですが、これまで築き上げてきた国と国の相互信頼のネットワークが、ガラガラと崩壊したことを意味します。

緊急措置としては不可避な側面はありますが、問題はこの国境封鎖はいつまで続くのか?「いつ・なにをトリガーにして・どの国に対して国境を開くのか?」ということです。

ドイツは周囲を囲む数か国との殆どの国境を封鎖しました。オランダとベルギーの国境はまだ開いていますが、イタリア人がそこからドイツに入国できるのでしょうか?フランスやスペインも国境を閉ざしましたが、フランス国内の状態がどうなった時、そしてスペイン国内の何がどういう状態になった時、フランスはスペイン人の入国を受け容れるのでしょうか?

コトの発端となった中国は、そのまた発端となった湖北省でも3日連続で感染者ゼロを報告しています。これで中国への、あるいは中国からの出入国はもう安心と信じられるのでしょうか?

アメリカは、新型コロナウイルスを中国ウイルスと呼んでいます。また中国がネットで情報操作をしていると言っています。ロシアとイランも同じくネットの情報操作をしていると主張しています。中国は、ウイルスは米軍が持ち込んだものだと反撃しています。事の真相は所詮は藪の中としても、ウイルスが鎮静化し、国境封鎖が解除・緩和に向かう時に、この傷ついた相互信頼はどのように回復して行くのでしょうか?

中国の人口は約14億人、集団免疫獲得するには人口の60%として8億人強、70%として10億人弱が免疫を獲得している必要がありますが、中国の総感染者数(=免疫獲得者)は「たったの8万人(総人口の 0.006%」に過ぎません。追加で有ったとしても、感染しても発症せず、本人が気が付かないうちに免疫を獲得した人・・・でもそれが億単位とは考えられません。ということは、まだまだ殆どの中国人は免疫を持っていないわけです。今後、中国政府はまだ当面「中国到着後2週間の待機措置」をキープすると思われますが、それは不自由な人の移動制限を課したままとなります。中国政府は、どの国に対して、何を条件に、この制限を撤廃していくのでしょうか?

先に書いたように、ワクチンが開発・量産・普及して世界人口の70億人の60%(42億人)が集団免疫を獲得するまで、この神経質な駆引きは続くことになるでしょう。そして、国を跨いだ人の往来の制限は、これまで当たり前だった多くのビジネスや仕組みを壊していくことになるでしょう。

被災者・ご関係者には申し訳ない表現ですが、これは巨大津波のようなものです。ドイツのメルケル首相は第二次世界大戦以来の危機と評しましたが、そういう規模とインパクトを与えるものと考えるべきでしょう。

【5.何が起こるか?そして何を考えるべきか?】

残念ながら、こういうものはまず弱者を直撃します。不安定な身分の者は職を失い、脆弱な基盤の企業は淘汰されるでしょう。企業も生き残りをかけて本当に意味のある仕事をしている者だけを選別することを迫られるでしょう。これまでは正従業員だというだけで生き延びてきた、無意味な中間管理職や役員などは今回は生き延びられないでしょう。それを飼っている余裕はもはや企業にはありません。

また移動をビジネスとしていた運輸事業、就中航空産業、集客をビジネスとしていた興行・イベント・スポーツ関連・展示会等、濃厚接触が不可避な飲食業、不要不急などというレッテルを貼られてしまった一部のサービス業などは直撃或いは間接的に大きなヒットを受けて、企業価値を大きく毀損或いは淘汰されるでしょう。多くの産業において、無意味な中間搾取で生きてきた企業も存在を許されなくなるでしょう。

今回バラバラになってしまった「国」にしても同じです。規模や人口の大小に関わらず、脆弱な国からまず影響が出ることでしょう。余談ですが(でもないですが)、飛び道具をもった隣国の暴発リスクも気になるところです。国連制裁を破って、中国あたりがこっそり人道支援でもして面倒見てあげてくれたほうがいっそリスクはへる・・・その中国もこの先2年はマイナスが必至と思われますが、成長の止まった中国で、今の政治体制は維持できるのでしょうか?

さて、長くなってきたので一旦締めようと思います。

私は無神論者で無宗教者です(別にそれほど明確なものじゃないですが(笑))。ですが、今回のコロナは俗にいう「神の怒りに触れた?」、まあ普通の言葉では「神の見えざる手 God’s invisible hands」、あるいはビルトイン・スタビライザーのようなものではないかという気がするのです。行き過ぎた何かに対してバランスを取ろうとするなにか・・・それが何かを人間に考えさせて反省させるなにか?

それが何なのかはわかりません。よく言われる「宇宙船地球号」・・・本来70億人もの乗客を乗せられるはずがないのに無理やり乗せて、それを賄うために疲弊している。ひょっとしたら過剰な医療の発達、ホンマに長生きさせることは絶対的に善なのか?不摂生の結果、成人病になったヤツを薬で治してやることがホンマに善なのか?(お前が言うか(笑))そういう意味では新型コロナに対するワクチンの開発も本当に必要なのか?

「文明は不必要な必需品を産み出すことである」と言われますが、それを当たり前と思っていたことへの警告?一国だけでは成り立たないのに「★★ファースト」と叫ぶナショナリストへの警告?莫大な数の失業者の発生で生じる社会不安を通じた富の偏在への警告?いろいろ考えられますね?

いずれにせよ、この世界を襲う巨大津波が収まって、壊れるべきものや仕組みが淘汰されたところから目指すべきものは「復興ではあっても、復旧ではない」はずです。復旧や原状回復はもはや不可能でしょうし、無意味でさえあるでしょう。

そこには、今は過熱して安易なバズワードとなってしまった感もある「SDGs」や「働き方改革」などでさえ、一旦ホンマカイナ?と疑ってみた上で、改めて復活の日に方向を与える哲学が必要だと信じる次第です。

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【おまけ:東京オリンピックについて】

いろんな人がいろんなことを言っていますが、また責任ある立場の人達は責任があるがゆえに公式には開催と言い続けていますが、この状況下での予定通りの開催はあり得ないと思います。少なくとも2年の延期、そうでない場合には(4年後はパリが既に決定しているので)「2028年の開催をこの時点で東京と決定する」のがあり得る選択肢ではないかと考えます。2年後に延期する場合には、一度バラバラになった各国の相互信頼の輪を、日本が主導して再構築していくという役割を担うことができるでしょう。8年後なら、今の政治家がメンツを捨てれば何の問題も無いでしょう。

うがった見方をすれば・・・利権にまみれて商業イベントとなってしまったオリンピックこそ不要不急、壊れてしまえ、無くなってしまえという「見えざる手を持った神」の声なのかもしれません。

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