- 2024-10-21
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前章ではエプソンが「売上高を 40%以上も落とす」という大構造改革をやった構図を財務データから見てきました。
しかし、これはいったい「どなたの仕事」なんでしょうか?
2004年から 2024年までの期間のエプソンの社長は(敬称略):草間 三郎(2001年~2004年)・花岡清二(2005~2008年)・碓井稔(2008年~2020年)・小川恭範(2020年~)の4氏で、在任期間から見ると2004年~2024年に至る大構造改革を主導したのは碓井さんとみて間違いないでしょう。小川さんの独自の色は(少なくともこういうドラマチックな成果は)まだこれからだろうと思われます。
あ!え?それが 800億円以上も投じた今回のば買収話なのかな?(これはまだバランスシートには反映されていません)
まずエプソンのこの 20年の売上高・営業利益の推移を見てみます
ざっくり纏めると…花岡氏が社長時代にエプソンの売上高は最高潮に達します。但し営業利益はその前後と比べて最低レベルです。当時エプソンは小型ディスプレイに参入しており、2004年には鳥取三洋電機と合弁会社を設立するなどして事業拡大・基盤強化をしますが、ディスプレイ業界の発展速度には追い付けず、最高売上高を記録して以降はジェットコースター曲線で落下していきます。
2008年度、エプソンが営業赤字に転落し、加えてリーマンショックが起こった大変な年に社長を引き継いだ碓井氏は、2010年には前述の鳥取三洋との合弁から撤退・閉鎖するなど大規模なリストラを断行します。合弁設立から僅か6年後です。こちらの日経新聞電子版に詳しい記事があるのでご参照ください。そして2012年には最高売上高を記録した 2005年からすると実に 55%に過ぎない 8,513億円の最低売上高を記録します。
しかしそこから反転し翌年には1兆円を回復、僅か2年後の 2014年には過去最高の営業利益の 1,314億円で営業利益率 12%という高収益体質を実現します。高収益製品のインクジェット機器事業、特に超高収益のサプライにシフトした成果です。
一般論ですが、こういう大リストラを成し遂げ、高収益体質に転換させるような社長というのは・・・嫌われます(笑)売上高が最高だった時の記憶が役員・従業員の頭の中に残っている中で、ブレずに改革・リストラを推し進め、売上高が半分近くになってもメゲずに意志を貫く・・・それは恐らくサラリーマン根性を捨てて使命感に裏打ちされていなければできなかったはずです。社長に対する「規模の成長」のプレッシャーは凄いものがあります。規模を半減させるなんていう決断は、皆から好かれようとする凡人には到底出来ることではありません。
上の資料は 2005年 3月期の決算説明資料です。当時はまだ安価なモノクロ液晶もあった時代(STN)
いまやスマートフォンの代名詞となった iPhoneが発売される前・・・「Appleが携帯電話を開発するという噂は以前からあったものの、2007年1月9日に正式発表され、同年6月29日にアメリカで発売された」というような時代です。
事業を拡大してなんとか生き残りを!というなかで競争が激化し、韓国・台湾勢による巨額な設備投資と受注合戦が既に始まっており、価格低下が激しくなっていった時代というのが読み取れます。
あのまま価格競争に巻き込まれていたら今のエプソンは・・・というかエプソンそのものが無かったかもしれません。そういう意味でも碓井氏の貢献は大いに評価に値すると思います。
では最近のエプソンはどうなのさ?
2014年度に所謂「V字回復」を成し遂げ、盤石の体制を築いたと思われたエプソンのその後はどうなったのでしょうか?↑↑ これは 2015年度以降の売上高のグラフですが、あまりドラマチックなことが起こっているようには見えません。毎年、決算報告で細かいことは書かれてはいますが、数年単位で見てみると結局はどの分野も特段の成長をしているようには見えません。
社長が小川さんに代わった 2020年度から 2022年度に急速に売上高が伸びたように見えますが、これはコロナ禍で在宅勤務や自宅学習が増え、オフィス関連各社が苦戦した一方でエプソンやキヤノンなどの家庭用プリンターに特需があったことが利いています。これは小川さんの功績というより、碓井さんの時代のポジティブな遺物と評価するのが正当でしょう。しかしそれは 2023年度には止まってしまいます。小川さんという方はインクジェット畑ではないので全く面識も無いのですが・・・いったい何をされた・されようとする方なのでしょうか?
ここで全く別の視点・・・今ホットなトピックな選挙の視点から状況を見てみます。
野党を中心にいろいろ言われています。
日本企業の売上高はここ 20年伸びていない!消費税は上がる一方で一般庶民は税負担がジワジワとのしかかる一方で、大企業には法人税減税で優遇した。その結果、大企業の内部留保は膨れ上がったが、それは本来は労働者に分配されるものではなかったのか?あるいは将来の為の投資に回すものではないのか?
大企業の内部留保に税金を掛け、それを原資として福祉や賃上げ・最低賃金 1500円に使われるべき!そうやって大企業優遇に誘導するための企業政治献金などは廃止するべき!・・・
・・・私は特段、共産党や左翼を支持するものはないので、まあそんな主張もわかるけどね・・・くらいなスタンスですし、またエプソンが「自社に有利なように与党に政治献金などはしていない」と信じてはいます。
しかし結果として、これら野党の主張は、不思議なくらいエプソンに当てはまります。売上高?増えてるわけではないですね、内部留保?超無茶苦茶増えましたね?なぜ従業員に還元しないの?税金掛けちゃうよ?(笑)
まあ、なんせ 2024年 3月期決算で「現預金 2.674億円・利益準備金等 6,743億円」もの内部留保が積み上がっていたわけです。私が「もの言う株主」ならばなにを言ったかは明白です。もの言わない株主がアホなだけですよね(笑)それは社長への圧力としては大変なものがある・・・無い方が不思議です。
今回の案件を機にエプソンの中期計画・戦略を見てみました。そのどこにも今回の Fiery買収を示唆するものはありません。ということは本件は「戦略的・計画的」に買収したのではなく「偶発的・持ち込み案件」だったことを示唆しています。
え?じゃ、そういう圧力に屈して、取り敢えずなにやらそれらしい企業を買収したんですかね?テキスタイルプリンターをやっていたイタリアの Robusteli社や、サプライを扱っていた Fortex社の規模では小さすぎて物足りなくて 845億円(買収発表当時のレート:$591mil)も払って $250mil程度の会社を買収したんですか?
この項、続きます