ブラザー:ローランド買収を断念(過去にも DOMINO減損)

2024年5月13日

ブラザーは、3月31日に終了した昨年度の通期決算を発表し、ローランド ディー.ジー.への敵対的買収を断念したことを明らかにした。

ブラザーはローランド ディー.ジー.と協業し、インクジェットプリンターのラインアップ拡充の一環として、大判ラテックスプリンターの開発を進めてきた。 ローランド ディー.ジー.が XYZというプライベート・エクイティ会社を通じたマネジメント・バイアウトを計画していることを発表したとき、ブラザーはインクジェット事業のポートフォリオを完全に掌握するため、1株あたり 5200円の買収提案を行った。 XYZは 1株あたり 5370円まで買値を引き上げたが、ブラザーは買値の引き上げを拒否。

ブラザーはさらに、ローランド ディー.ジー.の「不誠実な行為」と、経済産業省が公表した「企業買収に関する指針」の精神に反する行為を非難した。 これにより、経営陣は提示された価格だけでなく、企業価値も考慮しなければならなくなった。 しかし、ローランドはこの非難を否定し、両社のシナジー効果についてブラザーと意見が一致しないと述べ、代わりにローランドの主要なプリントヘッドサプライヤー(同社は主要サプライヤー Aと呼んでいるが、おそらくエプソン(DtG市場でブラザーと直接競合している))との摩擦により、シナジー効果が失われると主張している。

ブラザーはこれに反論し、「ディスシナジーが発生するという議論には論理のズレがある」と主張し、ブラザーが買収した他の企業はサプライヤーとの協業を継続していると指摘した。 ブラザーは「(ローランド ディー.ジー.の)企業価値の最大化に不可欠な経営陣との信頼関係の構築は期待できない」と判断した。

ローランド ディー.ジー.と共同開発したブラザーのラテックス大判プリンター Wシリーズの行方は定かではない。 しかし、両社が取引において透明性が低いと公然と非難している以上、両社が協力し続けるとは考えにくい。

このWF1-L640ラテックスプリンターは、ブラザーが大判市場に参入する最初の製品である

一方、ブラザーは昨年度の決算数値も発表しており、売上高は 2022年の 8,152億 6,900万円から 8,229億 3,000万円へと 0.9%の微増となり、会社予想の 8,200億円をわずかに上回った。 売上高から売上原価、販売費および一般管理費を差し引いた事業セグメント利益は、604億4百万円から 755億79百万円と 25%改善した。 ブラザーによると、これは主に小型ラベルプリンターをカバーする P&Sプリンティング&ソリューション事業における物流コストの減少、消耗品売上の増加、価格調整によるものだという。

しかし、営業利益は 553億 7,800万円から 497億 9,200万円へと 10.1%減少し、税引き後利益は 390億 8,600万円から 316億 6.200万円へとなんと 19%も減少した。 当然のことながら、基本的 1株当たり利益は 152.67円 123.81円に減少した。

ブラザーは、この大きな格差は、第4四半期に英国ケンブリッジに本社を置く Dominoインクジェット事業の減損損失 282億円に起因するとしている。 これは、国際財務報告基準に基づき、Domino事業ののれんの減損テストを実施したことによるもの。 ブラザーによると、これは英ポンドと日本円の為替レートの違い、金利の上昇に加え、デジタル印刷機器市場の成長が予想以上に鈍化したことによるものだという。

ただし、ブラザーは前年 4四半期にもドミノ事業ののれん代 106億円を減損処理している。

事業セグメント別の内訳を見ると、Dominoの売上高は 1億 800万円から 1億 9,600万円へと微増となったが、事業利益(売上高から販売費および一般管理費を差し引いたもの)は 5,600万円から 5,100万円へと微減となった。 しかし、2022年の営業利益は 5,800万円の赤字で、2023年は 2億 4,100万円の赤字に深化している。 ブラザーは、設備投資需要の軟化によりハードウェアの売上は減少したが、消耗品の売上は堅調に推移したと報告している。 報告書では次のように述べている: 「営業活動の強化や基幹業務システムの更新に伴う販管費の増加等により、事業セグメント利益が減少しました」

ドミノのラベル印刷機「N730i」はブラザーのプリントヘッドを採用している

一方、プリンティング&ソリューション事業は、売上高が前年同期の 4,967百万円から 5,149百万円に、営業利益が 365百万円から 610百万円に増加した。 中国、米国、欧州を中心とした市場環境の低迷により、ハードウェアの売上は減少したが、消耗品の売上は堅調に推移した。 事業セグメント別では、欧州の販売台数は減少したものの、消耗品の販売は堅調に推移した。 と報告書は付け加えている: 「7販売促進費や販管費が増加したものの、物流費の減少や通信・印刷機器用消耗品の販売による売上総利益の増加、価格調整効果などにより大幅増益となった」とのこと。

