エプソン:新しいヘッドとパートナーシップを提供

エプソンは、グラフィックスと産業用プリントの両市場で OEMと提携するという新たな意欲に加えて、いくつかの新しいプリントヘッドを発表しました。
Epson offers new heads and partnership
Epson has announced several new printheads alongside a new willingness to partner with OEMs in both graphics and industrial printing.

Duncan Ferguson, executive director for EpsonÕs Professional Printing and Robotics division in Europe.

新しいヘッドには S3200が含まれます。S3200はエプソン自身が使用していますが、ここで初めて OEMに提供されます。その中心には、PrecisionCore MicroTFP(Thin Film Piezo)チップがあります。これは、33.8mmラインで 1インチあたり 600ノズルの割合で(600npiということ)、400ノズルを 2列、合計 800ノズル備えています。これは 50KHzの周波数で 1.5から 32.5ピコリットルの液滴サイズを生成します。エプソンはこれらのチップを基本のビルディングブロックとして使用して各プリントヘッドを製造します。すなわち、S3200には 4つのチップがあり、2列 2列に千鳥配置されて、全部で 3200個のノズルを持つ S字型になっています。このヘッドは 2つのカラーチャンネル(インクチャネル)があります。
The new heads include the S3200, which Epson itself has used but is only now making available to OEMs. At its heart is a PrecisionCore MicroTFP (Thin Film Piezo) chip, which has two rows of 400 nozzles, 800 in total, at a rate of 600 nozzles per inch on a 33.8mm line. This produces drop sizes from 1.5 to 32.5 picolitres, on a 50KHz frequency. Epson uses these chips as the raw building blocks to construct each printhead. So the S3200 has four chips, staggered in two rows of two to form an S-shape with 3200 nozzles in all. This head takes two colour channels.

S3200の 2.65インチの小型バージョンの要望から生まれた、まったく新しい小型バージョンの S1600もあります。そのため、2つのチップがあり、同じ S字型構造を形成するために2列にまたがって配置されています。これは、複数のヘッドをステッチして広いアレイにするのに非常に適しています。仕様は同じですが、ノズル数は 1600です。水性、溶剤型、UV硬化型のインクに適しています。
There’s also a brand new smaller version, the S1600, which resulted from requests for a smaller 2.65ins version of the S3200. So it has two chips, staggered across two row to form the same s-shaped structure, which lends itself very well to stitching multiple heads together for wide arrays. It has the same specification but with just 1600 nozzles. It’s suitable for use with aqueous, solvent and UV-curable inks.

さらに、エプソンは、水性インクおよび溶剤インク用に設計されていた以前のバージョンの L1440 MACHヘッドの UVインクにも対応するバージョンをリリースしました。ヨーロッパのエプソンの Professional Printing and Robotics部門のエグゼクティブディレクターである Duncan Ferguson氏は、次のように説明しています。「溶剤バージョンヘッドで UVインク使用している人々がいます。しかしこの際、インクが十分に供給されない際にヘッドが壊れるという事象を数多く見てきました。」ここうしてエプソンは、より広範囲のインクタイプに対応するために、主にメカニック、チューブおよびコーティングに変更を加えました。MACHヘッドには 180ノズルが 2列あり、360dpiの解像度が得られます。

■ 大野註:完成品から剥ぎ取ったヘッドに UVインクを使用している(中国などの)事例を指していると思われます。”cracking a lot of heads if the ink wasn’t quite there.”が何を意味するのか不明ですが、インクのスタベーション(供給不足)が起こる=所謂「空撃ち」状態の際にヘッドが壊れる」という意味に取れます。空撃ちでヘッドが壊れるのは、出射されるインクが無く、熱を逃がしてくれないからで、「メカニック、チューブおよびコーティングに変更を加え」て対応するものかどうか・・・このあたりは不明です。)
In addition, Epson has released a version of its older L1440 MACH head that’s also compatible with UV inks where it was previously designed for aqueous and solvent inks. Duncan Ferguson, executive director for Epson’s Professional Printing and Robotics division in Europe, explains: “People we’re using the solvent version for UV and we have seen that they were cracking a lot of heads if the ink wasn’t quite there.” Thus Epson has made changes mainly to the mechanics, tubing and coatings to cope with the wider range of ink types. The MACH heads feature two rows of 180 nozzles, giving 360dpi resolution.

