「居職」と「出職」

小学校の同級生に野田晴彦君という人がいます。出会ったのはもう60年も前のこと・・・子供の頃は昆虫博士だった記憶があり、その後関西の私立受験校から阪大基礎工学部に進学、あるメーカーに研究職として勤務したあと、ふとしたきっかけからプロの笛の演奏家となって作曲・演奏にと活躍している才人です。最近、彼の facebook投稿に非常に面白い文章を見つけましたので引用させて頂きます。彼は楽才だけでなく、文才もあったんだと羨ましい限り!(野田晴彦君の公式サイトはこちら)

<居職>
作曲家として劇伴音楽(テレビ番組や舞台演劇の背景音楽のこと、ゲキバンと読みます)を日々作曲していた頃、友人の小説家に「作曲家もイジョクだね」と言われ「居職」という言葉を知った。1日じゅう家に居てするしごとのことを言うそうだ。指物師、焼き物師、竹細工職人などのしごと。それに対して、大工とか左官など外に出かけて行ってするしごとは「出職」(デジョク)というらしい。

「だから、オレ、小説家も居職だよ」「そっか、家に居てピアノの前か机に向かって五線紙に楽譜書いてるから、オレも居職やね」

居職だった私が40歳すぎて笛に出会って、コンサート活動をするようになった。リハーサルもコンテンツ創作も家に居てするけど、それは準備作業であって、収入にはならない。大工さんが家でカンナの修行するのと同じ。外に出かけて行って、準備作業の成果を披露して収入に繋げないとね。だからコンサート活動は「出職」。早く出職にカムバックできる日がくることを祈りつつ、リハーサル、創作に励むこの春。

自粛要請による「家におこもり」ってタイミングで思い出した言葉「居職」。元祖テレワーク?ちょっとちがうな(笑)。ちなみに、作曲は、今でも未だに、鉛筆と消しゴムで五線紙に書いてます。

← 世界の様々な種類の笛を自在に吹きこなす才人

なるほどな~、「居職」と「出職」か!初めて聞く言葉だったけど、確かに仕事の性格をピンポイントで表現できてる新鮮な響きですね。

ちなみに会社員現役のころの自分は新規事業の開拓という役割を担っていたので、社内に居る「居職」では仕事にならず、海外を中心に講演やら顧客回りなどをやる「出職」が主体だったワケです。もちろん事業部のマネジマントという「居職」の部分はありましたが、そこは任せて安心な部下もいたので、軸足は「出職」!会社を卒業して個人事業主として独立すると更に「出職」度合いが高くなりました。社内のマネジメントが不要になったので・・・

ところが現在、展示会やコンファレンスは全滅し、個別面談でさえほぼ不可能、外出自粛でこの数週間は、近所のスーパーに生鮮食料品買いに行く以外は、毎日家に籠ってパソコンに向かう日々・・・形式要件では完全に「居職」になっている状態です。

しか~~し!気分的には全く「居職」ではなく、逆に究極の「出職」になった感じなんです。オンライン会議ツールで、いつでも誰とでも顔を見ながら話ができるし、そのまま「一杯やる?」とか言って缶ビールをプシュッ(笑)。皆在宅しているので「海外出張中でお会いできるのは2週間後」ということもない。それぞれ異なった時差のある英国とインドの講演者を招待することを思いついて、4日後には70人もの参加者を集めてオンライン講演会を実現出来てしまう・・・

今また、欧州各国、中国、香港、アジア諸国、北米の東と西・・・あちこちにいる友達を一人ずつオンライン講演会のゲストになってもらって、各地のコロナの状況と、これが収まった後に備えて何をやっておけばいいのか?というディスカッションをしよう。これ、昨夜思いついて、既に5人と話をして第一回目を次の木曜日の朝にセットできました。欧州は今イースター休暇なので、火曜日以降また何件かが決まる見込みです。

今年1月末にリアルなコンファレンスも企画して実現、かなりの好評を頂きました。その後大変なことになった中国からの講演者、出展者も数名おり、一方で「どうも今アジアはヤバそうな気配がするので今回はキャンセルする」という海外からの参加登録者も数名いて、今思い出せばギリギリ最後のタイミングだったわけですが・・・あの、2日間のコンファレンスを準備する為に、物理的にあちこちを走り回って数か月かかったんです。それが、一瞬でできてしまいます

勿論、リアルなコンファレンスとオンラインのそれは別物です。コミュニティに属するリアルな人々が一堂に会して、顔見ながら様々な繋がりを構築するネットワーキング・・・これはオンラインでは再現が難しいでしょう。VRとか ARで実現可能というハイテク思考の方もいるようですが・・・どうかな(笑)私は、やはり別物と考えて、コロナ危機が収束したら、またリアルなコンファレンスも主催しようと思っています。

しかし、この家から一切出ず、PCに向かったままという究極の「居職」で、会いに行くという移動時間や時差ボケも無く、世界に散らばる友達の誰とでもいつでも会えて、かつ複数で同時にディスカッションが可能で、講演会まで開催できてしまうという究極の「出職」・・・知ったばかりの2つの言葉の概念が、もう変わってしまいました。

久しぶりにワクワクな体験をしている外出自粛中の引き籠り高齢者であります(笑)

関連記事

ページ上部へ戻る