しかし、工作機械や工業用ミシン、ガーメントプリンターなどを扱うマシナリー事業は、売上高が 9億 6,400万円から 7億 7,400万円に、営業利益が 9,800万円から 2,300万円に減少し、こちらも振るわなかった。 また、中国・アジアでは工作機械の設備投資が急減し、アジアではミシンの需要が減少しているが、米州ではガーメントプリンターの需要が増加しているとしている。

2025年 3月 31日に終了する今期を展望すると、売上高は 6.9%増の 8,800億円、税引前利益は 880億円、1株当たり利益は 246.48円と大幅な伸びを見込んでいる。 パンデミック(世界的大流行)やサプライチェーン危機の悪影響が後退し始めたことで、ブラザーは主に機械事業の改善に期待している。 ブラザーによると、海上運賃を中心とした物流費、部品・材料費ともに下がり始めているという。 しかし、インフレの影響で人件費が上昇しており、販売促進費も上がっていること。 同社はまた、Dominoの売上高と営業利益の改善に賭けているが、そのためにはポンドと日本円の為替レートが大幅回復する必要があるだろう。 いずれにせよ、ブラザーの第 1四半期の数字には、この夏以降に何らかのヒントが得られるはずだ。

ブラザーはまた、産業用インクジェットを含む新たな分野にポートフォリオを拡大する「ビジョン 2030」プロジェクトの最新情報も発表した。 ブラザーは、日本の星崎にインクジェット製造工場を、インドに工作機械工場を新設するなど、新工場建設に多額の投資を行っている。 これは、インクジェット生産拠点の製造能力再編の一環であり、日本での取り組みを高度なシステムに集中させ、コンシューマー製品と産業用製品の両方のコアとなるインクジェット部品を生産し、産業用印刷製品のプロトタイピングと生産システムを統合するためである。 ドミノが英国でどのような地位を占めるかは不明だ。 この計画では、欧州と米国の工場が消耗品とハードウェアのリサイクルに集中し、現地で使用する製品を生産する一方、アジアの工場をインクジェット、レーザー、ラベリング製品の多機能でコスト効率の高い生産センターに変貌させる計画だ。

ブラザーはまた、インクジェットのポートフォリオを大幅に拡大する計画だが、その内容や、大判プリント市場へのアプローチ方法を見直すかどうかについての新しい情報はない。 しかし、M&Aを含む戦略的投資のために 300億円を確保している。

詳しくは global.brotherをご覧ください。

——-(大野註)——-

2024年 3月期(2023年度)には「、英ポンド高の進行によるマイナス影響などにより、のれんの一部の減損損失を計上}ということで 282億円の減損を計上しています。

あまりちゃんとフォローしていなかったので気がついていなかったのですが、昨年度(2023年 3月期(2022年度))にも DOMINOの減損をしていたんですね。Nessanの記事によると 106億円。その決算説明会資料には「営業利益は、金利上昇を受けた割引率の上昇により、のれんの一部の減損損失を計上」とあります。

ちょっと気になって調べてみたら、2021年 3月期(2020年度)にも「ドミノ:のれんの一部について減損損失(新型コロナウィルス感染症拡大により今後の事業計画を慎重に見直し)」とあり金額は 272億円となっています。

なんだか「新型コロナウィルス」、「金利上昇を受けた割引率の上昇」、「英ポンド高の進行によるマイナス影響」と説明が一貫せず場当たりに聞こえてしまいますが、いずれにせよ累計で 272+106+282=660億円もの減損をしたことになります。

ちなみに今回の決算短信のバランスシートで同社の無形固定資産(非流動資産)のうち「のれん及び無形資産」は 1,142億円から 972億円に 170億円減っていますが 282億円減損した一方で 112億円分はなにかを取得したのでしょうか?いずれにせよ「のれん及び無形資産」はまだ 972億円もあります。

ドミノを買収した際に生じたのれんは(当時のバランスシートを見ればわかりますが)手元に無いのでザックリ推定してみます。ドミノの当時の売上高は確か 600億円程度・・・総資産回転率を仮に 1.0とすると総資産は 600億円。このうち純資産は、これもザックリ半分だったとすると 300億円。それを 1,890億円で買ったわけですから、そこで生じたのれんは 1,590億円。これを累計 660億円減損したという話なので、それを引き算すると 930億円・・・これが決算短信上の「のれん及び無形資産」の 972億円とほぼほぼ一致します。

え?まだ 972億円の減損リスクを抱えているということですか?違っていたら是非ご指摘願います。

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