This slide shows the core lineup of printheads that Epson is now offering to OEMs.

おそらくもっと重要なことは、エプソンがそのヘッドを他の製造業者に供給するという新たな取り組みです。Ferguson氏は、次のように説明しています。「基本的に、インクジェット技術を使用する人々の大幅な拡大により、プリントヘッドの開発と販売に注力すればビジネスチャンスがもっともっと増えるということに気づきました。」
Perhaps more significant is Epson’s renewed commitment to supply its heads to other manufacturers. Ferguson explains: “Fundamentally we came to the realisation that the massive expansion in people using inkjet technology meant there were so many more opportunities that it makes sense for us to focus on developing and selling the printheads.”

エプソンのプリントヘッドはかつてさまざまな大判プリンタベンダーの間で広く使用されていましたが、2008年頃、Precision Coreヘッドの導入により、自社製品に十分なヘッドを確保するために外販を制限しました。これはまた、SurePress L6034ラベルプリンタと Fシリーズの昇華型プリンタの発売と同時に起こり、エプソン自身のプリンタの売り上げは大幅に拡大しました。しかし、エプソンのプリンティングソリューション部門の副総経理および副最高執行責任者の細野聡氏は、次のように指摘しています。「昨年 7月に、すべての需要を満たすために建設された新しい工場の建設が完了しました。」それは 47,000平米の面積の工場で、エプソンの生産能力は 300%以上増強されます。
Epson printheads were at one time widely used amongst various large format printer vendors but around 2008, with the introduction of the Precision Core heads, the company restricted its sales in order to have enough heads for its own products. This also coincided with the launch of the SurePress L6034 label printer and the F-series dye sublimation printers, which greatly expanded Epson’s own printer sales. However, as Satoru Hosono, deputy general administrative manager and deputy chief operating officer for Epson’s Printing Solutions division, pointed out: “In July last year we completed construction of a new factory built to meet all the demand.” It’s a 47,000 sqm facility that gives Epson 300 percent more production capacity.

Ferguson氏は、エプソンは太陽光発電からラミネートまでのさまざまな産業用途を検討しており、「何ににでもトライして構わない」と考えており、最終的にはうまくいかない場合もあると認めています。彼は、次のように述べています。「基本的考え方は、エプソンが提供できるアプリケーション(分野・用途)の数を増やすことです。従って優先されることは、私たち自身が可能な新しい用途の探索、あるいは用途の拡大です。私たちは市場の一部をカバーしていますが、市場全体は私たちがしていることすべてよりはるかに大きいのです。多少の重複があるかもしれません、そして、それについて現実的でなければなりません。その目的は、単に競争を生み出すのではなく、アプリケーションを拡張することです。」

■ 大野註:”to look for new applications or expansion of applications that we might be doing ourselves.” この部分が何を意味しているのか?・・・サラッと書いていますが、ちょっと引っ掛かります。素直に読めば「自分達でやれるかもしれない用途・分野(application)を探索したり、拡大したりする(為に)」ということですが、それはかつて MMR(MIMAKI・MUTOH・ROLAND)にヘッドを供給しワイドフォーマット機市場や、エコソル市場を創出・開拓させ、そこが大きくなってきたらエプソンが「自分達」のプリンタを投入したという歴史があり、今回もそれをやろうと意図しているのかどうか?そこは確認したいところです。これは記事を書いた Nessanに訊くというよりは、エプソンの然るべきポジションの方からのコメントを歓迎いたします。)
Ferguson says that Epson is looking at various industrial applications from solar power to laminates and is “willing to investigate anything” and accepts that some things might ultimately not work out. He adds: “The idea is to expand the number of applications that we can satisfy so the priority is to look for new applications or expansion of applications that we might be doing ourselves. We cover part of the market but it’s much bigger than all the things that we do. There may be some overlap and we just have to be practical about that. The intention is to expand the applications rather than just create competition.”

