理想科学:東芝テックのヘッド事業を承継

朝目覚めると、ベッドの中でスマホを弄って・・・まず Linkedinの投稿やニュースをチェックするのが、ほぼ日課になっているのですが・・・土曜日の朝は英国在住の Sam Kawaiさんのこんな投稿(記事シェア)で思わず飛び起きてしまいました!4時でした(笑)

東芝テック:ヘッド事業を移管

(原文はこちら)

え?そうなの?・・・こりゃ大変だ!といろいろなことを考えてアタマがグルグルと(笑)・・・で、いろいろなサイトを検索してみました。

今のところ理想科学公式サイトの「お知らせ」のコーナーに「当社が新設する子会社が東芝テック株式会社及び株式会社テックプレシジョンの インクジェットヘッド事業を会社分割(吸収分割)により承継することのお知らせ」という記事と、東芝テックの公式サイトに逆の立場から「会社分割(簡易吸収分割)による理想科学工業株式会社への インクジェットヘッド事業の承継に関するお知らせ」が公開されており、また公式発表を引用した英文記事がいくつか見つかりますが、内容の分析に踏み込んだ記事は見当たらないようなので、ちょっとだけ踏み込んでおきます(・・・先週で仕事納めしたつもりなのに・・・ブツブツ(笑))

両社の発表内容は「事業を切り出す側(東芝テック)」と「それを承継する側(理想科学)」それぞれの視点で「子会社設立及び本吸収分割の目的」が書かれている冒頭部分は当然異なりますが、それ以降の大部分は同じ内容が非常に細かく開示されています。M&Aや事業譲渡などはその対価金額さえ公表されないことも多い中で、非常に珍しい開示と思います。以下ポイントや気になる点を引用します。

1.目的

【東芝テック】:選択と集中・・・本業に集中して非メイン事業を切り出す

【理想科学】:本業の強化

まあ、以前からこういうことが起こるとすれば、東芝テックヘッドのメイン顧客である理想科学に移管する以外にはないと思われて来たわけですし、理想科学としても「食糧安保」の観点からも他に選択肢は無かったように思われます。まあ普通に考えて理想科学が大きく依存している東芝テックのヘッド事業がキヤノンやエプソンに買収されたらと考えると・・・理想科学としては穏やかではいられないでしょうからね・・・

また、このタイミングというのは「東芝の上場廃止」と何らかの関連を想像させます。また英文記事ですが 2019年 1月に既に「香港のアクティヴィスト投資家が東芝に対し『非中核事業の切り出しを要求』」というのがあり、そこに東芝テックの名前が出ています。更に東芝テックの前年度は売上高・営業利益などのオペレーションはさておき、純資産や当期純利益が大きく毀損しています。これもなんらかのトリガーになったのかも知れません。

また理想科学の方の文面からは「ヘッド外販事業は新規事業として維持・継続」となるようですね・・・ここポイントになるように思います(後述)。

2.方法と日程

理想科学が受け皿としての新会社を設立して、そこに東芝テック及び同社の製造子会社から切り出したヘッド関連事業の資産等を移管するという枠組みの様です。

3.対価

大谷翔平君のように「後払い」なんてあるんですかね(笑)

4.分割承継される事業のバランスシート

単純計算ですが、東芝テック(当社)の切り出し部分の純資産(3,121-1,995=1,126百万円)と製造子会社 TPIの切り出し部分の純資産(887-581=306百万円)の合計純資産 1,432百万円・・・対価が 7,120百万円とのことなので「純資産の5倍」のれんとして 5,588百万円が発生することになります。

なお、ヘッドはパテントの塊なので、それをどう評価したのか・どう扱うのかは開示されていません。また東芝テックヘッドは XAARのライセンスを受けている部分もあろうかと思いますが、そのあたりもよくわかりません(XAARはある時期、将来のライセンス料を手前で現金化したいと考えたことがあるようなので、既に一時金支払いでライセンス関係は解消されているかもしれませんが・・・)

5.この事業の損益

営業利益率は 20%と、この手のデバイス事業としては妥当な利益率と見受けられます。

TPIは製造子会社でコストセンターと考えられ、実質的な事業規模は東芝テックの数字を見ておけばいいかと思います。EBITDAではなく、償却費を戻していない営業利益ではありますが、その 1,016百万円の 7倍が 7,112百万円が対価とほぼ見合うので、そういう評価をしたのかも知れません。ただ7年で回収というのは如何せんかなり長めと感じるので、理想科学としては(社内向けには)この事業を取得してテコ入れして利益は増加するというシナリオを書いて、回収原資に加えたかもしれません。

7.人的資産

おお!東芝テックサイドでこの事業に関わっている人たちは「移籍」ではなく「出向」なんですね・・・事業は生産設備があれば継続できるというものではなく、人的資産とその人達に蓄積された経験値無しには不可能というのが私の(一般の)理解です。一方で移籍するには本人の合意(更に状況によっては組合などの合意)無しには進められないので、そのあたりが明確になるまでは「出向(=身分は東芝テック社員)」ということなのでしょう。このままで継続する話ではないだろうと思います。

8.大野コメント

あくまで、自分なりにまだ全容を把握しきれていない現時点での率直な感想ですが:

1)東芝全体の事情などによって、何か起こるとすればこういう形しかないよな・・・とは思っていたので、ある意味妥当な成り行きと思います。
2)また東芝テックのヘッドは、個人的には非常に優秀でユニークなヘッドと評価していますので、新たなオーナーの下での事業継続は悪くない話と思います。
3)敢えて疑問点というか想定される課題といえば:

a)理想科学にとってはインクジェットという分野で、ヘッド(デバイス)事業とプリンタ(完成品)事業の二足のわらじを履いた経験値が無いという点です。かつてはヘッド専業メーカーとして「XAAR」「セイコープリンテック」「東芝テック」「京セラ」「パナソニック」「狭義の)エプソン」が有りましたが、今はそのうちのいくつかは顧客と競合するプリンターも手掛けるようになっています。しかし社内ではそれなりの葛藤があるハズです。

そもそも東芝テックは電子写真事業もやっており、そこがインクジェット機にも進出するというアイデアはあったのだろうと思いますが、結局、電子写真屋というのはインクジェットには手を出さなかったので、社外に活路を求めたわけです。ここで立場が変わり、理想科学は東芝テックヘッドのヘビーユーザーでありながら、ヘッドビジネスも拡大していく・・・ここで起こる葛藤はそのうち体験することになるのでしょう。

b)生産場所はどこになるのでしょうか?TPIのある三島から、理想科学の拠点のある茨城に設備を物理的に移動させるのでしょうか?その際に生産技術をカラダに浸み込ませた製造スタッフは筑波に引っ越すんですかね?あるいは設備は残してそこに生産委託をするのでしょうか?

c)開発はどのような見通しがあるのでしょうか?現状の東芝テックのヘッドは完成度が高く、当面どうこういう話はありませんが、技術開発は継続的に行う必要があり、またその際に軸となる考え方は「自社使用(理想科学)優先なのか?市場のニーズ優先なのか?」という点の葛藤も、いくつか生じるであろう葛藤の一つかと想像されます。またヘッドの開発にはハイレベルな開発人材が必要・パテントも重要・オカネもかかる・・・しっかりしたリーダーシップが求められるところだろうと思います。

いずれにしても、東芝テックのヘッドが新しい船に乗っての船出なので、祝福すると同時に航海の無事を祈りたいと思います。船長(誰?)頑張ってください!

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