リコー:DTGプリンター Ri2000を国内でも発売へ (1/2)

リコーが、海外では既に発売され好評を博している DTGプリンター Ri2000を国内でも発売すると発表しました。今回、これについてその背景から書いてみようと思います

この長引く世界的なコロナ禍にあって、印刷・プリントの世界も変革を迫られていますが、この状況をむしろ追い風として伸びているものの一つが「DTG(Ditect To Garment)」だということはご存知の通りです。プリンターの性能が向上して、速度や品質も大きく進化したことに加えて、更に大きな要因は「ネットビジネスへの参入を容易にするネットサービス」が数多く立ち上がったことで、コンテンツの供給者としてこれまでは埋もれていた無数のクリエイターが、デザインやコンセプトをアップするだけで販売サイトが構築でき、SNSによって拡散し、それを欲しいエンドユーザーが容易にネット購入できるようになった・・・そんな構図があるようです。

そういう追い風に乗って需要が爆発するのに対応して、世界中の至る所に存在する、大規模から小規模まで様々なプリント拠点で、Tシャツがプリントされ、拠点の数も、拠点当たりのプリント枚数も爆発しているわけで、高速機はコーニット、エントリーモデルはリコーの Ri100、日本のメーカーではエプソンやブラザーなどが製品を供給し、中国などでは日本には殆ど名前も知られていないような無数のメーカーが百花繚乱状態で展示会に製品を並べています(・・・そういう展示会も暫くご無沙汰なのが残念・・・)

2016年 1月にリコーが「Anajet」というアメリカの DTGメーカーを買収したと発表した時には、当時はまだコニカミノルタでナッセンジャーをプロモートしていた私にはその意味がよくわかっていませんでした。同じテキスタイルでも、ナッセンジャーは「ロールの布帛に染料インクで連続プリント」、DTGは「半完成品のボディ(無地のTシャツ)に顔料インクで個別プリント」と採用技術が異なり、また顧客層も異なる為、私にとっては「なんか伸びそうだなというニオイはしても、手が出し辛い分野」であったことも事実です。

当時のリコーが、4年後に起こるコロナ禍を予測してたとは流石に思えませんが(笑)「ネット社会・eコマースの時代が既に来ていて、それが更に急加速し、それにフィットする商材は伸びる。2兆円企業のリコーからすれば端数以下の事業規模の会社だが、投資しておく価値はある」と考えていたなら、先見の明というものでしょう。

リコーが買収した「Anajet」は米国西海岸の Anaheimという場所にある比較的小規模な独立系メーカーです。今を時めくショーヘイ・オータニが所属するエンジェルズの拠点といえば「おお!」と思われるかもしれません。エンジェルズは当時はアナハイム・エンジェルズと称していました。ここは以前はエプソンの家庭用プリンターを改造してTシャツプリンターを作っていましたが(・・・そういうメーカー?は世界に無数にあった)、エプソンの政策でそれがやり辛くなり、リコーヘッドを採用して自力(+リコーのサポート)で小型プリンターの開発に着手したのが、リコーとの縁のスタートだったんだろうと思います。

これは「たら話」ですが・・・もし、あの時エプソンが、自社の家庭用プリンタが Tシャツプリンタに改造されて売られている状況を考察し「ならばいっそ、改造など必要のないプリントエンジンだけ供給してあげる。インクもどうせ、今はサードインクを使っているんだから、それを使いなよ」・・・とやっていたら、世界の DTG地図は変わっていたのかもしれません。今のエプソンは、カニバライズヘッドを使っていた中国メーカーにも純正ヘッドを正式に供給しているのですから・・・

(↑↑ 画像はクリックすると拡大します)
これは、Anajet買収から約半年後の drupa2016のリコーブースの一部ですが、ドキュメント・プリンティングにフォーカスしていた印象のリコーが「インクジェットを軸に「産業用プリント」に進出する方向性を明確に打ち出した」イベントとして、大きなインパクトがありました。この当時は、半年前に買収したばかりの Anajetの製品を、まだロゴもそのままに展示していましたが、その後リコーの技術を導入し、一皮むけた製品が Ri1000(国内未発売)です。また、それとは別の素性の製品として Ri100というエントリーモデルも投入しています。こちらは国内にも発売されています(というか、国内はこれまではこれだけでした)。

前職コニカミノルタで、電子写真部門とインクジェット部門の両方に身を置いた私の経験からは、この2機種はモノづくりのコンセプトが全く異なります。右側のエントリーモデル Ri100は「いかにも電子写真部門が、小型 LBPを作るようなノリで開発した」ように見えます。量産すると一個当たりの原価が非常に安価になるモールド部品を多用し、スマートに纏められています。これの成功の判断は、モールド型への投資が回収できるくらいの数量が売れるかどうか?にかかっているでしょう。

一方 Ri1000はモールド部品を使わず、板金の外装や部品で纏められており、複写機や LBPのような大規模な数が見込めない場合にも採算がとれる「賢い設計コンセプト」と見えます。むしろリコーとしては新規参入の市場ということで、ある意味「身の丈に合った数量計画」の上にこういう設計コンセプトを考えたとすれば、画期的なことと思います。企業には「企業文化」があり、それは主力事業によって作られます。企業の大半の人が「モールド型に巨額の投資をして、整備された販売チャネルを通じて数十~数百万台売り、サプライが付いてくることで投資も改修できる」・・・そういう発想が支配するものですが(「一品料理系」の会社はその逆の文化が支配する)、リコーにおいてそれとは異なる発想が出来たということに、私としては企業の懐を感じました。同社は今年4月に組織を改正しましたが、こういう発想ができるという「獲得遺伝子」は是非大事にしてもらいたいなと思いますね。

さて、今回発表された Ri2000は、上記の Ri1000をベースにした上位機種です。海外では既に発売されて主力機種として育っていますが、ここで日本でも発売となります。国内では何故 Ri100のみで何故 Ri1000を売らないんだろう?・・・と、永らく不思議に思っていましたが、国内にはエプソンやブラザーなどの先行者がおり(まあ海外にも居るんですが(笑))競合関係を見ながら Ri2000に集中して製品投入するという考え方なのかもしれません。リコーの国内販社は基本的に従来のリコーの企業文化の担い手であったと思いますが、こういう製品を機に「獲得遺伝子」としての異なった文化も上手く吸収して、日本の DTGの市場を活気づけてもらえたらいいなあと思います。

長くなりましたので、製品に関する情報は別項とします。

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