当然のことながら、これらの新しい産業用アプリケーションは多種多様な液体を使用する可能性がありますが、Ferguson氏はエプソンのヘッドがこれに対処できると確信しており、S3200および L1440の UVインク向けの改善の事例を指摘します。エプソンはまた、単にインク室ではなくノズルプレートレベルでのインク再循環をサポートし、より粘性の高い流体やより重い粒子を含む流体を処理できるようにする S3200の新バージョンの開発にも取り組んでいます。したがって、チャンバはインク用のポンプを作るために取り除かれます。そうでなければそれは同じ 4×800ノズルのヘッドです。
Naturally, these new industrial applications will likely use a range of different fluids but Ferguson is confident the Epson heads can cope with this, pointing out the improvements to the UV handling in the S3200 and L1440. Epson is also working on a new version of the S3200 that will support recirculating at the nozzle rather than just the ink chamber and will be able to handle more viscous fluids and those with heavier particles. Thus the chamber has been removed to create a pump for the ink. Otherwise it has the same 4×800 nozzles.

Satoru Hosono, deputy general administrative manager and deputy chief operating officer for EpsonÕs Printing Solutions division, speaking at Epson’s press conference at Fespa 2019.

ただし、より特殊な(特化した)液体を扱う場合は、更にテストが必要になります。エプソンは、サードパーティ製の液体をテストするために使用できる日本に研究開発施設を持っていますが、Ferguson氏はまた、同社はインクのコンパチテストが出来る他のインク製造業者との共同パートナーシップの確立も検討すると述べています。彼は「この分野に将来投資する意欲がある」と付け加えました。
However, working with more specialised fluids will also require more testing. Epson does have R&D facilities in Japan that can be used to test third party fluids but Ferguson says the company will also look to set up collaborative partnerships with other ink manufacturers, which might also have their own testing capability. He adds: “There’s a willingness to invest in the future in this area.”

細野氏はさらに踏み込んで、エプソンはヨーロッパの OEM顧客をサポートするためにヨーロッパのセンターを建設することを検討していると語りましたが、これは英国ではないだろうとも述べています。

■ 大野註:これは大野が質問しました。先行するヘッドベンダー、即ち京セラ・セイコープリンテック・リコー、或いはコニカミノルタ・東芝テックなどは自社駐在員あるいはパートナーが、ヘッドを買ってくれる顧客のプリンタ開発を支援する技術サポート拠点を持っていることを念頭に置き、「ヘッドビジネスでは、顧客のプリンタが売れて初めてヘッドも売れるわけで、顧客のプリンタ開発を支援する・顧客のプリンタ事業が成功する活動が重要だが、そこはどう考えているのか?」という質問です。)
Hosono goes a step further, saying that Epson is considering building a European centre to support European OEM customers, though he also says this is unlikely to be in the UK.

S3200、S1600および L1440と同様に、エプソンは F1440も製造し続けており、これは OEMにも利用可能です。Ferguson氏は次のように述べています。「コストが比較的安く、実績があり信頼性が高いため、多くの人が使用しています。」似た仕様の L1440と同じ世代で、最大 8つのインクチャンネルが使えます。ただ L1440は 8つのチャネルを立方体(cube)形状に配置して、複数のヘッドを 1列に並べることができる別のハウジングを持っています。
As well as the S3200, S1600 and L1440, Epson also continues to make the F1440, which is also available to OEMs. Ferguson says: “A lot of people use it because the cost is relatively low and it’s proven and reliable.” It’s the same generation as the L1440, with similar specifications so that both heads allow up to eight colour channels, but with the L1440 having a different housing that puts the eight channels in a cube shape that allows multiple heads to be slotted together in a line.

エプソンの Micro Piezoインクジェット技術の詳細および Micro Piezoヘッド製造技術の詳細は、こちらをご覧ください。
You can find more details on Epson’s Micro Piezo inkjet technology here and on the Micro Piezo head manufacturing technology here.

大野感想:私の FESPAの記事にも書きましたが、一つには「誰にでも売るのか?」「エプソンインクとセットで売ることになるのか?」「インクをバインドしない場合はロイヤリティを取るのか?」・・・というような質問に集約されていましたが、殆どが「ケースバイケースで」「プロジェクト毎に」みたいな回答を Ferguson氏がしていたところを、再度エプソン自身が「どういうケースにはどうで、どういうケースではどう対応する」「どういうプロジェクトではどうで、どういうプロジェクトではこう・・・」みたいなことをしっかりと自問自答して明確なポリシーを持つことが必要かと思います。ケースバイケースは「決まっていない・決めていない・決められない・決める人がいない・決まっているのかも知れないが自分は聞いていない」ということのマイルドな表現ですね(笑)

かつてのように MMR(MIMAKI・MUTOH・ROLAND)の限定三社を相手に、エプソン本社が対応していた時代は「明確なポリシー」が有って、それがブレることはなかったかと推察しますが、世界を相手に面展開するつもりならば、顧客との接点となる部隊が明確なポリシーを共有して、現場でスピード感を持って即断即決することが重要です。「持ち帰って、本社(上司)に確認して回答します」は最悪です。何故なら、殆どのヘッド顧客は小規模なオーナー企業でオーナー自身が意思決定したり、大企業でも現場に意思決定の権限が与えられているからで、そういう人達にとってみれば「この程度のことを本社に確認しなければ決められないような小僧を送ってきたのか!」となるからです。

上記の記事には「そして・・・ここにはあえて書きませんが「あの問題はどうなのか?」「あの課題には気が付いているのか?」「あれは?」・・・ヘッドビジネスでは先輩企業群が直面し、それなりにそれらを乗り越えて来てそれぞれの現在のポジションがあるわけですが、「オープンなヘッドビジネスに、最後発で参入する」としたエプソンが、そういう問題にいつ直面し、どういう哲学を持ってそれらを乗り越えるのか?注目していきたいところです。」とも書きました。

インクジェットがもっと世の中に普及して欲しい、それがトリガーとなって既存の産業構造の変革が進んで欲しいと願っている私にとって、「あの」エプソンがヘッドをオープンにすることは大歓迎です。技術が優秀なことは論を待たないので、是非明快なビジネス哲学で、成功して欲しいものと願っています。


【ジョークをひとつ】
「持ち帰って、本社(上司)に確認して回答します」・・・で、ヨーロッパでのエスニックジョークを思い出しました。某有名商社のフランス現地人の創作と聞きます。

無人島(英語では a dessert island)に、かつて男が流れ着き、そこにもう何年も住み着いていた。助けを待っているのだが、極く小さな島で誰も気が付かない。そこに、ある嵐の翌朝、近くで船が沈んだのか、全裸の女性が流れ着いた。さて・・・

男がフランス人だったら?・・・そんなこと、訊くだけ野暮というもの(笑)
男がアメリカ人だったら?・・・まず弁護士と保険会社にコンタクトしてから(笑)
男が英国人だったら?・・・誰かが二人を紹介してくれるまで何事も起こらない(笑)
男がオランダ人だったら?・・・もう一人、オトコが流れ着いて「割り勘」できるまで待つ(笑)
男がドイツ人だったら?・・・上官の「突撃!」という命令を待つ(笑)
男がドイツ人だったら(2)?・・・エイズ撲滅に関して延々と議論をして何も起こらない(笑)

さてさて、男が日本人だったら?日本人駐在員だったら?・・・

これ、オチが秀逸なので、宿題とします!皆さんも考えてみて下さい。欧州では結構有名なジョークなので、ご存知の方はネタバラシしないように(笑)明日、オチを書きます!

関連記事

ページ上部へ戻る